11話 ~紅茶の味から沁みる苦難の味~
とんとん拍子でことが運んでいき、残りはブンゴウドラゴンのダイアの心臓だけとなった。
正直、シータン自身は不服そうであること、この上ないのだけど、その辺はこの前栽培したキノコを売って作ったお金で
お菓子を買ってあげる事で、なんとか目を瞑ってもらう事にした。
それでも、まだまだシータンは不服そうな顔を浮べていたのだけど、彼女もやはり子供なのだろう。
お菓子の前には適わなかったようだ。
「まぁ、折角の金が全部お菓子になっちまって、新しい装備を買おうとかいう目論みはおじゃんになっちまったんだけどな。」
武器屋の前で煌びやかに輝く数々の装備を外から眺めながら俺はグっと涙を堪える。
いいなぁ、いつか俺もあんなカッコいい武器を握り締めて、かっこよく冒険に出たいものだよ。
「そんなウジウジしないでよ。貧乏臭い・・・。」
「貧乏臭いんじゃなくて、現に貧乏なの!」
メアちゃんにそんな風に突っ込まれると、余計にひもじい気分になるな。
誰の所為で、こんな事になってると思ってるんだよ。
そう怒鳴りたい気分だ。
「まぁまぁ、これもゲームなんだからさ、使っちまったらまた貯めればいいだけだろ?昨日出来たことが、もう一度出来ないなんて道理はねぇだろ?」
メグはなんだか、もっともらしいことを言う。
「いいよな出来る奴はさ!」
言っている理屈はわかるんだけどな。ただそれが余計に腹立たしいんだよなぁ。
だってだぞ?
俺の頭の上に居座る大食漢が常に邪魔する所為で貯めようにも貯められないからな!
お陰で、俺は未だに装備を新調できずにギルドの受付嬢であるところのモブさんから借りパク中のモブレードを手放せずにいるのだ。
「逆に考えてみろトール。今、装備を新しく買いなおす事が出来ないという事は、まだその時ではないって事なんだよ。そう、それは神の定めし運命のようなものなのさ。」
「いくらリアルを謳っているとは言っても、たかだかゲーム如きの事で神様が運命なんてものを定めたりするのかよ。」
もし本当にそうなら、よっぽど暇なんだな、その神様ってやつは。
てか、余計なお世話以外のなにものでもないなそれ!
「そんな事よりも、ブンゴウドラゴンよ。」
「メアの【次元魔法】があれば、そんなもんくらい、一捻りなんじゃないの?しらんけど。」
「ブンゴウドラゴンはこのゲームの中でも最上級の強さを誇る強敵モンスターだぞ?いくらメアのスキルがあるからって簡単に倒せるようなもんじゃねぇよ。」
それに滅多にお目にかかれるもんじゃない。
メグはそう続けた。
なんとも、真面目な顔をしてそう言った。
「・・・じゃぁ、やっぱ難しいんじゃないの?」
そう弱音を吐こうもんなら、メアちゃんは呆れたというか憤慨したような声を漏らした。
だって俺ってさ、このゲームに脚を踏み入れて、まだまだチュートリアルをちょっと齧った程度の冒険者なんだぜ?
そんな奴がだよ?
いきなり、そのゲームの中の最強レベルのモンスターを討伐目標にしなきゃいけないだとか、無謀もいいとこだよ。
そりゃぁさ、件のチートスキル【無敵】によって俺はゲームの中で死んだりなんかはしないんだけどさ、
だからって無茶ってもんじゃないか?
