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異世界は生きている  作者: 宮原 匠
第1章 驚異的な適応能力
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第23部分 呼び出し

4/13:誤字の訂正や一部の変更を行いました。

 少し前を歩いていたハルに早足で追いつき、話しかけた。ここは寝泊まりする場所を持っていなかったり家が遠かったりする人が借りることが出来る建物だ。ハルやダッチを含むたくさんの生徒が寝泊まりに利用している。

「ハルっ、おはよっ!昨日はぐっすり寝られた?」

「うん、よく寝られたよ」

昨日は冒険者ギルドでの手続きやたくさん歩いたこともあり、普段なら布団に入っても相部屋の仲間の物音などでしばらく寝付けない。だが、昨日に関しては布団に入ると同時に眠りに落ちた気がする。

「そうか!じゃあ今日も授業頑張ろうな」

「そっちもね!」


 手短に挨拶と短い会話を交わしてダッチとはすぐ分かれた。しばらくするとまたハルの背後から声がかけられる。

「さっき会話していたのは誰?一緒の学年に居たっけ?」

「おわっ、びっくりした。おはようエルマン。なんて言ったらいいんだろ?」

「いや、そんな難しく考えなくてもいいよ~」

「簡単に言ったらお世話になっている人かな?」

「ふ~ん、そうなんだ。ところで昨日どこか行っていたの?」

 昨日は珍しく、普段なら図書館に入り浸っているハルの姿がどこにもなかった。だからどこに行っていたのか気になっていたので次の日に会ったら聞こうと決めていた。

「冒険者ギルドに登録しにね」

「ってことはハルも冒険者ってわけか!」

「依頼とかやったことないから登録だけだよ。身分証明書にもなるらしいからね」

「エルマン、ハルも!授業始まるから早く教室行こうよ」

 1限目が始まる前までまだ時間はある。どちらにせよ早いに越したことはないので2人は会話の途中だったがシーリンの呼びかけに応じ、早足で教室に向かった。


―・―・―

 今1限目の授業が終わり、20分間の休憩が生徒らに与えられていた。休憩にしては長い気もするが、学校では生徒同士のコミュニケーションを大切にするため長く設けられている。

「朝話してたんだけど、ハルが冒険者になったぞ」

《お~!》

 シーリンを除く、いつものメンバーで集まりワイワイ話している。まず初めに出た話題と言えばやっぱりハルの冒険者デビューだろう。初めの話題から最高潮の盛り上がりを見せる。

「今度みんなで依頼受けてみる?」

「いいね!近いうちに絶対行こうよ!」

「あともう少しで長い休み期間に入るし、その時にする?」

「そうしよっか。この中で頭いい奴は大丈夫だろうけど試験とかあるもんね」

「うわ~言うなよそれ。思い出しちゃった」

 休みに入る前にいろいろな科目で行われるおさらいを兼ねた試験が待ち受けている。皆内心は理解しているが現実を見たくないがゆえに誰も口にしていなかった。いつものようにエルマンが空気を読まず言ってしまう。

「まだみんな冒険者階級低いだろうから、簡単な以来しか受けることできなさそうだけど」

「行くことが楽しんだよ!ヒュールも一緒に行こうよ」

「みんなが行くなら行こうかな」

「よく言った!みんなで冒険決定だな」

「ハル、なんかやらかした?」

 教室に戻るとシーリンは真っ先にハルのもとへ行き、深刻そうな顔をして話しかける。「いや、やらかしたって急にどうしたのさ。全く身に覚えないよ」

「エルクレア先生が放課後に生活保護ギルド長事務室に来るようにだってさ」

「どうした、何を2人で話してるのさ?」

 話に夢中になるあまり、しばらく話し込んでいた。少し落ち着いて視野が広くなってくるとハルとシーリンが少し離れた場所で会話をしていることに気づき何を話しているのかを聞いた。ついさっきまで最高潮の盛り上がりが一気に盛り下がって静かになった。

