7話 ~世界で一番怖い存在~
『・・・んー、そうらしいですねぇ。なんかサービス終了の通知に気付かなかった方、結構居たみたいですねぇ。』
相変わらず間の抜けた声でタナカさんは説明する。
「というかサービス終了とかになるなら、そのままゲームから除外されたりするもんなんじゃねぇのか?」
『よくわかんないです。もういいですか?今日これから東京の夢の国行くんでスマホのバッテリー温存しときたいんですけど?』
「へぇ、夢の国行くんだ。いいなぁ!」
そのまま永眠してくればいいのになぁ!!
俺たち、ちゃんとリアルに帰れるんだろうなぁ。
「タナカくん、キミは夏休みの宿題はちゃんとやり遂げる真面目くんだったかい?」
『っはっはっはっはっはっはっはっは!!』
「っはっはっはっはっはっはっはっは!!」
笑い声の押収と共に通話を切ってやった。
「まぁ、別にいいじゃん?俺もそんなリアルに未練なんてないし、リアルに戻れないんなら大義名分としてずっとゲームの世界で遊ぼうぜ。」
「なるほど、メグって暢気だなぁ」
もしくはバカな子なのかも・・・。
王都についてから散々歩き回った挙句、メグのライブと、そしてさながらテーマパークのような街並みを連れ回されてクタクタになってしまった俺は、
俺達は宿を取った。
メグも一緒になってついてきてしまったのは謎なんだけど・・・。
「俺は最近、そんなに楽しくないよ。ずっとバイト漬けだし・・・ゲームってこんな糠に詰められた野菜のようなもんだったか?」
「トール、元気ないな。これ食べていいから元気だせ。」
「へぇ、ネコ、俺に気を遣ってくれるのか、ありがとう。」
ネコが握り拳を俺の手のひらに乗せる、まるでお手をするような形で。
「何かな。ってギョギョオオオオオオオオ!!?」
ネコが小さな手に握っていたそれを俺の手に託したそれは
オッサンの顔がついたナメクジ・・・人面ナメクジだった。
フライパンに乗せると『グギャアアア!!あっついぃいい!!』という野太い断末魔と共に紫色の油分を分泌する。
焼肉や卵焼きを作ったりする際、抜群のスパイスとなる。
その上、腰痛、肩こりにとても効果があり回復アイテムとしても使える。
見た目はグロテスクだが中々、入手できないレア食材の一種である。
「嬉しいよ、ネコ・・・。でも今はそういうのとは違うかな。」
「だけど、しっかり受け取るんだな。」
今度、ゆっくり使おう。
売っても高いしな!
「もっとあるぞ!いっぱい居たからいっぱい捕った!」
そう言ってアイテムボックスに手を突っ込んで、無造作に人面ナメクジを握り締めて見せびらかす。眼球とか飛び出してる!可哀想だからやめたげて!
「あ!こら、ネコ!そんな汚いものもってきて!捨ててきなさい!」
買い物から帰ってきたメアちゃんが早速ネコをしかりつける。
「や!!トールにあげるんだもん!!」
「バイ菌がついたらどうするの!いいから私とお風呂行くわよ!」
「やぁー!オフロいやぁー!」
いっそう強く握り締めて部屋の中を縦横無尽に走り回る。
そして、それをママと化したメアも追いかける。
「そうだぞ、ネコ。バイ菌がついたら身体が痛い痛いになっちゃうからさ。4人でオフロにはいろう。」
「さも当然のように覗きを働くんじゃねぇよ。」
「違うよメグ。俺は覗きがしたいんじゃないんだ。四人で肌と肌をすり合わせて身も心も信頼し合いたいと思っているだけさ。それに覗きなんて俺の趣味じゃない。
見るなら堂々と見る。真顔で見る。そして抱きしめたい。」
「成るほど、ロックだな。」
納得はしてもらえたのにメグは俺にかけたアームロックを解いてはくれない。
可笑しい!お前もボケ担当だと思っていたのに!!
──という阿鼻叫喚な夜のイベントを終えて俺達4人は宿を後にする。
因みにピンクでムフフな展開は何も起きなかった。
その代わりに、どういうわけか朝、目が覚めてみると俺は吹さらしのベランダに居た。
俺って夢遊病の設定とかあったっけ?
