5話 ~トールの肉は蜜の味~
リアル過ぎるゲームと謳われ、だけどそれも程ほどでいいんじゃないの?と思う。
それはそれで今更でしかなかった。
副作用のある【次元魔法】をチートスキルにもつ美少女エルフのメアと一緒に俺は王都を目指して
街の外を出ていた。
もう既に体験済みだけど、やはり自然豊かなのは実にいい。
青い空に、ファンタジーを思わせる緑豊かな草原。花の香りのしそうな爽やかな風。
唄うようにさえずる小さく可愛い鳥達。
いつものように川で巨大モンスターに食される村人。
それらに手を振りながら俺は二回目のクエストとして突き進む。
「ところで王都って遠いのか?」
前回モブさんに貰ったマップには最低限のエリアまでしか表示されていなかったので実はこのゲームの全体図を知らない。
「地図くらい買っておきなさいよ。冒険者として常識でしょ?」
「給料もらってなくて、今金欠なんだよ。食費にあてちゃったし。」
元はといえば娼婦なお姉さんに全部スられてしまったのが始まりなんだよな。
そして、そんな俺に対しメアは「計画無しだと将来的に困るわよ。」と言った。余計なお世話だ。
「でも、メアちゃん探索者なんでしょ?この世界の事詳しいだろうしナビとか出来るんじゃないかなぁって。ヘイ、メア!王都は遠いのかい?」
「そんな知恵袋みたいな呼び方しないで。まぁ、貴方よりは詳しいのは事実でしょうけどね。王都は遠いといえば遠いけど近くもないわ。」
徒歩で充分いける距離だと言った。
なるほどなるほど
とか思って数分、
「あの・・・メアさん。王都はまだつかないんですか?流石に青々とした木々とか見飽きたんですけど?遠くないって言ったじゃん?」
虫の息、青菜に塩という感じで俺は息を切らしていた。
メイド長が俺に対して「やはり虫ね」と言っている幻聴が聞こえてきた。トールの心の体力が少しだけ回復した。いや、なんでだ!?
メアは襲い掛かってくるゴブリンを蹴散らしながら
「近くもないって言ったでしょ?」
と汗一つかくこともなく言った。流石上級レベル。ゴブリン程度じゃ歯が立たない。
「女子力高めのエルフ様は半日歩けば疲れないか知らないが、こっちは引きこもりのただのタワワヲタクなんだよ。自分で言ってて悲しくなるわ!」
「なんの話しよ。」
ダメージ概念はないんだけど精神の疲労はやっぱりしっかり受ける。
半日歩けば俺じゃなくても普通の人間はつかれると思うんだよ。いや、俺はそんなにお外に出ない子だからわかんないけどさ。
「というか喋る余裕あるなら座ってないで貴方も戦ってよ。女の子一人に戦わせてそれでも貴方男なの?心痛まないの?」
「いや、前に出たら前に出たで怒られるんじゃないかなぁって。」
「チキンか!」
全うに怒られた。しょうがないじゃんコミュ症なんだもの!
中学の頃に真面目に掃除当番やったのに下手過ぎてクラスの女子に「ちょっと男子!ちゃんとやってよ!適当するなら邪魔だからあっち行って!」と
言われた時の事を思い出してしまった。
あの時の女子、元気かな?元気だったら不幸になってくれないかな?あーあ・・・。
「さっきから貴方、なんで泣きながら笑ってブツブツ言ってるの?」
「え?あぁいや、ちょっと昔の事を思い出したんだ。・・・ありがとうメア。俺を必要としてくれて・・・」
「・・・・・・・・・」
俺は思った。
きっと誰かに呼んでくれるだけで、必要としてくれるだけで、ただそれだけでよかったんだ。俺が欲しかったものはきっとコレだったんだ。
それが例えゲームであっても、俺は必要だといってくれる彼女の為になら戦える。
リアル過ぎるゲームの中で、俺は戦う!
「どうでも良いけど、貴方後ろ、敵来てるわよ?」
「よこせ!!」
背後からの攻撃をスキルがガードした。
そして、攻撃主は俺を足蹴にして地面に着地した。
頭にボロボロの布きれをフードの様にして被り、体中を覆っていた。ちょっと見えそうで見えないところがいいキャラデザをしていた。
正直、露出度の高く短いスカートとかが大好物なんだけど、しかし
こういう厚着のキャラってのも想像力が焚きつけられて実にいいものだ!
恐らく細いばかりの矮躯がそのボロッちい布でブカブカでちょっと触れれば脱げてしまいそうで危険だ。そんなに激しく動いて大丈夫なのか!?
そんな心配が俺を覆う。
「意味の分からない事考えるのはいいけど、貴方めちゃめちゃ攻撃されてるの気付いてる?」
「大丈夫大丈夫。『無敵』でガードされてるしさ。・・・でも」
あらゆる方向からの嵐の様な攻撃はいちいちビビる。効果音とかエフェクトとか、「え?今の大丈夫だよね?骨とか中で爆発してたりしないよね?」と
不安になる。
「もう!何やってんの!」
――ガッ!
