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魔王は世界を救うのか  作者: 戦部孔雀
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ザガンとゼノとの話

ウィリアムからザガンとゼノは二人揃って鉱山へ向かったと聞かされたので彼にお願いしてそこまで運んでもらった。

音速とまでいかないが風魔法を使ってブーストした彼の飛行速度はかなり速い。内臓が掻き回された気分になった。

鉱山の入り口で下ろした彼はそのまま嘔吐寸前で項垂れているユナンを置いて飛び去って言った。


キンッキンッ

カッカッ


なんとか嘔吐を免れ千鳥足になりつつも歩き出したユナンの耳に甲高い音が入ってくる。

きっと奥で二人が採掘作業をしているに違いない。口の端から微妙に垂れた涎を拭い気を持ち直して坑道を進んだ。


カーンカーン


中に入れば最初こそ一本道だったが次第に道が分かれていく。初めて入った時は看板がなければ出口にたどり着けないのではと恐怖したほどだ。

実際穴を掘り進めたザガンとゼノは左右だけでなく時に上下にまで分かれる坑道を蟻の巣のようだと笑っていた。


ザクッ


右、左に曲がり梯子を登り、階段を降り、幅が異様に狭い橋を渡る。それでもまだ二人の姿は見えない。

灯りは魔石を使ったランプが一定の間隔ごとに設置されている為こちらで用意する必要はないが食事はどうしているのだろうか。

ザガンは巨人族の中では小さい3m程しかない背だがそれでも他の種族に比べれば大きい。そしてその巨体に見合う量の食事をする。

ゼノは七人の中で最年少であり姿だけならユナンよりも幼い。しかし鬼人族として戦闘に特化しているせいかザガンに次ぐ大食漢だ。

正直な話一回の食事で全体の六割ほどはこの二人が食べている。


ボォンッ…ガラガラ…


軽い振動を感じ二人がすぐ近くにいるのだろうな確信する。今の振動はゼノが岩盤でも砕いた音か。

曲がり角が見えてきてランプの光でできた二つの影がユラユラと動いている。石を砕く音に加えて足跡も聞こえるので間違いない。


「ザガン、ゼノ。」

「あ、ユナ君だ。」

「…。」


上半身裸でツルハシを振るう巨人がザガン、ラッシュガードと野袴のようなズボンという軽装の鬼人がゼノだ。

ザガンは額から玉のような汗を流しているがゼノは全くその様子がない。しかし彼女の足元には綺麗に分けられた宝石と鉱石がある。

基本的に採掘するのはザガン、それを仕分け加工するのがゼノの仕事だ。


「もう日暮れ?」

「いえ、父上にみんなと話をしてこいと。」

「あーもうちょっとで出てくんだっけ。」


ゼノが分けた鉱石をそれぞれの種類ごとに袋に入れて口をしっかりと閉めた袋はザガンの体格に合わせて作られたバックパックに詰められていく。

見た目だけでも巨大だが当然のようにこれも増幅の付呪がかけられている。鉱石を全て仕舞終わるとツルハシやシャベルなども片付けていく。

綺麗に何もない状態なった場所にユナンは空間に波紋を広げそこから敷物を取り出し広げた。

二人がその上に座ると彼も上がり波紋から一つのバスケットを取り出す。ユナンが両手でやっと持てる、ザガンなら片手で持てる大きさだ。

フタを開けるとサンドイッチや果物、茹でたウィンナーや野菜が溢れない程度に詰め込まれていた。


「ガロウが持たせてくれました。」

「わーい、おやつおやつ。」

「頂く。」


一回の食事の量としては少ないかもしれないが夕食までの繋ぎだと思えば適当だろう。

二人は仲が良い。よくゼノがザガンの肩の上に乗って散歩していたり工房でも一緒に作業している。

二人とも邪神との戦いで召集されて初めて顔を合わせた間柄らしいがどうやらその時から仲が良かったんだとか。

同じツノを持つ種族同士何か思うところがあるのだろうか。


「ユナ君は外に出たら何をするの?」

「旅、ですね。いろんな場所を巡ろうかと。自分のことも知りたいです。」

「両親を探すの?じゃあ暗黒大陸に行くのかー。」


魔人は暗黒大陸に国を持っている。それがこの大陸【ユーグリント】に住む人々の共通認識だ。

事実がどうなのかは関係なくみんなそう思っているし、大抵の住人は真実がどうなのか考えることもなく生涯を終える。


「未開の地って浪漫あるよね。」

「俺は冒険に興味はない。」

「ザガンはいつもそうだね。採掘、食事、睡眠!って感じ。」


竜/龍人族は平和を重んじる。技術開発に興味がない訳ではないが自然を破壊したり、多種族と戦争してまで変革を求めない。

鬼人族もそれは同じで基本的に生まれ故郷から出て旅する者は少ないらしい。己の信仰する神、家族、生活の平穏さえ得られれば良いのだ。


「平和は大事だよ、ユナ君も危険なことはしちゃダメ。逃げるのも大事な手段の一つだよ。」

「蛮勇も時には必要だが臆病であることを恥じてはいけない。死ななければ次の機会が与えられるが死ねばそこで終わりだ。」


人から卑怯者だと、恥知らずだと言われようがさして気にすることはない。生きていればそれらを挽回することができるのだから。

大事なのは絶対に諦めないこと。諦めて、もう無理だと決めつけてしまえばそこで道は閉ざされる。

どんなに時間がかかっても構わないから挑戦し続けることが大事だと二人は言う。


「これをやろう。」


ザガンが自身の収納パックから取り出したのは薄い青緑色の液体が入った六つの試験管のような容器。

それらは木枠によって固定され六つセットのような形になっている。中の液体は若干粘り気があるのか小さな気泡が混じっている。


「これは?」

「ポーションだ。いざという時だけ使え。一生使わんでも構わん。劣化することはない。」


ポーションは薬草や魔物の素材などを使って作られる薬で回復の効果だけでなく、毒の効果を持つものもある。

薬も摂取し過ぎれば体に悪いというし紙一重の存在なのだろう。一大事の時以外は使うなということだったのでしばらくは収納パックの肥やしになってもらおう。


「僕からはこれね。ユナ君の主武装はカタナだから打ったんだ。」

「黒いカタナ…。」

「【不壊】【不浄】【軽量化】の付呪がかけてあるよ。」

「三つも⁉︎」


通常【付呪】というのは【付呪師】と呼ばれる専門の術者によって武器や鎧、生活用品などの幅広いものにかけられる特殊能力だ。

ダンジョンなどでドロップ品として得られる付呪に関する書物から知識を得てオドの量に見合った分の付呪を行う。

ただし一つの物質に付呪できるのは現在確認されている聖遺物も含めて五つまでとされている。通常の付呪師であれば二つ付呪出来れば優れている方だ。


「もし今使ってるのが折れちゃったら使ってあげてよ。号は…自分でつけちゃって!」

「でもこれ貴重な鉱石使ってますよね…ヒヒイロカネじゃないですか⁉︎持ち手なんてミスリルじゃ…。」

「気合い入れすぎて全部鉱石で作っちゃったけど軽量化ついてるし許して。」


何か言おうと口を開けたり開いたりしようとしていたらザガンからも遠慮せずもらっておけと言われユナンは渋々それを収納パックにしまった。

いつのまにかバスケットの中身は綺麗に片付けられていた。洞窟の中は時間の流れが分かりにくい。

夕飯の時間になる前に帰ろうとユナンとザガン、ゼノは三人揃って他愛もない話をしながら帰路についた。

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