寝ている間に、というかトイレに行ってそのまま寝ぼけてベランダに出てしまったりとか
そういえば、魔法使いとか魔女とかが夢遊病患ってるみたいなはなしを聞くけど、あのコミカル魔女っ娘のシータンとかも
夢遊病だったりするんだろうか?
夢遊病の状態でもあんな激しいダンスを踊りまくっているのだろうか?
今度会ったら聞いてみようかな。
「さて、次はメアの言ってた薬だったな。どこで手に入るんだ?」
「それなんだけど、王都の北側に大きい病院があってね。そこの先生にしか処方してもらえないらしいのよね。スキルをわざわざ抑え込む薬なんて普通無いでしょ?」
確かに、自分のスキルを束縛しようなんて考える奴、普通は居ないか。
俺達みたいな頭の可笑しなチートスキルは例外としてだ。
ネコの場合は食って寝ればいいだけっぽいけどな。
「メグはこれからどうするんだ?またライブとかするのか?」
「いや、乗りかかった船だ。俺もお前達についていくよ。」
「いいのか?なんだかこのゲームの世界では有名芸能人みたくなってるのに、忙しくないのか?」
「芸能人は言いすぎだろう?ちょっと有名にはなってきてはいるけどな。まぁ、本音を言うと俺から頼みたいところなんだ。なかなか外の空気を吸う機会無くて
このままじゃ酸欠になるところだ。」
「ふーん」
「そんなわけだ。目的も決まったことだし、ちゃちゃっと行こうぜ。」
そう言うと彼女はいそいそと俺達を背中から押す。
なんというか妙に急かす感じだ。
「メグ!やっと見つけましたよ!!」
「!!」
メグが力任せに俺とメア、(あと俺の頭の上にしがみ付くネコ)を押しているところへ背後から怒鳴り声が聞こえた。
「昨日のライブから突然姿を消したと思ったらこんなところに!」
「・・・アミナ」
背後からズンズンと地面を踏みつけながら迫ってくる。
長い長い赤い髪の毛に三角形の眼鏡に、このゲームの世界観に似つかわしくない背広のようなものを着た女の子だ。
委員長キャラか!?委員長キャラなのか!?
あぁ、しかしタワワじゃないのがちょっと減点対象かなぁ・・・。
いやいや、しかし少し発育してる感じはあるし、あとは質感や形によるからその辺は実際に触ってみないとどうにも・・・。
「「おい・・・」」
「すみません自重します。」
四方八方から鋭い目線で串刺しにされる。
「ごほん・・・、私はアミナ。彼女、メグのマネージャーをしているものです。」
「どうも、俺は勇者トールといいます。」
「とても勇者のような格好には見えないけど?」
窓ガラスに写る俺の格好は彼女、アミナさんが言うように勇者のそれではなかった。
だってあれだもの、
昨日、メアちゃんに服を買ってもらったけど、単純に店のエプロン姿じゃみっともないってだけで、とりあえず人前に出てもいいってレベルにしただけだもの。
今度またメアちゃんに装備買ってもらおうっと!
「発想が完全にニートみたいになってるんだが、トール、お前自称勇者として大丈夫なのか?」
「いいのいいの。メアちゃんは俺達のPTでは実は『お母さん』って呼ばれてるから。」
「誰も呼んでないわよ。アナタだけよ。」
「え!?そうなの!?メアって俺のお母さんじゃないの?」
「やめて。いや病めて。」
どうやらメアがお母さんだったのは俺の気の所為だったようだ。
でも俺はこれからもメアをお母さんキャラとして広め続ける!!その為に俺はこのゲームを生き抜いてみせる!!死なないけど!!
「ちょっと、ちっとも話が進まないんですが?」
ほったらかしにされて、アミカさんは痺れを切らしたようだ。
「メグ、貴女、昨日の打ち合わせサボりましたよね?今月はまだライブの予定があったはずですが?今日も打ち合わせをサボるつもりですか?」
「うん。サボる。」
あっけらかんとして答える。
おい、明らかにあちらさんキレてるのに、爆発寸前なのに涼しい顔して煽るのか?
