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スクールライフ・オンライン  作者: 藤原 蒼
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ゲームへの登校

 【スクールライフ・オンライン】略してSLO。日本中で遊ばれている学校を舞台にしたオンラインゲームだ。

 数年前に開業したプレイブラック社が開発したそのゲームは、無料動画投稿サイト〝コネクト〟の〝コネクター〟と呼ばれる実況者たちにより爆発的なヒットに至った。そのコネクターの一人が黒崎くろさき かえで――クローフである。

 楓がクローフとして実況を始めてから数週間は全くと言って良いほど反響も無かったが、人気ゲームの恩恵あってか、『さくさくプレイのクロ』として有名になった。


 蒸し暑い八月、都内某所スタジオに楓はクローフとして立っていた。スタジオメンバーは司会のビード、『暁のアキ』こと赤石あかし 友秋ともあき、『師匠』こと紫村しむら しょう。三人とも人気のあるコネクターだ。

「クロ最近SLOで見ないけど元気してた?」

友秋が気さくに話し掛けて来る。彼は都内の大学生。高校生の楓より少し背が高いため大人びて見える。

「課題でもやってたんやろ、気が向いたら来ぃや」

翔が横から声を掛けて来た。翔は友秋と違い四国の大学に通っている。結構な頻度で東京に来ているが、大丈夫なのだろうか。

「なかなか夏休みの課題終わらなくて…SLOもそのうちやりますよ」

申し訳なさそうに頭をかく。SLOで楓、友秋、翔はチームレインボーとして同じ寮で生活している。チームレインボーの寮――通称〝虹寮にじりょう〟のメンバーは十人。全員本名に色がついたいるためレインボーだ。

「お三方、生放送の準備は出来ましたかぁー?」

陽気な司会者ビードが会話に入ってくる。都内で働いている立派な社会人でコネクター、その話し方から数多のコネクト生放送『ゲーム日和』の司会を務めている。

「はーい、今行きまーす」

友秋が返事をし、スタジオの放送席に座る。翔がそれに続き、楓も後を追う。

「マイク着けまーす」

スタッフが三人にオンライン通話用のヘッドセットを着ける。スタジオには来ないが、虹寮のメンバーと実況をすることになっているからだ。

「――はい、始まりました『ゲーム日和』司会はワタクシビードでお送りします!」

陽気なビードの声がスタジオに響く。ヘッドセットからは仲間たちの騒ぐ声が聞こえる。

「スタジオに居るコネクターから通話しているコネクターまで自己紹介をどうぞ」

ビードが自己紹介を振る。三人は目配せをすると、リーダーであり結果的にビードの隣に座ってしまっていた楓からとなった。

「どうもこんにちは、虹寮の二代目寮長リーダークローフです。宜しくお願いします」

楓がにこやかに挨拶をする。ビードと二人から拍手があり、更に友秋が続ける。

「こんにちはー、暁のアキでーす。よろしくお願いしまーす」

ぺこり、友秋が軽く頭を下げる。流石視聴者数ナンバーワンのコネクターだ。生放送と言うものに慣れている。

「師匠ッス。よろしくゥ」

翔は短く自分の名前を言っただけだったが、緊張していると言うよりは早く実況を見たいと思っているであろう視聴者の意図を汲み取って行った気の効いた行為だと感じられた。

「さぁ、張り切って行きましょう。今回のゲームは皆さんが実況しているSLOです!」

虹寮全員の自己紹介が終わり、三人が手もとのPCの画面に映し出されているSLOのログイン画面に自分のIDやパスワードを入力していく。暫くすると軽快なBGMが流れ始め、ゲームの開始を知らせた。


     ◆ ◇ ◆


 スタジオ近くの居酒屋に楓、友秋、翔の三人が集まって打ち上げをしていた。楓はまだ高校生なのでグラスの中はジュースだが、カーンとグラスを打ち付ける音が個室に響く。

「お疲れ様ー!楽しかったねー」

ほんのりと頬を赤く染め、友秋がジョッキを傾ける。中身はまだ泡の沢山残っているビールだ。

「ほんま、楽しかったな。あれやろ、あん時クロが授業でセンセに当てられたとき、コメ凄かったで」

コネクト生放送『ゲーム日和』では放送中コネクターにコメントを送れる機能が付いている。今回の生放送では楓が授業クエストで先生に当てられて答えに戸惑っていたときの応援コメントが一番多かった。

「あれは忘れてくださいよ…」

SLOの授業クエストで出る問題は授業をしっかり聞いていれば解ける問題だが、運悪く楓はその時の先生の言葉を飛ばしてしまいわからなかったのだ。そのため視聴者の中でやったことがある人たちに答えを教えてもらい事なきを得た。

「『クロ頑張れー』とか『さくさくプレイはどうしたー』とか沢山コメ来てたな」

ククク、と翔が笑う。友秋と同じものを飲んでいるためいつもより少しテンションが高い。

「でも、最後の何だったんでしょうね…『これよりお迎えにあがります』って」

生放送の最後、珍しいクエストを発見し攻略した。クリア後のメッセージに『クエストクリアおめでとうございます。隠しステージへの挑戦権を得ました。これよりお迎えにあがります』と表示されたのだ。しかし、ゲーム内でのイベントは無かったので三人は不審に思ったのだ。

「まーそのうち来るんじゃない?ゲームの隠しステージの〝迎え〟がさ」

友秋があっけらかんと言ってのける。そうだと良いがゲームの不具合だとしたら運営に報告しなくてはならない。報告係の楓は面倒くさそうに眉を潜めた。

「そうだと良いですね」

そう言って笑った楓の顔がどこか寂しそうだったのは友秋も翔も気づかなかっただろう。

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