切りかかるメアの攻撃を受け止めた。
高レベルのメアちゃんの一撃をあろう事かその敵は素手でガードした。
更にそのまま・・・身体を二体に分離させて襲い掛かってきた。
「よこせ!よこせよこせよこせ!」
「ちょうだいちょうだいちょうだい!」
「うぉ!?ちょッ!タンマタンマ!!」
五月雨でも浴びるかのように攻撃を受ける。スキルで大丈夫とはいえ、この激しい音とエフェクトむっちゃ怖い!
殴られたり蹴られたり噛まれたり引っ掛かれたり。
「分身スキル!?いや、でも!トール!大丈夫!?」
「え!?何!?大腸菌!!?」
「大丈夫!?」
「あぁ!!?」
攻撃音がでかすぎてメアちゃんの声が聞こえません!今度は俺の方が老人化してしまったのだろうか。
「もう、鬱陶しいわね!もう限界。くらえ!15歳の頃、公務魔術士試験に失敗した時のイライラで妹と作った次元魔法!名付けて
【盗んだ騎馬】!!」
真紅の炎。つまり普通の炎に包まれた巨大な馬のエフェクトが二体周囲を駆け回り、そして木々を薙ぎ倒しながら駆け抜けていった。
これは、街中とかで使ったら人に迷惑が掛かるスキルだな。
後、どうでもいい情報を聞いてしまった気がした。
「す、すごい技だな。メア・・・・ちゃん・・・?」
振り向くとそこには、ずんぐりしたニキビやイボだらけのドワーフっぽいオッサンが立っていた。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・はやく王都に行かなくちゃな。」不憫すぎる!
ドワーフ(メアちゃん?)は無表情のまま「ウン。」と返事をする。
「・・・・・うぅ。」
足元で呻き声がしたので「うひゃぁ!」と俺はうっかり声を裏返して飛び退いた。
「な、なんだ、ただの小さな半裸の女の子じゃないか。・・・・猫ミミの・・・。」
倒れた木の根元にはボロボロになった布を身体に巻きつけたボサボサの髪をした猫耳少女が倒れていた。上半身裸で。
うぉおおおお!何か見えない力で、半裸に白い光が!!口惜しい!!なんでここだけ補正が掛かっているんだ!リアル過ぎるゲームなんてなかったんやぁ!
頭を抱えて俺はモノローグでそう叫ぶ。
「いや、全部丸々口に出してるけど?」
ドワーフのメアちゃんは無表情のまま言う。
その顔で言われるとなんかムカつくな・・・。でもなんかデカッ鼻に蝶々とか止まってるので微笑ましい。この子、真面目キャラじゃなかったのか?
「猫の耳・・・この子、獣人種ね。」
「獣人。ケモキャラか!いいじゃん。グッジョブだ。タナカ!!」
今度通話する機会があるならば、その時は褒めてやろうと思った。俺は何気に猫ミミ犬ミミもいけるんだよなぁ。
しかもロリキャラとは・・・・タワワじゃないけど、それはそれでいいのだ。
「獣人種は、この世界では殆ど絶滅危惧種で貴重なの。強靭な身体能力と優れた聴覚や嗅覚で普通の探索者では習得できないスキルが多いの。
だから、その殆どが探索者なんだけど・・・」
流石の知恵袋だ。見た目ドワーフだけど。
「だけど、何で私達を狙ったのかしら。貴方、人の迷惑になるようなことしてないわよね?」
「・・・・・してねぇよ。潔白潔白。俺の昔のあだ名は菩薩って呼ばれてるくらいだからな!」
「世も末ね」
過去なんて捨てる為にあるものだ。俺は間違った事は言っていない。気がする。
「毎日朝起きた瞬間、トール君は生まれ変わっているのさ。」
「羽虫から羽虫に生まれ変わっただけじゃない。」
「酷い!!流石にドワーフに言われて心躍るような事はないぞ!?」でも通常時ならわからない。
「・・・・ぅ、うーん。お腹、減った・・・」
フラフラと猫ミミっ娘は立ち上がりヨタヨタヨチヨチと、まるで亡霊のようにこちらへ向かって歩いてくる。
「お、おい!そんな今立ち上がると危ない!悩殺される!」
しかし、もちろん白い光で見えない。そして、目を塞ごうとした俺の腕を掴み彼女はむしゃむしゃと齧り付きだした。
ムシャムシャボリボリと。
「ちょ!痛・・・くないけど、よせ食うな!離せ!離して!」
「コラコラ!やめなさい!そんな汚いもの食べたらお腹壊すわよ!」
メアちゃんも猫ミミ娘を羽交い絞めにして引き剥がそうと奮闘する。というか人をバイ菌みたいに言うなよ。
やっとの思いで解放されると俺の腕にはくっきりと歯の痕が刻まれていた。
食われた痕が・・・。
「・・・ごちそうさま。」
「・・・・・お、お粗末様・・・。」
多分言うセリフは間違えている。
「アナタ、獣人の探索者でしょ?なんでトールを襲ったの?」
メアはアイテムボックスから適当に引っ張り出したマントみたいなのを少女に羽織らせた。余計な事を!!
