13話 ~胃袋を掴みし者こそ真の権力者~
「僕としては、この本が一番御勧めしたいところだ。評判はよくないらしいんだけど要点は抑えているから解りやすいと思う。」
「あぁ、どうも。」
この素敵で、紳士で、なんかもう出てくる作品を間違えてしまっているんじゃないかっていう程のお兄さんは雲雀お兄さん。
大正時代?将校?って感じのスチームパンクな軍服に真っ黒いマントに身を包んでいる。ヴィンテージって言うんだろうか?オシャレでかっこいい!!
「そちらもとても良いですが、私はこちらのもとても勉強になると思いますよ。トール様はやる気が御座いますから、大変教え甲斐があります。」
「そうだね。君は賢いから君の言うとおり、こっちの本もきっとトール君に合うかもしれない。トール君、是非こちらの本も読んでみてくれ。」
「え、あぁ、ありがとうございます。」
雲雀お兄さんの隣に立つ『美』という字を身体で表現しきったような綺麗な女性は美幸お姉さん。
和セーラーって言うんだろうか?セーラー服なのに振袖みたいになっている。オシャレだなぁ。俺なんかと違って!!
黒い髪が腰まで伸びていて、なんだか綺麗な日本人形みたいだ。オシャレだなぁ。俺なんかと違って!!
二人とも俺やメグなんかと同じでタナカさんのドジによってこのゲームの世界に閉じ込められちゃった被害者プレイヤーである。
もっと言うと、二人は現実の世界では夫婦という仲であるらしい!!
「・・・・・・・」
被害者・・・なんだよな・・・?
二人見詰め合ってニコニコしてて、幸福オーラが滲み出ているんだけど!?爆発させてやろうにも弾き飛ばされてしまいそうだ!!
そしてトールくんは本を読むのは苦手だ。というか、勉強自体そもそも苦手だ。
いやいや、そんなもんわざわざモノローグを使って説明しなくても知ってるよなんて思わないでほしい。
っで、だからなんでまた、ようやく冒険に出始めたというのに、こうして本ばっかりの図書館みたいな図書館に押し込められて
まるで学生のようにお勉強なんてしているのかというとだ。
「悪いがバカな奴は入れない。」
最初の街から一番近い街、『メノメノ』。
なんだか可愛い感じの街だなぁとか思って俺はPTメンバー五人で街の敷地に足を踏み入れようとしたら、俺だけ門番っぽいのにド突かれた。
いや、門番・・・だよな?
なんか見た目は身体の小さな少年のような感じだけど、それでもしっかりとした頑丈そうな鎧を装備していた。
なんていうかキッズ装備って感じ。ただし、右手に握られた槍はなんだかプラスティックのような質感をしていた。
「バカってなんだよ」
「言葉の通りだ。頭の悪いお前みたいなバカは、我等の街には入れてやらない。そういう決まりだ。」
虐められてるみたいな気分だ・・・。
そういえば小学生の頃、クラスメイトの秘密基地的なものを見つけて、ちょっと覗こうとした瞬間、エライ目にあった事があった。
なんだ?この子供はあの頃のクラスメイトの化身か何かか?
「俺はバカじゃないぞ。」
「いや、バカだね。お前はバカそうだ。バカでマヌケで、あと弱そうだ。」
「あのね?あまり大人をそうやってバカにするものじゃないぞ?それに弱そうに見えるのは、そういう風に見えるようにしているだけで・・・」
「バカなお前が大人なわけねぇじゃん。言い訳なんてして恥ずかしくねぇのか?」
初対面なのに酷い言われようだ!!いくら温厚な俺でも怒るときは怒るんだぞ?
メアちゃんはともかく、ネコやメグ、それにララちゃんはどうなんだよ?
「まぁ、バカではあるわよね。」っとメアちゃん。
「レベルも高いわけじゃねぇしな。」っとメグ。
「よくわかんないです。」っとララちゃん。
「うまい!」っとネコ。いや、ネコのそれはいいところでも悪いところでもないだろう?
「ほらな。だからお前みたいなバカな奴は我等の街には入れられないな!帰れ帰れ!!」
怒鳴られた。
街の中から駆けつけたであろう、その門番によく似た子供達にまで帰れコールを浴びせられる。
カ・エ・レ!!
はい!!カ・エ・レ!!
あ、そーれ!カ・エ・レ!!
