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1話 〜チュートリアル、始めました〜




《ゲームのダウンロードを開始します》

 

 

画面中央に浮かび上がったメッセージをクリックして、オレは新調した最新のVRを装着した。

 

ワクワクドキドキで胸が高鳴る。

略して「ワクドキ」だぜ!


先日、長年の相棒だったPCにうっかりラーメンとジュースをぶっこぼしてダメにしてしまったので、ならばと思い、全てを最新の機能のPCに買いなおしたばかりだった。

もちろん、周辺デバイスも含めてだ。


もう、最強過ぎて『無敵』と言っても過言ではない程のPCだ。

 

《ゲームインストール中》

 

VRの画面に映る文字列を眺めながら、俺はラーメンをすすり、そして炭酸飲料の【ノーラ】で喉を潤す。


折角の『無敵』PCなのだから、何か新しく面白そうなゲームでもやりたい。

そう思い、そしてたどり着いたのがこの——

Sanctuary(サンクチュアリ)Heart(ハート)というファンタジー世界を舞台にしたオンラインゲームなわけだ。


『リアル過ぎるVRオンラインゲーム』

というキャッチコピーを見て、「ははーん! どこまでリアルなのか味わって差し上げようではないか!!」とモニターの前でニヤリと笑っていた自分自身が今は懐かしい。


だが、そんな事はどうでもいい!

このゲームは恋愛も出来るらしいので、あわよくばハーレムなんかを期待している。

いや、むしろハーレムこそがメインだ!


現実はそう甘くない、とはよく言うけれど、実際、現実がダメだったオレだからこそ、このオンラインゲームに賭けようと思う。

仮想世界ならば話は別だろう。

リアルの世界がダメならネットゲームの世界!

オレはもっと素晴らしく充実した生活を謳歌出来るに違いない。

桜色のライフスタイルを味わえるはずだ。

まさに桜花(おうか)なる日常を謳歌(おうか)出来る。

 

《ゲームインストール中》

 

待っている間にも、どんな女の子達に逢えるのだろうかという妄想は膨らんでいく。


知的でエルフのような金髪美少女とか

ちょっと無口だけど人懐っこいネコミミ娘、

怖がりだが男勝りな元気っ娘とか…。

そして忘れちゃいけないのが、王道のドジっ娘メイドさんだ。

ああ、もちろん巨乳だ! たわわだ!


おっと…いかんいかん、これではタダの変態じゃないか!

オレはこれからネットゲームをするんだぞ?

冒険者としての生活を楽しみに行くんだぞ?

あわよくば…可愛い女の子と桜色の日常を楽しむのだ! それだけだ!

これっぽっちもやましい気持ちなど…。

 

《ゲームのインストールが完了しました》


——キター!

さあ…ハーレムの時間だぜ!!


《プレイヤーネームを認証しました》


《冒険者トール様をこちらの世界へ迎え入れます》


《準備はよろしいですか?》

 

そうボイスメッセージが流れた。

そして、オレは胸の高鳴りを抑えながら叫ぶ。


「ああ! もちろんだ! 冒険者トール…行っきまーす!!」


《準備完了。 ようこそ、Sanctuary*Heartへ》


意識が落ちていく最中、隣の部屋から壁を蹴る音が聞こえた気がした。

 

 

ヒュー・・・・・ン

 

 

ズドンッ!!!

 

まるで、射撃訓練場の的相手にも関わらず、ロケットランチャーをその的目掛けて幾度となく撃ち込んだ様な地響きが聞こえた。

脳が揺れるくらい激しい音だった。

…どうやらオレはあの青なのかピンクだか分からない変な色の空から堕ちてきたらしい。


「お兄ちゃん大丈夫? 頭怪我したの? 痛い人なの?」


「ハハハ、大丈夫だよ。こう見えてお兄ちゃんは頑丈だからね! ありがとう、見知らぬ幼女よ!」


ログインして真っ先に見知らぬ幼女に頭の心配をされ頭を撫でられた。

まぁ、多分そういうイベントなんだろうが…うん! 可愛いから許す!!

