8話 ~無駄遣いは身を滅ぼす~
結論から語ると、メアが求めた薬は手に入らなかった。
だから今回の話はコレでおしまいである。
「ちょっと!何たかだか二行で話しをまとめてるのよ!」
「え、だって面倒くさいじゃん。メアちゃんだって急ぎたいんじゃないのかと思って。」
だからこれは俺の粋な計らいです。とかいう言い訳は、余計にメアを怒らせるだけに終わった。
仕方ない、これ以上我がPTのお母さんを怒らせるわけにはいかない。
俺はしぶしぶ口火を切ることにした。
王都の北側に位置する大型の病院。
何しろ王都自体が広いのでそこまでは小振りなトロッコ列車に乗っていくことになった。
「はーい!まっことにありがとうごじゃりまする!!国立デステニー大病院行き。発進しまぁっす!」
オレンジ色のネズミなのか熊なのかわからない生き物が先頭車両で大声で叫ぶ。
なんだか怒られそうな名前なんだけど大丈夫なの?
これは誰が怒られるの?ゲームを作ったタナカさん?それとも王都を創り上げたメグ?それとも筆者?
何はともあれだ。言いたい事があるんだけど・・・
「このトロッコ、もうちょいスピードでないの?」
そう訊くと車掌らしきオレンジの生物は勢いよく俺の方へ振り向いた。
「仕方ないのだ。小さいお子さんも乗られるのだ。スピード出すと危険なのだ。」
なら俺の顔面に直撃する固い尻尾の件は関係ないってか?危なくないっていうのか?
ネコは後に座っていたメアに助けられて無事だった。
「これなら自分で歩いた方が速いんじゃねぇか?」
「別にいいじゃねぇか。トールだって子供の頃はこういうの憧れたりしただろ?」
「子供の頃はな。でも今は子供じゃないし。」
「え、でもさっきアナタ言ってたじゃない?」
メグとの会話にメアは人差し指を俺に向ける。
「俺が何を言ってた言うんだよ。」
「わぁ!!おいコレってジェットコースターじゃね!?一度乗ってみたかったんだよなぁ!おい早く乗ろうぜ!!俺、一番前な!!って子供みたいに・・・」
ギャァアアアアア!!!
言ってましたぁああああ!!!
実際に乗ってみて肩透かしな現状に、絶望し、そして手のひらを返すような態度をとってしまいました!!
「すげぇなメア、トールのモノマネ。本物より似てたぜ?」
「メアはすごい!」
「俺がニセモノだって言うのかぁ!?」
でも、確かにちょっと似てた。メアちゃんは何でも出来る優等生ママだものなぁ!!
「不愉快だから一生封印するわ。」
なんで俺はゲームの中でもこんなに蔑ろにされなくちゃならないの?
「因みに俺もモノマネは得意だ。色々出来るけどどんなのがいい?青い猫型ロボットとか、ツギハギだらけのグロテスクな熊とか。」
「止めろよ。今日は危険な橋を渡る日なのか?それは、多分、俺とメグにしか通用しないようなネタだから意味ないぞ?」
しかも、どっちも中身は同じじゃねぇか!新旧は別として・・・。
しかし、ネコはネコで見れればなんでもいいという風だ。
好奇心旺盛なのはいいことだな。将来有望だ。道を踏み外さなければいいんだけどな。
「まぁ、道を踏み外してるって言えば、道を踏み外してるって感じよね。目的はあるけど迷子のようなものだし・・・」
「いや、迷子じゃないだろ?皆で俺のハーレムを作ってくれるって言う目標があるじゃないか!」
心を一つにしようぜ!と俺は声高々とそう拳を掲げる。
「さぁ!みんなでいざハーレム!」
「いや、私は薬が手に入ったら一度、妹の住む実家に帰りたいんだけど?」とメア。
「ハーレムってなんだ?」とネコ。
「いや、俺はただ面白そうだからついっていっただけなんだが?」とメグ。
うーん、みんな心はバラバラだ。
そりゃ最初はいがみ合ったり、心は離れ離れだけど、いざって時は心は一つになるものさ。だってそうだろ?『人』という字は支えあって出来ているんだから。
はい。ここテストででます!!
「トールの場合、『人』っていうか『囚』って感じだけどな。」
「誰が引きこもりだっ!!」
「違うのかよ。」
「そうだよ引きこもりだよぉん!!」
まぁ、しかし今の現状としては俺もメグも同じような状態にあるので、実際はブーメランでもある。
本当の意味での『囚』って漢字が当てはまる。
「しかし、俺は窮屈なのは苦手だから壁は常に破壊する。俺の邪魔をする奴等はみんな叩き壊す。言いたい事も言えないこんな世の中は常に破壊する」
閉所恐怖症だもんね。毒っぽいことを吐いていらっしゃるけども!
