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魔王は世界を救うのか  作者: 戦部孔雀
16/34

一匹目

石を幾重にも積み上げ築かれたであろうその壁はとてもではないが登って乗り越えることすら出来ないと思わせるほど高い。

人が列をなし向かう先にはその壁と同じ高さはある、しかしそれでいてより頑丈な分厚い鉄で出来た門があった。


「でっかい町…。」


門の前で列を作る人たちは間違いなく街に入るための手続きをしている人たちだろう、と考えユナンは列の最後尾に近づく。

するとどこからか怒号と悲鳴が聞こえてきた。


「おい!テメェ、今列抜かそうとしただろ‼︎」

「言いがかりはやめて欲しいな!そっちがちゃんと周りを見てなくてぶつかってきただけだろ?」

「んだとっ⁉︎この猫風情が‼︎」


どうやら列を抜こうとしたしてないで言い争いをしているらしい。丁度最後尾にいる男性二人で片方は人族のガタイの良い冒険者然とした男で、

もう片方は頭の上に髪に紛れるようにたつ三角の耳が特徴の猫獣人の青年だった。今にも取っ組み合いになりそうな雰囲気だが周りの人たちは

自分には関係ないと言いたげに遠巻きに横目で見たり二人と目を合わせないように縮こまって怯えたりしている。


『どうする?止めるか?』

「止めよう。」


ここで騒ぎになって町に入るのが遅れるのは避けたい。そう考えてユナンは二人の間に割って入り片方の腕で二人を退けて遠ざけた。


「ケンカはやめましょうよ。周りの人にも迷惑ですよ。」

「なんだ、このクソガキ!」

「…。」


相当頭に血が上っているのだろう冒険者風の男は顔を真っ赤にしてこちらに唾を飛ばしながら怒鳴りつける。

猫獣人の青年は耳をピンと真上に立て、尻尾も毛を広げて太くしているがまだ冷静なのか黙ってこちらを見つめている。


「どっちが先に並んでたんですか?」

「俺だ!そしたらそこの猫が抜かそうとしてきたんだ!」

「だからそんなことしてないって言ってるだろ。分かんない奴だな。」


どうやら冒険者風の男性は猫獣人の青年が列を抜かそうとしたと思っていて、対する猫獣人の青年はそんなつもりはなくちゃんと後ろに並んでいただけらしい。


「僕は抜かすつもりなんてないよ。大人しく後ろ並ぶからそんな怒鳴り散らさないでよ。」

「テメェみたいな猫の話信じられるかよ!…まぁ、詫び金払ってくれるなら別だがな。」

「はぁ?」


冒険者風の男性の下卑た笑みにユナンも猫獣人の青年も何か白けたような空気を感じた。

猫獣人の彼が何を思ったかは分からないがユナンはこの男がやたら青年に突っかかる理由が分かった気がしたのだ。

まだ森に住んでいた時ガロウから聞かされたユーグリントにおける獣人族の立ち位置。それは魔物なのか人なのか。

獣人族は状況に応じて姿を変えることが可能で【獣人】【獣】【獣の要素がわずかに残った人】と変化する。

それ故に分かりやすい例で言えば犬獣人は魔物【コボルト】と昔は同一視されていた。

彼らは人の都合のいい時に同じ人として、またある時は魔物として扱われてきた歴史を持っている。

つまりこの男は「金を払えば人として扱ってやるが払わないなら魔物として殺す」と暗に言っているのだ。これにはユナンも眉をひそめる。


「彼はちゃんと並ぶと言っているじゃないですか。金を払う必要なんてないですよ。」

「あぁ?ガキの分際で大口叩いてんじゃねぇ。獣人なんざ奴隷か魔物のどっちかだろうが!」


今の言葉はいけない。冷静に努めようとしていたユナンの神経を刺激する。いけないことだと分かっていたが思わず男性を殴り飛ばしてしまった。


ガッ!


「ぐおぅ‼︎」


ユナンより頭一つ分高く、ひと回り大きな体の男がまともな受け身を取ることもできず土を撒き散らしながら殴り飛ばされ背中から倒れた。

猫獣人の青年は目を見開き男を見つめていたがパッとユナンを凝視する。男も何が起こったのか理解できなかったのか倒れたまま立ち上がらない。


「やってしまった。」

「クソガキがあああぁぁぁ‼︎」


殴り飛ばされて数秒後、ようやく自分に起こったことを理解し終えた男が勢いよく立ち上がり腰に装備していた戦斧を手にするとユナンに飛びかかる。


シャッ


すかさずユナンも腰に差していた刀を鞘から抜き勢いよくこちらに振り下ろされた戦斧の刃の付け根目掛けて一閃した。


キーーーン!


高い音を立てて戦斧の刃と持ち手を繋ぎ支えていたボルトとナットが小さな欠片を散らせながら切断される。

当然接続部がなくなった刃は重力に従って地面落ちていく。後に残ったのは少し太めの鉄の板が所々巻かれた木の棒だけだ。


「俺の斧が…!」

「これ以上やるなら次は首を落としますよ。」


男は地面に落ちた戦斧の刃と残った持ち手の切断面を見てサッと顔を青くすると情けない悲鳴をあげながら列から抜け出し走り去っていった。


「あー、行っちゃったねぇ。」


今までのやり取りを傍観していた猫獣人の青年は頬をかきながらユナンに近づく。その顔には苦笑を貼り付けていてどこか気まずかった。

やり過ぎてしまっただろうか、ともう豆粒サイズに見えるほど遠くまで走っていく男性を見て少し申し訳なく思う。

しかしあの男性の言動を見るにとてもではないが話し合いでどうこうできる相手ではないと思うし、会話で大人しくさせる力は自分にはないとユナンは納得させた。


「巻き込んで悪かったね、でも助かったよ。ありがとう。」

「あの人の武器を壊してしまいました。」

「正当防衛だよ。やらなきゃ君が怪我してた。」


やはり自分はまだまだ未熟なのだと感じながら、慰めと労りの言葉で少し胸がすいた気がした。


「僕はキトゥン。君は?」

「ユナンです。」


軽く挨拶を交わし、ユナンは猫獣人の青年、《キトゥン》と握手をした。

まさか彼との邂逅が自身の今後を大きく左右することになるとは今はまだ誰も知る由もない。

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