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魔王は世界を救うのか  作者: 戦部孔雀
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冒険者の為に

ユナンの言葉に剣呑な雰囲気を発していたハオランは口を閉じるが訝しむような視線を向ける。


「よろしいのですか?」

「えぇ、何を言われても彼らのクランに入るつもりは毛頭ありませんので。」


まだ何か言いたそうの口をモゴモゴと動かすが、溜息を一つこぼすだけで続きは言わなかった。


「今回は罰則なしとします。」


その言葉に男達は安堵の表情を浮かべたり、肩の力を抜いたりしている。そんな彼らに対しハオランは自身の尻尾を床に叩きつけ叱咤する。

鞭のような音に男達は大袈裟とも思えるほど震え上がりまた顔を青ざめさせる。よくまぁそんなにも顔色がコロコロ変わるものだと感心するほどだ。


「ただし、このことはギルドマスターに報告させて頂きます。もう二度とこのようなことがないように。」


金の双眸が男達を睨み付けると彼らはまるで蜘蛛の子を散らすが如く我先にとギルドから出て行く。

最後まで残っていたのはハオランの尻尾で壁に叩きつけられ未だ気絶したままの青年だけだが彼のことは放置でいいだろう。


「災難でしたね。」


眉間によっていた皺がやんわりと薄くなりその表情はいつもの好青年然としている。


「あまり話すのは得意ではないので助かりました。…でも少し意外です。」

「?」

「ギルドは冒険者同士の諍いには介入しないと言われたので…。」


ユナンの言葉にハオランは合点がいったというような顔をする。確かにユナンの冒険者登録時そのようなことを言ったのだ。

よほどのことがない限り冒険者同士の衝突にギルドは介入しないと。しかし実際にはハオランは仲裁に入った。これはどういうことなのか。


「冒険者ギルドは冒険者だけが出入りする施設ではないのです。」


冒険者ギルドに冒険者がいるのは当然だがまずそれ以外にも依頼を持ってくる様々な人も来る。

それは村を荒らす魔獣に困っている小さな農村などの村長であったり、盗賊などに悩まされるその地域を治める貴族だったり様々だ。


「街の外でならいくらでも争っていただいて結構。しかし街の中で暴れてもらっては困ります。ギルドの体裁に関わりますので。」


人族より少し大きく裂けた口がニィッと不敵に笑みを浮かべたのが見えた。ユナンには分かっている。いま言った言葉が全てでないことを。

需要が増え、その存在がなくてはならないものとして確立されてきたとしても、それでも冒険者とは脛に傷を持つ者が行き着く職であることに変わりない。

全員が全員、後ろ暗い経歴を持つものばかりではない。しかし何事においても受け皿は必要だ。でなければ犯罪者で溢れてしまう。

しかし貧しい農村に住む者も贅沢三昧をする貴族も冒険者という存在は欲していても後ろ暗い者たちのことなど信用は出来ない。

故にせめて街の中だけでもギルドという存在がそれらを支配していると目に見える形で冒険者以外の人々に伝えなければならない。


「そういう守り方、という訳ですか。」

「どうでしょうね。」


肯定も否定もせず薄く笑うハオランにそれ以上の追求をするのは無粋だろうと考えた。この問題はこれで解決、そうしたほうが良い。


「ではそろそろお暇させて頂きます。」


両腕に抱えた荷物を落とさないよう会釈しそのまま受付カウンターの奥へ消えていくのを見送る。

そしてユナンは自分が何をしようとしていたのだったかと数秒考え片手に握っていた封筒を思い出した。


「図書館。」


何かもう一つ忘れている気もするが思い出せないことなら大した用ではないだろうと見切りをつけてやや視線を感じる中ギルドを後にした。

先の喧騒の前ギュンターが教えてくれた道順を確認しながら歩き出す。ギルドを出て右、その方角へ顔を向けると


『!ユナン。止まれ。』


突如焦ったようなウーバーの声が聞こえ動きを止める。


『道の端に避けろ。誰にも目立たれないようにな。地図を見る振りをしろ。』


言われ通りに図書館を目指すのをやめギルドの壁に背を預け地図を広げる。側から見れば地図を見ているように思われるだろう。

フードの中でウネウネと動くウーバーは小刻みに震え少し動揺しているようだ。他人に聞かれないように念話を送る。


「(どうした?)」

『…分体が捕まった。』

「!」


分体のサイズはそれほど大きくはない。スライムは自身の体の形状を自由自在に変えることができミリ単位の隙間でもあればそこに隠れられる追跡に適したの従魔だ。

仮に見つかったとしても捕まる事はないだろうと思っていたがどうやら追跡した相手は思っていた以上の手練れのようだ。


『で、そいつ…男なんだが、分体捕まえて自分のところまで来いって言ってやがる。』


罠か何かだろうか、とユナンは思案する。正直なところ分体は破壊されたところで困ることは大してない。

本体であるウーバーが無事である以上馬鹿正直にその男の元へ行く必要はないと思うが恐らく下手に逆らえば今後何があるか分からない。


「(場所はどこだ?)」

『行く気か?実力は分からんが多分強いぞ!』

「(争うつもりはない。)」


あくまでユナンの一番の目的はウーバーの分体を回収すること。男のことも気になるがそれは二の次だ。

ウーバーは少し躊躇した後目的地は【影の剣亭】だと答える。丁度図書館への道順の途中だ。だからウーバーは呼び止めたのかもしれない。

心配性の兄弟分に感謝しつつ地図をたたみ封筒にしまうとそれごとポーチに入れた。行く場所は決まった。


「行くか。」

『無茶だけはしないでくれよ。分体なんてすぐ作れる。』


彼はそういうが分体というのは人にとって細胞の欠片のようなものだ。スライムは特定の形をとらず細胞も切り離しができる。

しかしそれでも体の一部分が無くなるわけなので人にとっては皮膚が抉れたように感じるだろう。

もし人がそうなった場合抉れた場所を塞ぐ為オドや体力を消費し癒していくわけだがスライムは本体に戻ればその必要はない。

ただし破壊された場合は別で本体に戻ってこないので体の一部分が欠けた状態になる。結果体内のオドを消費して一から体を再生させなければならない。


「俺が行きたくて行くから良いんだ。」

『…ヤバそうだったら逃げろよ?』

「分かった。」

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