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魔王は世界を救うのか  作者: 戦部孔雀
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新しい世界へ

ハロルドとカフカを先頭に歩き、その後ろをユナンが、更に後ろに残りの五名が後を追う。

全員で行動をすることは今までなかったのでユナンにはこの光景がとても新鮮に思えた。

八人とも無言だ。普段場を賑わせるガロウやゼノもこの時ばかりは静かで、そんな雰囲気さえむず痒く感じる。


「そういえばユナン、従魔は連れてきたか?」

「ウーバーだけ連れてきました。他のは全て契約を切りましたので…。」


【ウーバー】とはユナンの従魔の名前だ。

従魔には2種類あり、魔獣や魔物を力によって従えさせたものと、従魔が産んだ子供を第三者が従魔にするものがある。

ウーバーは後者でガロウの従魔の子をユナンが従魔にしたのだ。その付き合いは長く、テイムの修行を始めた時から一緒にいるのでもう10年は一緒にいることになる。

ちなみに従魔契約を切り、野良に戻った魔物は従魔であった記憶を忘れる個体と覚えている個体がいるらしいがその理由は解明されていない。


「ウーバーがいれば大抵のことはなんとかなるだろ。」

「最近何か食わせたか?」

「マッサカーボアの心臓を食べさせたのが最後です。」


この世界の人以外の種族、つまり魔獣や魔物はある一定の条件を満たしたもののみ【進化】と呼ばれる現象が起こる。

もっともメジャーな喩えでいうと【ゴブリン】が【ホブゴブリン】になり、そこから枝分かれの様に【オーガ】【サファギン】と環境に合わせ進化する。

どんな魔物がどの条件によって進化するのかは不明で同じ魔物であったとしても環境や食べ物で何に進化するかは変わってくる。

進化できる魔物自体珍しい。大概はヒエラルキーの最下層に存在するスライムやゴブリンたちなどで研究者たちはこれらを【可能性の魔物】と呼び育成しているとか。

当然厳しい環境、希少な素材を得て育った魔物ほど強大な魔物へと進化していく。ただし進化できる魔物は貴重で大抵は生存競争などに負け死んでいくものが多い。


「良いじゃないか、マッサカーボアはそこそこ強い魔獣だからな。」

「ウーバーって今ランクいくつなんだ?」

「儂が最後に見た時はB+だったぞ。ドラゴンでも数十匹食わせればSに届くじゃろ。」


魔獣、魔物にはランクが存在する。これは冒険者のランクも同様で冒険者ギルドが定める魔獣、魔物の危険度を分かり易くしたもので、

最低ランクが【F】最高ランクが【S】だ。ゴブリンやスライムといった知性が低く力も弱い魔物は低く、ドラゴンなど時に災害をも引き起こす魔物は高い。


「ドラゴンはなぁ…捨てる素材がないからな。端材を食わせるにも量が少なくちゃ意味がないし。」

「鱗は防具、牙や爪は武器、血や内蔵は薬になる。肉も美味い。」

「冒険者のランクが上がりゃあ狩る機会も増えるだろうよ。」


ドラゴンには大きく分けて【飛竜/龍】と【地竜/龍】の2種類がある。文字通り空を飛ぶドラゴンと地を這うドラゴンだ。

別に空が飛べるから優れている、なんて事はない。どちらも長所と短所があるが軒並みAランク以上の魔物として認識されている。

硬い鱗を持ち物理攻撃に強いだけでなく、高い魔法耐性を持つ厄介な存在。劣等種としてワイバーンが存在するが脅威度は比べ物にならないらしい。


「話はそこまでにしろ。そろそろ境界に着くぞ。」

「うむ、結界の綻びも確認できんかったし大丈夫じゃ。」


ハロルドとカフカの前方には人族の成人男性の腕ほど太い黒い鉄の杭が均一な距離を開けて地面に突き刺さっていた。

そこからはジンのものと思われるオドの気配が滲み出ていて杭の内側と外側で空気が違う様な気がした。


「さて、ユナンよ。ここから先は外界、出れば二度とこの森には戻ってこれないが覚悟はいいか?」

「勿論。」


思わず体が強張ったがそこは気合を入れて振り切る。今ユナンの心を支配するのは興奮と不安の二つだけ。

もう二度と会えないだろう七人を脳裏に焼き付ける様に見つめた。彼らが何を思いユナンを育てたかは知る由もないし理由など聞いてももはや無意味だ。

しかし彼らがユナンに託した知識も技術も決して無駄にしないと決意した。悪に落ちないと、道理の通らぬ事はしない誓った。


「最初はただの気まぐれの子育てだったのにな。お前は俺たちの誇りだよ。」

「大袈裟な。」

「頭の片隅でもいいからさ、憶えててくれよ?七大英雄っていうちょっとかっちょ良い死に損ない共がいたことを。」


もはや言葉は不要、と言わんばかりに彼らはユナンを見つめる。別れであり、ここから彼の人生が本当の意味で始まるのだと言っている気がした。

杭の外側はまるでシャボン玉を通して見ている様に空間が歪んでいてその真の全貌を見る事はできない。

恐る恐るそこへ足を進め手を伸ばしてみる。ぐわんと空間が歪み吸い込まれていく感覚を覚え思わずその場で踏ん張る。少しでも気を抜けば飲み込まれそうな力だ。

不意に振り返れば七人とも寂しげな顔はしていない。ハロルドは意地の悪い様な表情で、カフカは相変わらず無表情だ。

ジンは悪戯が成功した子供のように満面の笑みを浮かべ、ガロウもユナンと目が合うと鋭い牙をニッと出して笑う。

ウィリアムは吸い込まれていく様な状況が興味深いのか真剣に眺め、ゼノはザガンの肩の上に座って二人揃って手を振っていた。

どいつもこいつも最後まで締まらない奴らだと、ユナンは心の中で笑うと抵抗をやめ空間の渦の中に身を委ねた。


そして一人の少年が姿を消し、森の中に佇んでいたのは七人の英雄だけだ。

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