「お前さぁ、本当打ち合わせ好きだよなぁ。ライブよりも打ち合わせのが多い気がするぜ。」
「好きとか嫌いとかじゃありません!きちんと打ち合わせして、リハーサルしないと!失敗したら困るでしょ!」
「失敗にビビッてたら俺は音楽なんてやっちゃいないぜ?いや、失敗するのも楽しみの一つだろ?お前は日焼けが怖いから外に出ない吸血鬼か何かか?」
「本番で失敗したら色々な人に迷惑が掛かります!楽しいだけじゃダメです!」
「クハッ!お前何いってるんだ?楽しいから音楽やってんだろうが。」
「もうメグ!!わからないことばっか言って!わかりました。勝手にしなさい。勝手にして頭冷やしなさい!!」
アミナさんは顔をトマトみたいに真っ赤にして走って去っていった。
「メグ・・・さん?いいの?あの子すっごい怒ってたし、それにライブの打ち合わせとかって・・・」
「あ、メグでいいぜ?いや打ち合わせって言っても、ただのごっこ遊びみたいなもんだからな。」
「─ごっこ遊び?」
ずいぶんと幼いワード、形容詞だ。
「ちょっとだけ長い話になるけど聞くか?」
「長いのか。じゃぁいいや。」
「「聞けよ!」」
サラリと断ろうとすると、またしても四方八方から怒られた。ネコは寝ぼけて俺の頭を齧りだした。関係ないんだけどね。
──そう、ごっこ遊びだ。と言っても俺はアミナのマネジという称号を認めては居ないんだけど。
俺は基本的に説明書だとかチュートリアルなんて数をこなせば勝手に身につくもんだろうと思ってたから
だから何も考えずにただただゲームの空間を、風景を、匂いを五感を楽しんだ。
そうして、ゲームにのめり込んで何日かたった頃なんだが、このゲームの練成システム?みたいな存在を知ったんだ。
なるほど、割と自由が聞くものだなと関心した。というかビックリした。
昔、俺がやってたゲームなんかとはわけが違った。
時代は変わるもんだなぁ。
あぁ、そうそう!
何が凄いって、エネミーを狩ってレベル上げたり、料理出来るのとかはもちろん、
開拓とか建築とかまで出来るみたいでな。
だから、山とか時間掛けて削って整地して、そんで家とか建てたりしてたんだ。
面白いからそんなことばっかしてたら、何もない山が王都ってレベルにまでなっちまったんだけどさ。
そんで、今度は武器とか防具とか作ったりして、売ったりしてたんだ。
あらかたレベル上げとかも終わって、十分遊びまわってふと思ったんだよ。
「ひょっとしてギターとかも作れるんじゃね!?」ってな。
いや、まぁ、思ってた通りしっかり作れちまったからな。感動したもんだぜ。
そん時はじめて作ったギター、名づけて『MEGUMI』。っておい、そのまんまじゃんって顔すんなよ。別にいいだろ?
なんとこの『MEGUMI』はエレキギター仕様にもなるし、アコースティックギターにもなる、
アンプとかに繋げる必要もなく、俺の気持ち次第で自在にエフェクトも掛かる。そして変形して剣にもなるという優れものだ。
武器種は、さしずめサウンドブレードってとこだな。
おっと、このままじゃ永遠と『MEGUMI』の話で終わるとこだった。
トールのその眠そうな表情でやっと気付けたぜ。すまんすまん。あ?いや、眠ってただろ!ちゃんと聞けよ。
もうギターの話は終わりだからさ!
でだ、俺はゲームん中でギター弾けるなんて思ってなかったから嬉しくてな、
だからあっちこっちで弾き語りとかしてたんだよ。路上ライブってやつだな。
したらある日だ、あいつ、アミナが来たんだよ。
「私をマネージャーにしてもらえませんか?」と言った。
なんでも、初めて俺の路上ライブを見てからずっと付きまとってたみたいだな。ストーカーみてぇだろ。
俺は、「いや、俺はただの弾き語りさんだから、そういうのは要らないかな。」って何度も突っぱねたんだけど、
だけどあいつ何度も俺の前に現れやがったんだ。
俺が路上ライブする場所は言わずもがなで、狩場もな。
俺が寝泊りしてるスラム街の部屋にまで現れたときは流石に狂気を感じたぜ。
なんか気付いたらアミナはいつも俺の前に、横に、背後に現れていた。
「あー、もうわかった。いいよもうマネジで。だから頼むからもう部屋にまで入ってこないでくれ。」
俺はそう言った。
「ダメです。貴女はすぐに逃げるのでマネージャーの私がしっかり見守ります。」
「羨ましいな。」
「どこがだよ。」
トールくんの気持ちはメグには理解してもらえないようだった。女の子が押しかけてくるなんて、俺としては夢のような夢なんだけど。
夢のような夢・・・・。
というか、色々とツッコミどころがあるんだが順番にいこう。整理整頓して話をしよう。
破天荒奇天烈すぎなんだよなコイツは・・・。
「王都を・・・作った!?」
「ん?あぁ、王都を作ったのは俺だぜ?」
メアは目玉が飛び出した。俺の目玉も飛び出した。
しかし、メグ本人はあっけらかんとしている。街ひとつ作ってしまうなんて、こいつゲームに対して頭が可笑しいだろ。やりこみ率が!