「俺のスキルって『無敵』じゃん?でもさ、『無敵』ってHPとかは減らないけど、心は磨り減るもんなんだな。」
意外と図太い性格をしていると自分で思ってたんだけど、それは俺が勝手に思い込んでいただけで、こんなに簡単にぽっきり折れてしまうもんなんだな。
あ?ひょっとして心折れて、精神崩壊して俺死んだ?心折れて俺死んだ?オレオレテシンダ?なんちゃって・・・へ、へへへへへ・・・。
「トール、なんか変。」
「ちょっと、気持ち悪いからいい加減に木箱の中から出てきなさいよ。ミミックか何かと勘違いされて討伐でもされても知らないわよ?」
箱の外からメア達が怒鳴る声が聞こえて来る。
その日、『メノメノ』のガキ共に拒絶されたので、臨時の宿屋みたいなテントを発見した俺達一行は、そこで一夜を過ごす事にした。
王都だったり街だったりにある宿屋と違ってただのテントである宿屋は本当に名ばかりであり、机があって床に敷物があって、頭上にランプがぶら下がってる程度で
、つまり雨宿りが出来るようなその程度の有様だった。
当然食べ物だってありはしない。
まぁ、臨時の宿屋だって言うんだから贅沢は言えたものではない。
「俺討伐されても死なないし。」
全然大丈夫。と俺はみんなを安心させにかかる。
「いや、心配が増しただけなんだが・・・。つぅか、お前が出てきてくれないと飯が食えねえんだけど。」
「トール!メシ!」
メグとネコは二人して自分たちの食欲だけをあらわにしているようだった。
メアは気持ち悪がって怒鳴る。純粋に心配してくれているのはララちゃんだけだった・・・というよりはよくわかっていないらしかった。
「俺じゃなくても、みんな料理スキルあるだろ。」
「料理スキルはトールが一番高いからな!」
同じ冒険者に冒険者としてのプライドを叩き折られた。
今日一日で俺はどれだけ色々へし折られていくんだ!?
そして、俺は渋々と木箱から出てきて『ダイキンヒキガエルのムニエル』をみんなに振舞った。
結局、俺の所為で『メノメノ』に入れなくて、レベル上げ目的で、ゴブリンとか何か変な名前の猿みたいなエネミーとかを狩っていたりしたところで
雲雀お兄さん達に出くわしたわけだ。
「バカにされるならば、勉強をすればいい。」とかいう、リズムだけならマリー・アントワネットみたいなセリフを雲雀お兄さんは仰り、
俺達を最初の街の図書館へ連れて行ってくれた。
「『メノメノ』はレベルが高いからと言って入れるわけではないみたいだね。どうやら彼等の気分によるものだと、僕は思うのだ。」
「そうですね。そして彼等だってNPCの類。トール様のステータスも見抜いてしまうのかもしれませんね。」
「実際、僕のプレイヤーレベルもトール君と同じくらいのものだけれど、『メノメノ』には普通に立ち入りが許可されたよ。」
「あら、それは貴方が子供にとても優しいからですよ。」
「そうかな。そうだといいな。」
「うふふ」
「あはは」
「・・・・・・・・」
一定のリズムで雲雀お兄さんと美幸お姉さんは愛を分かち合う。って、自分でそう表現するのが恥ずかしいくらいだし!!
なんで俺ここに居るんですかねぇ!!
「まぁ、トールは優しくもないし、バカだからな。」と、メグ。
「しょうがないわね。」っとメア。
「でも、とっても美味い!」っとネコ。
「???」っとララちゃん。
因みに、雲雀お兄さんはレベルこそ俺とそんなに変わらないもののスキルの数はメアちゃんに匹敵するくらい膨大な数を習得しているらしい。
そして、勿論、例のチートスキルもあるらしい。
『神の対話』
なんでも、どんな種族、どんなエネミー、どんな相手とでも喋ることができる。というスキルなのだとか。
ゲーム内での異文化コミュニケーション・・・どころか動物とだって会話できるんだとか。
雲雀お兄さん曰く、だからわざわざ闘うこともなく交渉だけでやりくりをしているらしい。
「だって、争いなんて悲しいだけだろう?」そう仰った。神様ですか!?
そして、その妻である美幸お姉さんも、雲雀お兄さんと同じレベルであり。
主に料理スキルと調合スキル、裁縫スキルを多く習得している。女子力の高い御人であるらしい!!
っでだ、そんな美幸お姉さんの持つ例のチートスキルは、
『究極変異』
わかりやすく説明すると擬態。変身する能力だ。
巨人のようにでかくなる事も出来るし、小人のように小さくなったりも出来る(だからと言って服が破れたりとか、そんな事があるわけではない)
魔物に変身したり、動物に変身したりも出来る。
実はここに来るときも美幸お姉さんが巨大なフクロウに擬態して運んでくれた。
副作用は二人ともスキルを使うと眠くなってしまうという点で、そして、今俺がここで皆に見つめられながら勉強をしている目の前で
雲雀お兄さんに膝枕をしてもらって美幸お姉さんが美しい寝息を立てているところだ。羨ましい光景でしかない!!
集中できるかこんなもん!!!
「なるほど、『ブンゴウドラゴン』か・・・。噂には聞いた事がある。申し訳ないけれど、僕らもまだ会ったことはないなぁ。」
旅は続けているのだけれどね。
っと、雲雀お兄さんはそう言った。残念そうに。
「もしも、御逢いすることがあれば、ボイスチャットでトール様に御伝えしますね。」
美幸お姉さんはそう仰る。
なんだかこの二人の表現では、もうモンスターに遭遇するというより、お見合いでもするみたいな、なんだか平和な感じだ。ほんわかしている。
美幸お姉さんは実際寝起きであり、目がトロンっとしていてちょっと色っぽい。
平和だなぁ!!
「ありがとうございます。」
色々な意味で。
因みに、『メノメノ』には入ることが出来た。
結局、途中で集中力の切れてしまった俺は、デザートの本を見つけて行儀悪く立ち読みをしていて(結局、職業病が板についてるじゃん!)
無意識のうちにフルーツキャンディーの作り方を習得して、それを簡単に作って、『メノメノ』のガキ共に振舞ってやったのだ。
つまり、ガキの胃袋を掴み取ってやったという事だ。