「放課後、ハルがここのギルド長室に呼び出されているんだよ」

「悪いことでもしたのか?よっぽど何かない限り呼び出されないと思うけど」

「いや、本当に身の覚えないって!勝手に話し進めないでよ~」

《あはははっ!》

「何言われたか明日にでも教えてよ」

 みんなの笑いのネタにされふてくされるハルだったが、冷静になってみるとお咎めを受けるような心当たりはないので何を言われるのか少し怖かった。

「はいはい、言える内容だったら言うよ」

「呼び出される理由が怒られるような内容じゃないといいな」

「そうだね。そのことを切に願うよ」

「2限目は、ギラン先生の授業か。そろそろ行かない?」

 ヒュールの呼びかけにほかの人もうなずいたり、荷物をまとめ始める友人。1限目は座学だったが、2限目はギラン先生が主導の実技。今日は雲が多く、太陽が照り付けていないので絶好の実技日和だろう。

「そうしよっか」


ー・ー・ー

 ギラン先生による日なたで直射日光を浴びているような熱い指導が今日も始まる。

「今日も2人一組で模擬戦をやる!それと、俺が決めた奴と対戦するように」

《はーいっ!》

 返事と共にそれぞれが邪魔にならない程度に離れて準備ができたところから木剣で組み合う音がそこらかしこで聞こえ始める。

そして30分後。広い運動場でもよく響く凛とした声で止める合図を出した。

「やめ!休憩にする、よく水分を摂るのと汗を拭くように」

「終わった〜いてて、やっぱハルは強いね。勉強は普通なのに」

 模擬戦の後半あたりに隙を突かれてやられた打撲痕を摩りながら自分の不甲斐なさと実力不足を痛感する。疲れていたからという言い訳は実戦では通用しない。とっさの判断で軽い打撲で済んだが隙を突かれた悔しさは拭いきれない。

「ちょっと、褒めるなら最後まで褒めてよ」

「俺なりの仕返しだよ」

「ヒュール、前よりも強くなってると思うよ。やりにくくなったし」

「本当か!嬉しいよ、でももっともっと強くなりたい」

 たまにではあるが冒険者として依頼をこなし、昇級するための鍛錬を積んでいる。このままではあとから登録したハルに追いつかれるどころか追い抜かれてしまうのではないかという焦りがあった。

「謙虚だなぁ。エルマンだったら、もっと自慢したりするよ」

「ふふっ、確かにあいつだったら褒められたらみんなに自慢しに行くだろうからね」

「俺はそんなことしない!」

 エルマンが後ろから強く言い放った。いつもの言動を考えると全く説得力が無く、皆に笑われてしまうのだった。

「またまた〜」

「そこ!喋ってないで集合しろー。休憩は終わりだ」

「今日はここまでにする!模擬戦で疲れただろうが、自分の直すべきところを直して、常に進歩できるように頑張って欲しい。最後まで気を抜くことなく戦いが終わるまで、勝とうという意志を強く持って、諦めず取り組むように!」

《はいっ!》

 授業終わり、ヒュールはハルとの模擬戦によってまだ少ししびれている手を眺めながら実力差を今日も身をもって感じある種の感傷に浸っていた。


ー・ー・ー

 途中で昼食をはさみ3限目4限目と授業を受け、15時ぐらいと放課後だ。1限目と2限目の間の休み時間に伝えられたギルド長室に行かなければならない時間がやって来た。

「今から、か」

「よっぽど問題を起こした人が呼び出される場所だけどその点ハルは心配ないと思うよ」

「そうそう、問題行動なんてないからな」

「だとしても何を言われるかわからない以上怖いよな」

「さて!行ってくる。また明日な!」

「ハルに明日はあるのかな?」

「おい!悪い冗談はよしてくれよ」

 教室を出て、職員室の奥にあるというギルド長室目指して歩き始める。道中は何を言われるのか戦々恐々しながら色々考えているうちにギルド長室の重厚な扉の前へとやって来た。