「というか、練成が出来たとしても街なんて作れるもんなのか?」
「出来るわけないでしょ。」
「ですよね!!」
普通は出来ない。そう『普通』のゲームシステムならだ。
「メグ、お前何か変わったスキルとか持ってたりしないか?というか持ってるだろ。」
「あ?いや、だから話聞いてなかったのか?俺はチュートリアルとか見ないって。だからスキル云々とかわかんねぇんだよ。」
何でお前がキレてるんだよ。
「えっと・・・」
と言ってベンチから腰を上げて操作の説明をする。
なんでゲーム始めたばかりの俺が、おそらく古参であるところのメグに、こんな初歩の初歩を教えなくちゃならんのだ。
というかメニュー画面も開かずによくずっとゲームしてられたな。
「金色に光るスキル名・・・ってこれか?『無限錬金』ってやつ。
えーっと、『まぁ、なんでも作れるし何でも壊せる。創造と破壊の二束のわらじ的なスキル』だとさ」
画点がいきました!!
そりゃ国だろうが街だろうが作れるのも当たり前か。
なんだよそのバケモノみたいなスキル!あ、まぁチートだもんね。しかたないね。いい加減にしろよタナカさん!
「じゃぁ、お前等は街とか作れないんだな。」
「作れねぇよ。」
「そっか、まぁ、だから重宝してるぜ。何でも作れるし、何でも壊せるってのはな。俺って閉所恐怖症だからさダンジョンとか風穴開けて行けるし
昨日なんて宿の壁邪魔だったからぶっ壊して吹さらしに出来たしな。」
お前の仕業かい!!
てっきり俺が夢遊病だったんだと思ってたわ!!
「まぁ、アミナに関しては実は結構このやり取りしてんだよ。俺がどっかでかけようとする度に現れるんだ。下手すちゃ昨日ベッドの下に居ても可笑しくなかったんだぜ?
まぁ、それはアミナだけじゃなくて、ちょいと過激なファンも何人か居たから多少は居たかもしれんな。」
やだ怖い。というか確かになんか視線は感じてた気がする。
「ストーカーって怖いな。」
「そういう事。だからまた出くわさないようにさっさと行こうって事だ。」
このゲームで・・・この世で最も怖いもの、それはモンスター、エネミーではなく人間であり、ストーカーという種族なのかもしれなかった。
メグの閉所恐怖症というのも、ひょっとしたらその部屋に勝手に侵入していたストーカーの女の子が原因でなってしまったのかもしれない。
だから、メグの無限錬金も彼女にはぴったりの靴だったのかもしれなかった。
人間には怖いものや苦手なものは数多く、星の数ほどありますが、
皆さんにはどんなものを苦手としていますか?
どんなものをトラウマとしていますか?
私は蜘蛛が実に苦手で同じ部屋に居るだけで何も出来なくなってしまいます。
しかし、やっぱり知らないものっていうものというか自分の認知していないものはやっぱり怖いですよね。
それが何をしてくるかわからないし、予想出来ないものは怖い。恐い。
ある日、仕事とかで疲れて帰って来ると家には知らないオッサンとか居たらやっぱり恐いですよね。
「え!?っちょ!?誰!!?」っていう感じで。いや、知っている人だとしても予想していなかった事態に一瞬フリーズしますよね。
そんな感じで、今回は恐い人を描きました。
なんだかシリアスっぽくなってしまったけど大丈夫。いつでもトールくんの周りは平和?ですから。