「そもそも、そのブンゴウドラゴンってのはいったい、どこへ行けばお目にかかれるんだよ。それこそさっきメグが言ったみたいに神様の定めた運命とか何とかで今はまだ会うことは適わないもんなんじゃないか?」
「ブンゴウドラゴンの前に、トールのやる気を出させる方が大変だな。」
「そもそもさ、ブンゴウドラゴンってどんなドラゴンなんだよ。最上級のドラゴンって事はきっと、とてつもなくでかいんだろ?」
だってドラゴンだし、最上級なんだし、やっぱりでっかいんだろうなぁ・・・でかくて凶暴で、ヤバイんだろうなぁ・・・。
「それは、そのブンゴウドラゴンによって違うさ。人間の子供みてぇに小さいのも居れば、トールの言うようにムチャクチャでっかい奴も居る。モンスターによって違うって事さ。」
つまり、人間とかの個人差と同じように大きさだったり性格だったり、バラバラなのだとメグは言う。
「じゃぁ、温厚な性格のやつも居るって事か?」
「多分な。」
「多分なのか・・・。」
「あとは、ドラゴン族の中でも知能が優れているのも大きな特徴のひとつよ。ブンゴウ。だからね。」
だから人の言葉すら喋ることもできる上に、魔術の素養まであるんだとメアは言った。
「ブンゴウドラゴンの書く本はとても強力でね。それにとても貴重なの。物語であっても強力な魔術が備わっているのよ。」
メアは目をキラキラさせて語る。
「ふぅん。じゃあそんだけ頭のいい種族だってんなら、わざわざ戦わなくても礼儀正しくお願いすれば、ダイアの心臓少しだけわけてくれたりもするかもしれない・・・わけか?」
「多分な。」
「また多分かよ・・・。」
なんだか不安定な性格してるよなぁメグって・・・・。
「なんだよ。」
「なんでもないよ」
勘だけは鋭いらしい。
次の日、いつものアルバイトはまさかの臨時休業となっていたので俺達はそのブンゴウドラゴンについて聞き込みをする事にした。
何故、臨時休業になっていたのかというと、それは簡単。
メグが朝っぱらからルル様の目の前で弾き語りの練習なんてものを始めたが故である。
ルル様はメグのその姿を見た瞬間、床の上にまるでスライムにでもなったかのように解けて張り付いてしまっていた。
メグ自身は何が起きたのか全く気付いていないものの、いやしかし今回はメグのお陰でブンゴウドラゴンの散策に足を踏み出せるってもんだ。
前日にPTメンバーでディスカッションをしたものの、それはもうただの痴話喧嘩にしかならなかった。
あ、因みにネコはただただいつも通り眠っていただけだ。
「ブンゴウドラゴン?さぁ、ごめんなさいね。わからないわ。」
「悪いなぁ。オイラにゃわがんねぇや。」
「きいた事ねぇな!!」
誰に訊こうが、みんな同じような答えを返す。
情報はなかなか集まらなかった。
「どうぞトールさん。センネンアサガオの茶葉で淹れた紅茶ですよ。」
そんな俺は、一人杉下さんの家にお邪魔していた。決してサボっているとかいうわけじゃない。
「あ、ありがとうございます杉下さん。」
因みに今回の杉下さんは徹頭徹尾、爪先から頭の天辺まで、テディベアの着ぐるみで包まれていた。
オフの日であるはずなのに何故今日もそのようなお姿に!?
い、いやいやもうツッコむのはようそう。野暮ってもんだ。
「それで、ブンゴウドラゴンは見つかったのですか?」
「それがなかなか・・・。やっぱりこの世界でも架空の生命体なんじゃないだろうか?って疑い始めてますよ。」
「ブンゴウドラゴンは確かに貴重な存在です。探すにはかなりの根気が必要となることでしょう。何せブンゴウドラゴンは常に各地を旅している種族ですからね。」
「旅?」
そんな情報は今はじめて耳にしたんだけど!?
「とても知能が高い種族である事は聞き及んでいるでしょうか?彼等は更ならる知識を得るために様々な種族と同盟を組み、各地へ旅をしているのです。それが、ブンゴウドラゴンという種族なのです。」
故になかなかお目にかかれなくて当然だ。ダンディーな杉下さんはにこやかにそう言った。
じゃぁ、やっぱりダイアの心臓は無理なんじゃねぇか?
あぁあ、メアちゃんの希望は儚く散ってしまったか。
「いえいえ、諦めるにはまだまだ早いのですよトールさん。この街の近くにも時折、ブンゴウドラゴンはやってくるのです。彼等は色んなところへ現れるものですからね。」
「いや、俺がブンゴウドラゴンに会いたいっていうよりメアちゃんがどうしても会う必要があるってはなしなんですけど・・・・。」
まぁ、会って見たいっちゃ会って見たいんだけどさ。
「いっそギルドにブンゴウドラゴンの捜索を依頼しておくのもよいんじゃないかとは、私は思います。」
「えぇ?折角冒険者なのにまたわざわざ、ギルドで他の人頼るんですかぁ?」
確かにその方が手っ取り早いし楽チンかもだけど、俺の冒険者としての意義を消失しそうなんですけど・・・。
「でも、その方がルル様に怒られずに済むんじゃないですかねぇ?」
「それは・・・いや、何もせんでも怒られると思うんだけど?」
そんな未来しか見えない。
そして、ルル様に怒られる事が無いからといっても結局はメアちゃんとかに虐げられる事になる気がする。
「・・・・・はぁ。」
結局、未来は変わらないって事なんだろうなぁ。