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魔王は世界を救うのか  作者: 戦部孔雀
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決めつけは悪いこと

「おや、早かったね。」

「どうも。」


衛兵はユナンを見ると少し驚いたような顔をしたが笑顔で迎える。通行証を渡すと彼は何かで確認作業したようですぐに向き直す。

そしてどこか困ったような顔をして前傾姿勢になり近寄ると小さな声で問いただした。


「依頼はどうだった?」

「?恙無く、といった感じですが?」


なぜそんな事を聞くのだろうかと疑問に思っていると衛兵は感心したような目でユナンを見る。


「はは、申し訳ない。君があまりにも早く帰ってきたものだから依頼が上手くいかなかったのではないかと思ってな。すまない。」

「駆け出しには良くある事なんですか?」


ユナンの問いに衛兵は困ったように眉を下げ口籠ったがそれだけでなんとなく察してしまった。

短い沈黙に衛兵は観念したようにユナン以外には聞こえないように声を潜めて話す。


「君が察する通り駆け出しが依頼の難易度に耐えきれず逃げ帰ってきてしまうことは珍しくないんだ。

逃げ帰ってくるならいいけどそのまま姿を消してしまうことも少なくなくてなぁ。けど君は大丈夫そうで安心したよ。

俺たちが生活するためには冒険者の存在はなくてはならないからね。呼び止めてすまなかった。」


軽く挨拶を交わして街に入ると朝も少し賑わっていたがそれとは比べ物にならないぐらいの人で溢れかえっていた。

これが国の首都が最も賑わっている時なのだと改めて感じ取る。感動も束の間すぐにギルドへ向けて歩き出す。

街にある施設など色々知りたいことはあるがまず目の前にある用事を済ませてからだ。

しばらく歩いてギルド近くになるとやはり冒険者が多く見られるようになる。しかし昨日とは違い視線が痛い気もするが気にしないことにした。

声でも掛けられるかと思ったがそんなこともなく無事ギルドにたどり着けた。ドアを潜れば沢山の冒険者がいたが一直線でカウンターに向かう。


「こんにちは、ハオランさん居ますか?」


声をかければ一番近くにいた職員は少し困惑した様子を見せたがすぐに奥へ引っ込んで誰かを呼んできたようだ。

カウンターの内側を覗き見るようにしていると先ほどの職員と一緒に昨日ギルド登録した際紹介されたギュンターが出てきた。


「どうも。ハオランは席を外しておりますので私が担当させて頂きます。」


こちらを見ているはずなのに視線が合っている気がしないギュンターにユナンは少し苦手意識を持っていた。

そんな気持ちを知ってか否か何事もないようにギルドカードの提示を求めそれを受け取ると白色の片手サイズのファイルを開く。


「【クラル草十本の採取】と【小鬼三体の討伐】で間違いありませんか?」

「はい。」

「ではまず薬草の確認から始めます。」


カウンターの上に木でできた平皿が置かれそこに置くように促され、ユナンはウエストポーチから束でまとめたクラル草を置いた。

ギュンターは束ねていた紐を解いて皿の脇に避けるとクラル草を一本ずつ重ならないように並べていく。

何をするのだろうとユナンが興味深く見ていると不意にオドが濃度が急激に上がったように感じて視線を上げる。この感覚はユナンには覚えがあった。

もしやと思ってギュンターを見れば彼の片目が灰色から濃い青色に変わっている。ジンも持っていた【鑑識】の魔眼だ。


「確かに全てクラル草です。」

「鑑識眼を持ってるんですね。」

「…後天なのでそこまで良いものではないです。」


魔眼もスキルと同様で先天と後天がある。先天は親などから引き継ぐものだが後天の場合はとても苦労するらしい。

ユナンはまだ経験した事はないが手段として二つあり、既に所持している者から付呪のように眼球に施してもらう方法が一つ。

ただしこれは術者の腕と被術者のオドの濃度と体に大きく依存する。被術者のオド濃度が低ければ失敗する可能性もあるし成功しても使い物になるか分からない。