というか、ログインのしかたが乱暴じゃないでしょうか?

リアルだったら即死ですよ?

…ゲームだからいいんだけども。

 

身体を起こして、辺りを見渡す。

右を向けば、荷馬車や騎士の格好をした強面のおじ様達が練り歩き、

左を見れば、果物や野菜を売る商人や老婆が居たり、小さな子供がやいのやいのと駆け回ている姿があった。


なるほど!

普通に平和な最初の都市って感じだな。


「あらあら、アンタ旅人さんかい? 若いのに偉いわねぇ、いい筋肉。 逞しいわぁ」


いきなり、娼婦の様な露出の高い服を着た女性にも身体を触られた…たわわだ!

幼女といい、お姉さんといい、このゲームは随分と女性からのボディータッチが多いようだ。 最高だ!!


娼婦の様な服装の女性と、見知らぬ幼女には軽く会釈をして別れ、大通りを歩いてみる。


少し歩いた所で、足元に5~6匹の…犬?豚?なんだか分からない毛むくじゃらの生命体を引き連れたおばちゃんに声をかけられた。

リアルでも居るよね! こういうワンちゃんを沢山散歩させてるフレンドリーなおばちゃんって。


「でも大変よ? 最近は物騒だし、どこも魔物でいっぱいだし、仕事といってもねぇ……安月給でこき使うところばっかりだから。 うちの息子も就職に失敗して部屋から出てこなくなっちゃってね〜!」


「……あらまぁ〜」


耳が痛いことこの上ない!

リアル過ぎて感動しているのか、何故か涙が頬を伝った。

流石だよ…『リアル過ぎるVRオンラインゲーム』。


「…アンタも大変だろうけど、これあげるから頑張りなさいね」


何かを察したのか、毛むくじゃらの生物を連れたおばちゃんはオレに飴玉をくれた。

 

飴ちゃんは甘くて、ちょっとしょっぱくて…多分ハチミツだろう。 ベタベタしていた。


VRだけど味を感じるのは多分、記憶とかなんとかとかがアレコレしてそういう風に感じるんだろう。

正直、オレにはそこまでの専門知識はないので説明出来ないのだが、それにしたって…


「リアルだなぁ…」


飴玉が入っていた包みをポケットにしまおうと、ポケットに手を突っ込んで気がついたんだが…どうやらさっきまで持っていた所持金の入った財布を取られてしまったらしい。


はて…どこかで落としてしまったのだろうか?

いや、まさかな……。

あんなたわわなお姉さんが!?


オレの脳裏に、身体をベタベタと撫でる娼婦風なお姉さんの素敵な二つの山脈を思い出させる。


そんなわけない!

あんなたわわな人がそんな事するわけない!

オレは信じている…でも、オレの中のもう一人のオレが言うんだ。


『トール…本当は分かってるんだろ? 信じたくなくても分かってるんだろう?』


「ああ…わかってるよ。 でも…」


『ああ、分かってる。 あんな素敵なたわわの持ち主がそんな事するなんて思わないよな。 だってお前は、オレなんだから…』


そうさ、本物の悪ってやつはいつだって善人面をして現れるのさ。

だから…あのお姉さんが…。


「さっき大通りで、スリを働いてた女が捕まったんだってよ! なんでも…スゲーたわわな姉ちゃんだとか!」


ははは。 人間不信になりそうだ…。

通りで商人らしき男と騎士の様な格好をしたおじさんが話しているのが聞こえた。


まぁ、ログインしたばっかで所持金なんて大した額は持ってなかったから別にいいんだけどね。

気持ちを改めて、オレは再度町の探検へと繰り出した。



「やめて! 乱暴しないで! 壊れちゃう!!」


「うるせぇ!」


飴ちゃんをを口の中であっちこっちにやって遊んでいると、酒場らしき所から、そんな薄い本のような如何わしい…いや、穏やかではない騒ぎ声が聞こえてきた。


「何かあったんですか?」


「いつもの事なんですけど、乱暴者のビリーがまた酔った勢いで暴れてましてね。 だからアイツにあんまり酒を飲ますなって言ってるのに…。 貴方、旅人さん? 危ないから近寄らないほうがいいですよ?」


痩せ細った幸の薄そうなお兄さんはそう言う。

なるほど、つまりこれは戦闘のチュートリアル的なアレだな!

