冒険者の素養
「では早速ですがこの水晶玉に手を当てて下さい。」
「アンラベルストーンですね。」
「ご存知でしたか。」
カウンターの上に置かれたのはアンラベルストーンだった。それは木箱の上に設置されていて無数の線で繋がれていた。
ユナンはハオランに指示された通り手を当てる。すると僅かに魔力を吸収される気配を感じたがすぐに消える。
「手を離して大丈夫ですよ。」
彼は手元の書類に素早く丸やバツを付けていく。冒険者になる人は字が書けない者が殆どなのでギルド職員が代筆するのは珍しくない。
「今アンラベルストーンで行ったのは貴方の犯罪歴の確認です。」
「犯罪歴…。」
「犯罪を犯した者はその証拠として魔力を国で登録しているんです。我々も犯罪者を登録させる訳にはいきませんので確認させて頂いております。」
それは当然のことなのだろうと考える。自分がギルド側だったとして犯罪歴の有る人と無い人、どちらを選ぶかと聞かれれば当然ない方を選ぶ。
ギルドは会社だ。信用が全てだ。依頼者がいて、冒険者がいて、仕事があって、それをこなす者がいる。そして初めて利益が出る。
信用のないところに仕事を持ってくる者はいない。どんな罪であれ前歴がある者は差別される。それも仕方のないことだ。
「ではいくつか質問させて頂きます。簡単なものばかりですし、分からなければそう言って下さって構いません。」
「分かりました。」
・前衛職か後衛職か
ユナンはハロルド、カフカ、ザガン、ゼノから様々な武器の扱い方を叩き込まれた。
ただ単に武器に頼るのではなくそれらが壊れた、奪われた時のことも想定した格闘術も仕込まれている。
魔人として高い生命力と治癒力を併せ持っているので同レベルの相手との戦いであれば持久戦に持ち込めば十分勝機はある。
魔人としての特性として膨大な魔力も兼ね備えておりジンとウィリアムから魔法の使い方も教わっているのでそれだけで戦うことは可能だ。
「主武装はこのカタナです。でも魔法も使えます。属性は【火】です。」
通常、一人の人が使える魔法の属性は一つまでだ。優れていれば二つ、天才であれば三つ。四つの属性を使いこなす者は片手で数えるほどもいない。
しかしユナンは火、水、風、土の四属性に加え、影と光の特殊な魔法属性への適性も持ち合わせていた。
そして超弩級の天才魔術師であるジンの指導を十年以上受けてきた。六つの属性全てを呼吸するように扱うなど造作もないことだ。
しかしユナンは忘れてはいない。自分が特殊であることを。それを人に知られれば普通に生きていけなくなることを。
だからなるべく普通を装った。冒険者にも近接武器と魔法、両方を扱う者は僅かだがいる。だからこの程度なら少し珍しいで済むはずだ。
「では前衛職、魔法剣士にしておきましょう。では次。」
・クランへの加入は考えているか
ソロの冒険者とクランに加入している冒険者、どちらも自分の意思で選ぶことができるがギルドでは極力クランに加入することを推奨している。
特に新人冒険者に対してはその傾向が強く、その理由としては冒険者への暴力を防止するため。
と、いうのも新人でも強い者はいるのだ。冒険者は寄る辺のないヒエラルキー最下層の存在がなる職、というのが昔の風潮だった。
しかし昔ほど戦争が減り、国家間での貿易が盛んになってきた現在冒険者は昔ほど冷遇された職ではなくなってきている。
若い頃冒険者として名を馳せた者が結婚して子を作り、その子供が親から指導を受け冒険者になる、という事例も珍しくない。
つまり昔ほどベテランと新人の実力の差は大きくはない。そしてそれを良しとしない悪い冒険者は新人冒険者を潰すために新人狩りを行うのだ。
「全ての冒険者が行っている訳ではありません。ですが防げる事故…事件は防ぎたいというのがギルドの意向です。
魔物との戦闘であれ、新人狩りでの被害であれ、もし死亡してしまっても一人だった場合誰も説明してくれませんから。」
死人に口なし。街の外に死体を放置しておけば魔獣でも野生動物でも何かが勝手に片付けてくれる。死体がなければ殺人は成立しない。だが
「俺はソロでやりたいと思っています。」
「…そうですか。気が変わればいつでも声をかけてください。臨時のパーティという選択もありますのでそちらも検討して頂ければ。では次。」
・今まで魔獣又は魔物を殺したことがあるか(特に人型)
冒険者の依頼は三つに分類される。
一つが【採取】。指定された素材などを持ち帰りギルドに納品する。
二つ目が【討伐】。指定された場所に行き指定された対象の魔獣などを一定数狩り、特定の部位をギルドに持ち帰るというもの。
最後が【護送】。この依頼は指定制の場合が多い。上記の依頼二つと違い少々特殊なため誰もが受けられる依頼ではないとのこと。
新人は生き物を殺すことに慣れていない者が多い。特に魔物となると人型のもの、ゴブリンやコボルト、オークなどがいるので
人と造形が被り殺すのを躊躇してしまうことが多く逆に倒され大怪我する者や殺されてしまう者が年に何人かいるという。
そう言った事故を防ぐためにギルドでは講習料を受け取る代わりにギルド職員による戦闘訓練を行っているという。
「あります。」
「嘘、ではなさそうですね。…質問はこれぐらいにしましょう。ここからは冒険者ギルドのシステムを説明させて頂きます。」