体が丈夫であれば問題ないがそうでなければ施術者から送られるオドに耐えきれず死んでしまう可能性すらある。

そしてもう一つは【神々の叡智】と呼ばれる宝玉を眼球に埋め込む方法だ。神々の叡智は数十年に一度空から降ってきて濃いマナを放出している。

この宝玉は人の欲望を叶える力があるとされこれを体に取り込んだ者は強大な力を手にすると言われている。


「では次に小鬼討伐の確認を致します。討伐の証をお願いします。」


クラル草の乗った皿はカウンターの奥に下げられ代わりに何も乗っていない同形状の皿がカウンターに置かれる。

また先程と同様に小鬼の右耳を皿に置いた。ギュンターは六つあるそれをぐるりと見回すとカウンターの引き出しから用紙を一枚取り出す。

そして手慣れた様子で上から下まで文字を書いたり円を描いたりする。全てが書き終えると全ての小鬼の右耳を一枚の袋に詰め込む。

そして先ほど記入していた用途をちょうど半分の所でナイフで切る。片方だけ袋と一緒にして紐で括り近くにいたギルド職員に手渡した。


「では全ての依頼の達成を確認いたしましたので報酬金の支払いを致します。」

「お願いします。」

「まず薬草採取の報酬です。こちらは100ゼニー、銀貨一枚になります。」


引き出しから取り出されたキャッシュトレイに銀貨一枚が乗せられる。それと同時に小さなファイルに挟まれていた用紙に長方形の判子が押される。

見てみればそこには【達成済】と印字されていた。そしてトレイをユナンの目の前に差し出される。どうぞと言われたので銀貨を一枚拾い上げた。


「次に小鬼討伐ですね。」


ちょうど良いぐらいにギルド職員が近寄ってきてギュンターにトレイを渡す。


「依頼書には三体とありましたがユナン様が討伐されたのは六体でしたので500ゼニーに六割増しの金額を支払わさせて頂きます。」


トレイの上にははじめに渡したギルドカードと八枚の銀貨が乗せられていた。確認をお願いしますと言われたので一枚ずつ数えるように受け取る。

その間に先ほどの用紙と同様に判子が押される。初めての依頼が無事達成されて安堵した。


「これで手続きは終了です。何か質問はありますか。」


何か言わなければ今にも立ち去りそうなギュンターになぜか焦りを感じた。鑑識眼を発動していた目も元の灰色に戻っている。

苦手だ。感情の変化がなく、まるで無機物と向かい合ってるような視線がどことなく恐怖を感じさせる。


「…えっと、魔石や素材などはどこで買い取ってもらえますか?」

「買取はユナン様から見て右手奥、青い看板が掛かっている場所で可能です。」


言われた方を見やれば天井から青い看板が吊るされており白いペンキで大きく買取と書かれていた。


「それと…ソロモンに図書館ってありますか?」

「…。」


沈黙の後おもむろに席を立ったギュンターはユナンに待っているよう声をかけるとカウンターの奥に進んでいきあるデスクの前で止まる。

デスクの上に並べられていた封筒から何かを取り出すと何事もなかったかのように戻り席に着く。

カウンターの上に広げられたのは地図だった。左上に【ソロモン観光マップ】と記入されていたのでそういう用途のものなのだろう。


「ここが現在地、冒険者ギルドです。ここから出て右に進むと影の剣亭という酒場兼宿屋があるのでそこを左へ。

しばらく進むと大通り出るので右に曲がってください。そうすればすぐに文化博物館が建ってますのでそこへ行ってください。」


指でなぞりながら丁寧に説明され逆に驚く。というよりも観光マップというものがある事に驚いた。


「博物館に行けば良いんですか?」

「博物館の中に図書館が入っていますのであとは係員に訪ねたほうが早いかと。こちらは差し上げます。」


綺麗に三つ折りに畳まれそれのサイズに合う封筒にしまわれた状態で渡される。意外と親切なのだなと失礼ながら思う。


「ありがとうございます。明日も来ます。」

「お待ちしております。」

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