街中での戦闘とは珍しいが…。

ここはかっこよく決めていこう!


「おいビリー! 呑みの席で暴れるなんてみっともない! 男の風上にも置けないぜ!」


「なんだぁ!?」


ギラリと野獣のような瞳がこちらを向く。


「そんな不届き千番! この冒険者トール様が成敗してやるぜ! さぁ、大人しくお寝んねしなっ」


床をダンっと蹴ってオレはビリーに飛び掛る。

そして、硬く握った拳を振りかぶり脳天に炸裂させ……ようとしたのだがビリーは上手い事避けたようだ。

まったく、酔っ払いのくせにやるじゃないか!


オレは、再度ビリーの顔面目掛けて拳を叩き込もうと跳躍する。

しかし、駆け出し冒険者なオレより酔っ払いビリーの方が一枚上手だった。

オレの拳をギリギリで避けたビリーは、防御が完全にお留守なオレの顎を目掛けて、太くて硬い拳を叩き込んでくる。


ぐっ! これは避けられない!

オレは来たる衝撃と痛みに備えて、目を閉じ歯を食いしばった。


ゴンッ!!


硬いものを素手で殴るような音がしたが…。


「いでぇぇええ!! なんだこいつ! なんて硬さしてやがんだ!」


殴ったはずのビリーの拳が赤く腫れている。

あれ? オレは今殴られたよね?

しかし、視界の左下に映るステータスには何も変化が起きていない。


「えっとー…」


「この小僧! さては防御魔法でも仕込んでやがったな!!」


防御魔法?

オレが? いつ? どこで?

急いでステータスの下にあるスキル欄を確認しようとしたのだが…ビリーは待ってくれないらしい。

腰に付けた短剣を抜いて、こちらに斬りかかってきたのだ。


短剣がオレの目の前まで迫ってくる。

このままじゃ、とてつもなく痛い思いをしてしまう!



しかし…気付いたらオレとビリーは床に突っ伏していた。

 

「…あの、大丈夫ですか?」


先ほどの幸薄なお兄さんの声で目を覚ます。

どうやら気を失っていたらしい。


「なんとか生きてます」


ゲームだしね。


「ちょっと貴方! こんなに店を滅茶苦茶にして、どうしてくれるの!?」


目の前には、仁王立ちで腕を組むメイド服のお姉さんが立ちはだかっていた。

もう少しで…見えそうだ。


「え、いや、暴れてたのはビリーさんじゃ?」


「知りません。 私は、自分のこの目で見たものしか信じない性分なの。 買出しから帰ってきたら、貴方とビリーさんが店をめちゃくちゃにしながら喧嘩してるところしか見てません!」


喧嘩両成敗です!と怒鳴られた。

因みに、先ほどの幸薄なお兄さんは知らない間にとんずらをかましていた。 酷いなぁ。


「この落とし前は…きっちり、身体で払っていただきますからね!!」

 

こうしてオレは、ゲームを開始して間もなくのチュートリアルでアルバイト生活を余儀なくされたのだった。




 

始めまして、火薬です。

まずは読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

初の合作という事あって浮き足立ち棒立ち状態です。

実はファンタジーっぽいのやってみたくて、けどなかなか実際には手をつけられなく

ずっと暖炉で暖めていたんです。気持ちだけね。

 

これからも、よろしかったら是非にまったりと読んでいってくれたらと思います。

第2話を乞うご期待。

2話のあとがきで、楓希の挨拶がある予定なのでそちらも乞うご期待!


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