囚われる事になったのは、単純にタナカさんのミスでなんだけどね。よし、ログアウトしたらタナカさんを一発殴りに行きましょう。
俺が受けた苦しみとたっぷりなタワワに酔わせてくれたお礼を込めてだ。
長い長いトロッコの旅を終えて、俺達はメアの言っていた大病院の前にたどり着いた。
なんだか見た目的には、王都全体の雰囲気とは違ってファンシーとかじゃなく純和風って感じだった。
昔の旅館?遊郭って言うの?なんかもう病院だと言われてもわからない。
だから、むしろ子供は入ったらいけない店って感じで、
俺は思わずネコに「ちょっとここは危ないから外で遊んでおいで。」と言ってしまうほどだった。
寧ろ俺も一瞬自分が入っても大丈夫なのかと躊躇してしまった。
「アナタは何を勘違いしてるのよ。」とメアに呆れられた。
「だって、こんな外装じゃわかんねぇって。コンビニでエロ本コーナーと少年誌のコーナーをソワソワしながら行ったり来たりしてる俺の気持ちがわかるか!?
居てもいい。読んでもいいのに、なんだかまずい事をしている。そんな気持ちになる。
そんな青少年の気持ちがお前のような優等生様なんかにはわかんねぇんだよ!」
何かが俺の中で爆発し焦りだす。
「なんで怒ってるのよ。」
「ガラスのハートなんだよメア。童貞ってのはこんなもんさ。」
また一つ勉強になったな。とメグ。
余計な事言うな。
というか、そもそもこんな紛らわしい建物作った張本人がそういう事を言うのか・・・。
「ちょっと純和風を取り入れようと思っただけなのに、勝手に遊郭とか言い出したのはお前だからな。」
それを言われちゃ言い返せない。
「いいからさっさと行くわよ。」一人だけ早足で歩き出すメアを慌てて追いかけるべく
俺もレンガを引っこ抜いて遊んでるネコを引っつかみ、いつも通り頭に乗せる。
もうなんだかチャイルドシートみたいだ。
遊郭・・・じゃなくて病院の中に入ると驚いたことに、なんか普通の病院って感じだった。
普通とは言っても、魔術とかファンタジー世界な感じっていうか、そういう感じの内装とかじゃなくて、なんだか寧ろ現代に近い感じだった。
木造の作りで、大きな待合室には柔らかい長椅子がいくつも並べられていて、小さな子供や老人がそこに座っていた。
「えっと、すみません。受診予約した者なんですけど?」
カウンターの方に向かいメアは着物姿の女性に声をかけた。
着物姿で看護士ってなんか凄くいいなぁ。黒髪日本女性はこうでなくちゃって感じだ。お人形さんみたいで髪はツヤツヤサラサラで、伏せた目がエロい!
やっぱここって遊郭なんじゃないか!?
「メア様ですね。ありがとうございます。お時間ちょうどですね。あちらのワープ装置で診察室へ入ってください。」
普通とは言ったけど、ワープ装置なんてもんがあるらしい。
あんな見た目で『ワープ装置』なんて言われると、なんだか違和感で不思議な感じだ。
「どうも、よく来なさったな。今日はどうなさったね?」
診察室は、シータンの店と同じく圧縮空間でも施されているのか、とても広々としていた。
こちらは普通の病院というそれとは違い、なんだか診察室というよりはもっと別な個室という感じだった。
そんな広々とした部屋で、机にドカリと胡坐をかいて座る着物姿のひとりのおじさんと、その机の脇で読書をしているやっぱり着物姿身体の小さな女の子が居た。
「失敬だね君は。」
またしても人のモノローグに勝手に忍び込むキャラクターの登場かよ。俺のプライバシーなんて誰も尊重してくれないのかよ!
「アタシはおじさんではない。見た目はそうかも知れないが、しかしココは一つ名前で呼んで頂こうかね。アタシは『ツイングベルトグーネル・J・リースリーティングル
フォービュラーファネクトロイ・ウージー』という。」
よろしくお願いもうしあげる。っと頭を下げる。
「そして、こっちはアタシの可愛い可愛いカワイーイ妹。『ニコラスミュルニス・J・スレミニングルチェーシャミンロウシーズ・ハーミットガウル』だ。」
よく若手芸人がコントのときに「名前だけでも覚えて帰ってください。」と言うが、その名前だけでもってのが意外と難しいものだったりする。
大抵は、見た目とかそんなんだ。もっと酷いと「なんかこんな感じのやってた」程度で名前も顔も存在感もあやふやだ。
名前覚えるのにどれだけ苦労してると思っているんだ!
小学、中学、高校と好きな子の名前くらいしか覚えてないぞ俺!そんな俺の前でそんな長い名前のキャラクター登場させて、どういうつもりだよ!
