表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王は世界を救うのか  作者: 戦部孔雀
11/34

カフカとの話

鉱山から家に戻るとガロウが台所で作業をしている最中だった。彼は家の中での作業中に声をかけても反応しないのでのそっとしておく。

一緒に帰ってきたザガンとゼノは先に風呂場へ向かったようだ。あの二人は混浴などは気にしないのだろうか…。

ユナンは水で濡らした手拭いで腕や顔についた土や泥を適当に落とす。多少さっぱりしたがやはり洞窟内は埃っぽかったので後で風呂に入ると決めた。


「戻ったか。」

「母上。」

「ためになる話は聞けたか?」

「はい。」


ユナンの返事にカフカは相変わらずの鉄仮面で頷いた。しかし彼には彼女がどこか満足しているように見えた。


「母上。」

「なんだ。」

「母上からも何か話を聞かせて頂けませんか。」

「…私は他の者のように面白い話はできない。」

「それでも構いませんので。」


微かに眉間にシワを寄せて迷うような表情をしたカフカはすぐにいつもの無表情に戻る。

数時間前ジンが座っていたテーブルセットを指差しユナンに座るように促した。ユナンが座ると彼女はその正面に座った。


「これを持って行きなさい。」


カフカはジャケットの内ポケットから青や金、黒の糸で作られた紐のついたユナンの親指大ほどの大きさの角笛を取り出した。

形はゼノの額に生えているような鬼人のツノによく似ており色は深い青色をしているが僅かに向こう側が透けて見える。

材質は今までユナンが戦ったことのある魔物や魔獣には当てはまらず、家の地下に保管されている貴重な素材の中にもこの様なものは見たことがない。

しかしどこか恐ろしい者が目の前に存在している様な気がしてならない。ツノの元の持ち主の残滓なのだろうか。


「これは…?」

「できれば使って欲しくはないがもしお前を守れるとすればそれくらいだ。」


カフカはまっすぐな目でユナンを見据えながら言い切った。

曰く、この森の外には使徒の力と並び立つほど強大な存在がある。


「【漂流者】と【降臨者】を知っているか?」

「ドリフター…フォーリナー…いえ、どちらも初めて聞きました。」

「この二つには関わるな。」

「どういった存在なのですか?」


【漂流者】とはこの世界とは別の世界、つまり異世界からきた者のことを引っ括めて指す名称だ。

代表的なのが【勇者】。世界の理に干渉し異世界から召喚することによって現れる。大概は馬鹿な国王とかが私欲のために召喚させる。

そして不思議なことにこの異世界の勇者はとても強大な力を宿しているとのこと。ハロルドの先祖も異世界の勇者だ。


【降臨者】とは漂流者とまた異なる意味で特殊な存在で天空より飛来してくる者らしい。

天空とは空に浮かぶ島、迦楼羅の浮島よりももっと高い場所だ。浮島は魔力によってドーム状に結界が施され上空でも息ができるがその外では息はできない。

しかしこの降臨者はどういう訳か天空から現れる。この世界にはない優れた魔法を使っているのか、ただ単純に肉体が強固なのかは不明。

恐るべきなのはその戦闘力。かつて降臨者と敵対した国は跡形もなく崩壊し海の底に沈められ滅ぼされたと言われている。


「【漂流者】はまだ良い、厄介な存在であることに変わりはないが異世界の者とはいえ同じ人だ。言葉は通じるしある程度の予測もたてれる。しかし【降臨者】は駄目だ。」


カフカはいままでユナンが見たこともないような、傍目からも分かるほど不機嫌、不愉快そうな顔で言葉を絞り出した。


「降臨者とはそれほど恐ろしい存在なのですか、言葉が通じない…。」

「いや、会話はできる。」

「なら。」

「しかしその殆どがこちらの話を理解しようとはしない。」


会話が成立するのと相互理解ができるかは全くの別物だ。人が魔物の心を理解できない様に魔物も人の心など理解できない。それと同じだ。


「奴らにこちらの道理は通用しない。できるのはただ逃げて消え去ってくれるのを待つだけだ。」


今現在存在が確認されている降臨者は約二十人。その全てがこの世界に牙を向いているわけではないが脅威であることは真実だ。

降臨者は恐ろしく、強大で、無遠慮で、非常識。その姿に統一性はなく、鱗を纏う者がいれば毛皮を纏う者もいて、ツノを生やす者がいれば只人の様ななんの特徴もない者もいる。


「まだ知性のない邪神を相手している方がマシだ。」


吐き捨てるようにいった言葉は哀愁すら感じさせる。知性がある故に獣よりも厄介な災害が人の形をしたような存在。


「出会ったら絶対に敵対するな。勝てる相手ではない。…意思を持つ天災とは的確な例えだ。」


世界の守護者、使徒のカフカにここまで言わせるとは一体どれほどの恐ろしい存在なのか。

興味はあるが好奇心で身を滅ぼしたくはないのでユナンは彼女の言葉に素直に従おうと決めた。


「脅かしてすまない。しかし危険な存在なのは事実だ。」

「いえ、その様な存在がいると聞けて良かったです。」

「とはいえ敵対の意を見せずとも襲いかかってくる者もいる。だからその時は角笛を吹きなさい。」


ユナンは改めて渡された角笛を見る。使徒に匹敵する力を持つ謎の存在【降臨者】。それに対応するためのアイテム。魔除けのようなものだろうか。


「お前の旅の安全を願うよ。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