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魔王は世界を救うのか  作者: 戦部孔雀
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ジンとの話

ハロルドとカフカ以外と話して来いと言われたが何を話すべきかも分からず、しかし部屋に引きこもっている訳にもいかないのでとりあえず部屋を出た。


巨木をそのまま使ったこの家は地上三階、地下一階で出来ている。

一階は共有空間でリビング、キッチン、風呂などがある。

二階は先日全員が集まって話し合いをした会議室がある。基本は物置だ。

三階は各々の自室がある。が、ハロルドとカフカは一緒の部屋で過ごしていることが多い。

地下は工房がある。ゼノが鍛治や武器の修繕をしていたり、ジンが怪しい薬を作ったりしている。


一階に降りれば誰かしらいるだろうかとリビングを除いていると読書をしているジンを見つけた。


「ジン爺。」

「おお、ユナン。待っておったぞ。」


はて、自分は彼と何か約束でもしていただろうか。


「儂の千里眼ならお前さんがどこにおって何しとるのかもお見通しじゃよ。」


【エルフ】の《ジン》は数多くの魔眼を持ち状況に応じてその力を入れ替えることができる。

ユナンの知っている限り彼は【千里眼】【未来】【過去】【透過】【鑑識】の魔眼を持っている。

ちなみに【魅了】や【石化】といった状態異常を引き起こすのは邪眼と呼ばれ魔眼とは区別される。


「この森全体の様子も難なく見れるぞ、疲れるし無意味だからやらんが!」


ジンはエルフの中でも特にオドを多く持つハイエルフと呼ばれる存在だ。エルフの突然変異した存在だとかエルフの祖先だとか言われているが真実は知らない。

ジンもそういったことには興味がないらしいし魔法が使えるならそれで良いと考えているので気にしないことにしている。

彼は七人の中で最も優れた魔術師であり四大魔法の火、水、風、土、全ての属性を難なく扱える。

というのも魔法とは本来個人によって最も適正のあった属性魔法とそうでないと魔法があるのが世間一般の常識だ。

二つの属性を使えれば優秀な方でジンは正に超弩級の魔術師なのだ。


「さて、自慢はこれぐらいにして儂とお話でもするか。 」


片手に持っていた本に銀細工の栞を差し込んだジンはそれをローテーブルの上に放った。

居住まいを正すと自分の座っていた席の向かいに座るようにユナンに促す。ユナンはそれに応じてやや深めに椅子に座った。


「特別言うこともないんだがね、ユナンには教えられる範囲の魔法やスキルもポーションの作り方だって教え終わっている。

何か聞きたいことはあるかい?答えられる範囲なら幾らでも答えよう。」


ジンには魔法の使い方を教えてもらった。魔人はエルフを凌駕するほど膨大なオドを持つ種族だ。なら魔法を使わなければ勿体無いと叩き込まれた。

さらにユナンは特異なことに超希少な【光魔法】と【影魔法】も扱えた。この二つの魔法は本来【勇者】と【聖女】にしか使えない属性魔法らしい。

そんな魔法を何故ユナンが使えるのかは彼自身分からない。己の出自や実の両親の顔すら知らないのだから仕方のないことではあるが。


「…外に出たら何をすればいいんでしょうか?」


ユナンはこの森を出た後、自分が何をするべきなのかがイメージできなかった。

最年長で知識も豊富、通常のエルフとは異なり生まれた森から外界に出て大陸中を旅したと言う彼なら自分に何か指し示してくれるだろうか。


「未来視で見てみるか?」

「…。」

「…冗談じゃよ、そうじゃないよな。」


おどけた調子で笑う彼はその後しばらく腕を組みながら眉間にしわを寄せて難しい顔をする。


「お前さんの人生だから好きに生きればいい、と言いたいところだが急にそんなこと言われても戸惑うよな。

儂も初めてエルフの森から出た時は自由を通り越して空虚を感じたものよ。」

「空虚。」

「今まであれしろ、これしろと言われ生きてきたんじゃ。それをいきなりもうやらなくて良い、好きにしろって言われても何をすれば良いんだって思うじゃろ。」


目標や目的を持つことが大事だとジンは語る。

そもそも自分が自由を得ようとしたのは何が目的だったのか、この先で何をしようとしたのか、それを考えるのが大事だと言う。

ジンは故郷の森ではもう自身に敵う相手はおらず退屈していたので新たな魔法や知識、技術を得るために旅をしたんだとか。

その結果様々な種族と知り合い、書物などに残されることなく言葉だけで残された希少魔法や

用途が分からずクズ素材だと言われていた素材を万能薬に変える秘術など彼の知識は正に底なしといって良いほど膨大な数となった。


「武を極めるも良し、知識を求めるも良し、己だけの魔法を一から作り上げるも良し。選択肢は様々だ。

ユナンよ、人生に正解などない。また終着点もない。儂ですら知らぬものがこの世界には山ほどある。

己の目で見て、触れ、確かめるのだ。あぁ、ただし道理に反することはするな。正義などこの世にありはしないが悪はある。お前は悪になるな。」


そう言って満足げに笑いもう言うことはないと言わんばかりにジンはローテーブルに放った本を再び読み始めた。

そして数秒経った後何か思い出したかのように顔を上げると自身の首から下げてあった紐を千切りユナンに向かってに投げた。

それを慌てて受け止めると紐の先には綺麗に菱形に研磨された虹色の鉱石が付いていた。


「もし道に迷った時それを掲げてみろ。きっと良いことあるぞ。」

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