「私はメアと申します。よろしくお願いします。ツイングベルトグーネル・J・リースリーティングル
フォービュラーファネクトロイ・ウージー先生。」
流石、優等生メアちゃん!!記憶力も次元超えてる!!
ツイング・・・先生もちょっとビックリして「オ、オゥ・・・」ってなってる。
「今日はスキルを抑える薬を処方していただけるという噂を耳にして、ココまできました。」
「─スキル。」
メアは【次元魔法】について先生に説明した。
そのスキルがどれほどチートなのか、そして、どういう副作用なのか。というのを─。
「時間で戻るのなら、わざわざ薬を使ってまで抑える必要はないんじゃないかね?薬にだって副作用はあるんだからね。効き目の強い薬なら尚更だ。」
薬もタダじゃない。とそう先生は言う。
確かに、そんなイレギュラーな薬、いちいち処方してもらうにしても結構、値が張りそうなものだ。
「体力を回復する。魔力を回復する。状態異常を回復する。これらの薬は総じて普通の店だと200Pの値が付きます。うちで処方すると、少しボーナス効果が
付与される物が多く効き目も高いので少しだけ高くなっています。場合によりますが、消費税込みで260Pほどですね。」
そう妹ちゃんの方が淡々と言う。
「そうそう。偉いぞ可愛いぞニコラス。流石はにぃにの妹だ。」
ウージー先生は妹の頭をゴツゴツした手でグリグリと撫でる。羨ましい。
しかし、ニコラスちゃんは無表情でその手を払いのける。嫌われてるのか?
「撫でるときは右手じゃなくて左手、いつも言ってる。」
「あぁ、そうだったそうだった。すまなかったな可愛い妹よ。」
何か拘りがあるようだった。いや、どうでもいいんだけどさ!まぁ、俺が撫でるときの勉強になったな。
「スキルの効果を抑制、封印する──しかも、通常とは違う貴重なスキルとなれば、同じく貴重な材料で調合しなくてはなりません。」
「しかしだ、今うちにはその薬の在庫も、材料も足りていない。」
だから、提供するのは難しいと二人に言われてしまう。
「材料」
メアはウージー先生に言われたワードを繰り返す。
「その材料はどういうものを使うですか?どこで手に入るんですか?私達が取りに行きます」
矢継ぎ早に言う。
「私、達!?」
「何か?」
『達』という複数形。それに驚愕したのをメアは俺を鋭く睨みつける。メイド長と同じような鋭さだ。
だけど、メイド長はなんていうか切り裂き突き刺す、加えて毒まで付与するような、そんなヤバイ目つきしてるからメアちゃんはまだまだってところだな。
この俺を動けなくするくらいの迫力はあるんだけどね!
「ナンデモナイデス。」
「ずいぶんと強かなお嬢ちゃんじゃないかい。そのスキルを抑制する材料なんて骨が折れるぞ?だからアタシとしては目くじらを立てるようなもんでもないから
ほっといてもいいんじゃないかと思うんだがね?別にいいじゃねぇか。ドワーフやババアになるくらい。ほんのちょっとの事だろ。垂れるほどの胸でもないから
大丈夫だ。安心しろ。」
ウージー先生がそういうとメアの身体が、頭のてっぺんから爪先まで真っ赤に発光した。暖炉みたいだ。これは寒い冬に電気が止まっても暖かいぞ!
「というかメア、焦げ臭い!おちつけ!」メアの立っている絨毯に引火していた。
メグは慌ててどっかから引っ張り出してきた水をメアにぶっ掛ける。
ネコはメアから漂う焦げ臭さに今朝食べたご飯のおこげを思い出し涎を垂らし始めていた。
「メア、落ち着きを取りもどさないと服まで燃えて全裸になっちゃうぞ?」俺は大歓迎なんだけどね。大歓迎なんだけどね!