でも、それはそれでちょっといい。グッジョブ!!
「・・・?トール?じゅうじん・・・?わからない。『アレ』より美味いのか?」
いまいち話が噛み合っていないというか要領を得ない。噛まれたのは寧ろ俺の腕だけだ。
寝ぼけ眼で、既に敵意は感じないとはいえ獲物を見るような目は変わらず俺に向けられていた。
警戒を解くにはまだ早いんじゃないでしょうかメアさん??
「アナタがさっき齧り付いたのが『トール』っていうの。なんで襲い掛かってきたの?」
「・・・トール・・・。トール美味かった!」
「なるほど、俺は美味しかったか。フフ、俺にも取り得ってあったんだな。」
今日はなんだか自分のレゾンデートルも見つかり価値も見つかって、良い日だな。
これからも自信を持って生きていけるような気がしてきた。
「なんで貴方は後ろ向きに前向きになれるの?」
「パラダイムシフトってやつだろ」
「そんなパラダイムシフトの使い方聞いた事ないんですけど。」
聞いた事のある言葉をただ並べただけとか絶対言えない。恥ずかしいから・・・。
「えっと、俺はトール。お前はなんて名前なんだ?」
「なまえ。なまえ・・・わかんない。」
そっかぁ、わかんないのかぁ・・・。
ちょっとゲームの主人公っぽい感じの言い回しで自己紹介したけど、あっさり跳ね除けられたというか、なんだか上手くいかないなあ。
キャラクター情報を見せてもらおうと俺は右手をかざす。
プレイヤーがプレイヤーの情報を見る事は出来ない。がプレイヤーが探索者の情報を覗き見る事は出来るようだ。
ネコ 獣人
Lv 88
HP 14000
MP 5600
状態 催眠
筋力 6890
敏捷 7300
知力 3000
魔力 3400
「自然回復Ⅷ」
「能力転移」
「縮地」
「夜光眼」
「野生の本能」
エトセトラエトセトラ・・・
メアちゃんと同じくパッシブスキルや戦闘時に自分で発動するタイプのものが点々といくつか見られるが
確かに、どうやら「ネコ」というこのキャラクターには普通は習得できない珍しいスキルがいくつか見られた。
体力や筋力等から察するに、がっちり最前線、完全なアタッカーという感じだ。
俺もこういう熱い攻撃型のプレイヤーになりたいものだ。
因みにネコにはメアちゃんみたいな免許だとか資格だとかは一個も無かった。
俺は最近、調理師資格を初級だけど取得したらしい。ゲームだけども・・・。ゲームだけども!!
そして、やはりというかなんというか、彼女、
ネコのスキル欄にもあった。
オレンジ色に発光するスキル名が刻まれていた。
【ドッペルゲンガー】
自らの体力を少し削り、その分だけ自分の分身を生み出し戦闘に参加させる事が可能。
「さっきのはこれね。」
いつの間にかドワーフバージョンから通常バージョンに戻ったメアちゃんが一緒にプレイヤーデータを開いていた。
身体から分身を作り二対一であった戦闘を二対二にして形成を逆転したスキル。
いや、別に逆転される程に状況はこちらに向いていたわけではないんだけど・・・。
「分身スキルってのは実は普通に習得できるものな。だけど、この娘のは異常ね。」
「俺、スキルとか詳しくないからわかんないけど、そんなに変なのか?獣人でも?」
教えて!メア先生!
「おほん!普通の分身スキルは基本的に習得出来たとしても、それは寧ろ分身というより身代わりみたいなものよ。
敵が自分達のパーティより多く出現したり、圧倒的に戦力に差がある場合、ヘイト値の高い身代わりを置いて撤退する程度の使い道しかないの。使い捨てスキルって感じね」
と説明された。
「なんだ、店での俺みたいな存在か。」謎の親近感。
「まぁ、そんな感じね。」
俺の卑屈はフォローされなかった。
そしてそんな分身スキルのまさに上級スキルがつまりこの【ドッペルゲンガー】ってやつなのか。
いいなぁ、かっこいいなぁ・・・。
タナカさん、なんで俺にはもうちょいカッコいいスキルつけてくれなかったんだろうなぁ・・・。
「お前らさっきから何喋ってるんだ!わかんない!お腹へった!」
「あぁ、ごめんね。今トールと貴方の晩御飯の相談をしていたのよ」
「おお!」
「ネコは晩御飯、何が食べたい?」
「トール!!」
「・・・・・・・・・。」
なんか、まるで母と子という微笑ましい光景なのに、なんだか無理問答を見ているようだ。
お久しぶりです。ご無沙汰です。
楓希な火薬です。
閲覧、ご愛読を本当にありがとう御座います!
そして、大変長らく更新が止まってしまって申し訳ありません。
果てさて、長いこと待たせてようやく三人目のハーレム、ネコが仲間に加わりました。
そして、メアちゃんのドワーフ化。
この先、トール君たちの旅をどういう感じにしていこうかと頭を捻りながらまた更新しようと思います。
今後ともまた気が向きましたら呼んでくれたらとても嬉しいです!
これからもハレゲーをよろしくお願いします。