本当だったら魔法省に行って回復薬を買う予定だったが、話が長引きそうな気がしてならない。

「本日呼び出しを受けたハルです。入室の許可をください」

「どうぞ、入りたまえ」

 扉を3回叩いてしばらくすると部屋の中から入室の許可が聞こえる。重厚感ある扉ではあったが意外と力を掛けることなく開いた。

「失礼します。ハルと言います」

「ハル君だったね?そんな緊張しなくていい、こっちも緊張してしまうから」

「わかりました。ん?レアニダース先生がいる!」

 緊張して生活支援ギルドの長の姿しか視界に入っていなかったが緊張も少しほぐれた。気づけば部屋の隅の方に最近会っていなかったレアニダース先生がいた。

「久しぶりだな、元気だったか?」

「おかげさまで元気に生活しているよ」

「オーレック、すまないがあともう一人来るからもう少し待っていてくれ」

「わかった、待とうじゃないか」

5分ほどたった頃、この部屋に勢いよく入ってくる…勢いあまって部屋に敷いてあるカーペットに躓き、盛大に転倒するエルクレア先生。

「すみませ〜ん。遅れました!キャフッ」

「「大丈夫っ!?」」

 ハルとレアニダースが同時に心配する声をかける。そんな2人の心配をよそに何事もなかったかのように立ち上がり擦りむいた箇所に回復魔法を掛ける。

回復ヒールふぅ....遅れてすみません」

「これで全員揃ったね。エルクレア、大丈夫か?」

「ええ、まあなんとか回復ヒールで」

「そうか....前置きも面倒だからレアニダース。アレ、持ってきてくれ」

 部屋の隅に置いてあった鞄を机の近くへもってきて中から厳重に梱包された包みを取り出した。中から出てきたのはハルがこれまで見てきたものとは別の古代文献だった。

「パルメキア帝国古代文献です。図書館に置いてあるのとはまた別の物です」

「これと別のものだが彼から私に無断で借りていたそうだね?まさかとは思うが読める?」

「時間はかなりかかりますが、読むことはできますよ」

 オーレックからされた質問を肯定し、読めるのは読めるのだがスラスラとはいかず少しずつしか読めないことを伝える。物事全てが都合よく事が運ぶとは限らないものだ。

「そうか、そうなんだな。そこでなんだが、とりあえずこの一行を読むことができる?」

「少し待ってください。ダン…ダンジョンブレイクと書いてあります?初めて聞く単語」

 ダンジョンブレイク、ハルがこの世界に来てから初めて見聞きする言葉だった。言い換え等が存在するのかどうかは分からない。とりあえずは解読できたので、横で今か今かと待ちわびていた先生方に伝える。

「ほっ、本当か!本当にダンジョンブレイク、と書いてあるんだな?」

「冒険者の日記とかですかね?かなり走り書きで読みにくいけど」

「エルクレア、口開きっぱなしだよ」

「驚くのも無理はないですけどね。面白半分で借りていたと思っていたけど」

「今日は突然呼び出してすまなかったね。今日はありがとう」

「ありがたいですがもういいので?」

 ダンジョンブレイク、伝承では栄華を極めたパルメキア帝国が滅亡するきっかけになったと伝えられているが真相は定かではない。仮にもしダンジョンブレイク、に対する言及がこの文書に為されているのであれば考古学が一気に進むことになるだろう。文字の解読が進めば考古学の更なる進展も十分にあり得る。

「ああ、今日は本当にありがとね」

「ちょっと読んだくらいですけどお役に立てたようで何よりです」

「もし君がこの書物を本当に読めるとするならば凄いことだと覚えておいてほしい」

「わかりました。失礼します」

 思った以上に早く解放された喜びを表情に出さぬよう必死に押し殺しながら喜んだ。回復薬を買いに行けなかったのは残念だが部屋に帰るまでの足取りは軽い。


ー・ー・ー・


 ハルが去ってから、部屋に残っている3人の先生方。ハルがパルメキア語を解読していることがほぼ確実になった今、ハルの処遇についてどうするべきか話し合っている。

「エルクレア先生はどう思いますか?」

「どうって言われても。ただの考古学が好きなだけですし」

「そう、だよな。まさかとは思ったが本当だとはな」

 自分だったら、王都から直々にお呼びがかかったと言われても何ら疑問に思わない。それほど不可能だと言われている解読をいとも容易くやってのけたことは驚きしかない。

お前が言っていたことは本当だったな。今度飲みに行ったときに奢ろう。

「そりゃ嬉しいね、遠慮なく注文させてもらうよ」

「ほっ、ほどほどにしてくれよ。さて、これを戻してきてくれ」

「了解です。また戻ってきたほうがいいですか?」

「いや、もう帰っていいぞ。エルクレアもね」

「わかりました!では失礼します」

 エルクレアは何かを考えているのかお辞儀だけして、レアニダースと共に去っていった。

 自分も早くかわいい息子の待つ家に帰りたいところだが、机に目をやればまだ少し仕事が残っている。腹をくくった後、切りの良い所か終わらせれそうなら終わらせてから帰ろうと資料等を広げデスクワークへと戻った。


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