炎の拳で殴られた。
これはお得意の次元魔法ではない。
「にぃに、垂れる胸の話はニコラスに対しての当て付けか?極刑に───した!」
「ま、まて!わかったわかった。全てアタシが悪かった。謝ろう。謝るから!謝るって!!いててててて!!!千切れる!!千切れるって!!」
(ウージー先生がどのような仕打ちをされているのかはご想像にお任せします)
あっちはあっちで大賑わいだ。
「お嬢ちゃんのスキル、【次元魔法】を分析した結果だが──、こいつがなかなかに難儀なもんで。薬程度でどうこうできる程のもんじゃねぇってのがわかった。
力を使うと化けるって事は、それは必要以上に暴走してしまっているって事だからねぇ本来は、ちょっとでいい魔力消費率を明らかに超えちまってる。
だから精神や身体に負担がいっちまってるんだろう。」
そうウージー先生は言う。
確かに、俺を助けてくれた時やネコを攻撃した時もありえない程に派手な演出、エフェクトをきかせて辺りを吹き飛ばしていた。
「火事場のバカ力ってやつか。もしくは映画に出てくるゾンビとか?トールはゾンビ映画好きか?」
「おお!なんかグロくて好きだぞ!鮫映画とかもいけるぜ!」
「内臓とか飛び出るスプラッタなのがな!」
「たまらんよなぁ!」
リアルなプレイヤー同士の会話に汚い花を咲かせているとニコラスちゃんが小さな咳払いをした。怒っているらしかった。
「次元魔法を使うと起きる負荷をコントロールする薬。いえ、装置を装備してはいかがでしょう。アナタは見た目的にケチそうなのに、
魔力に関しては無意識に無駄遣いをしているところがあると思われます。」
「君達が集めた材料でアタシが薬を作り、それをさらに装備してもらうことで、お嬢ちゃんの無駄遣いを抑えつける。」
「しかし、スキルがスキルなので完璧にアナタの無駄遣いスキルを我慢させることは出来ません。いいですか?」
「無駄遣い無駄遣い五月蝿いわね!!」
メアはまた発熱を始める。
そして、そこから発せられた焦げ臭さにネコは眠りながら腹を鳴らし俺の頭の上で涎を垂らす。
メグは発熱するメア目掛けて水をぶっ掛ける。
「だから、全裸になるぞ?」
今度は上段回し蹴りをされる。お前実は格闘家か何かだろ!あと、ちょっと見えちゃった。ラッキー!!
「まぁ、じゃぁどんな材料が必要なんだ?クエストとして俺達で集めてくるぜ。さっきメアが言い出したようにな。こっちはそこそこレベル高いメンツだから
いくら貴重な素材とはいえなんとかなるだろ。・・・一人を除いて・・・。」
俺を見るなよ。俺を・・・。
そして、ウージー先生はメグのその言葉を再確認し、読み上げながら俺達に告げる。
「『ナキワライのハッシュドキノコ』をいくつか、『クルシミマスイガグリの核』が何個か、『ブンゴウドラゴンのダイアの心臓』を一個。
『三郎の親指の爪の垢(耳垢でも可)』がそこそこ・・・」
「・・・・・ずいぶんざっくりとした数字、というかアバウトじゃないか。」
「そいつあ仕方ねぇ。アタシだって人間だ。それに成功確立が低いからねぃ。ブンゴウドラゴンの心臓はでっかいから別にいいけどね。余ったら余ったで買い取らしてもらうから
お嬢ちゃん達も財布が潤っていいじゃないの。」
確かに・・・ワンセットいくらで売れるのかはわからないけど、新しい装備くらいは買えるんじゃないだろうか?
いつまでもモブレードのままってのも忍びない・・・というかいい加減返却しなきゃだ。
「三郎の親指ってのはなんだよ。」
「あぁ、三郎って名前の人捕まえて、譲ってもらえれば、どこの、どの三郎さんでもかまわねぇよ。」
いっそ、そのまま三郎って人にそのままご同行してもらっても構わないと言った。
それは流石に・・・申し訳ないから遠慮した。
「爪垢とか耳垢じゃないとダメなんですか?流石に他人様の爪垢なんて・・・」
恥らうメア。いや、恥らう部分とかじゃなくない?
「毛髪とかでも構いませんよ?」
「それなら」
「「いいんだ!!?」」
折角メアがどういう女の子なのかわかってきたと思っていたのにわからなくなってきてしまった。
「トール、妹と暮らしていた頃は妹の身の回りの世話、下の世話、喜んでなんでもしたわ。」
「へぇ、そうなんだ。でも今そういうはなし関係ないよね?」
そういう過去編は今度スピンオフか何かあったらゆっくり聞こう。あといいなそういうの!羨ましい!
「あと一種類、これがなかなか入手が難しい。」
ウージー先生が難しい顔をした。今までにないくらい難しい顔をしている。
きっと、本当に本当、貴重も貴重なものなのだろう。
「これは高級な調味料なんだが最近数が激減していて絶滅危惧種として扱われる超高級食材だ。」
全員が息を飲んだ。
「『人面ナメクジ』だ。」
どうも楓希な火薬です。
金に飽かせる程に物事を一生懸命生きることは大事でしょう。
しかし、お金は麻薬と同じで身を滅ぼすこともあります。
本当はみんな『お金』がほしいんじゃなくて『お金』の先にある価値が欲しくて求めるんですね。
・・・だからなんだというはなしですが・・・。
メアちゃんのお金の使い方はどうなんでしょう?作中では語っていないんですけど
個人的には必要なものは買うけど、ある程度は節約したいってキャラクターなのかな?
だから、トール君が言ったみたいにそういう面もスピンオフか何かあれば書いてみたい気もします。