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こじらせホビットの冒険   作者: ずんずん
6/18

賢者の言葉

「楽な死に方って……まあその辺の崖から飛び降りれば死ねるぞ」

 ぞんざいにポイントレスは、向こうの崖を指さした。

「そう言うの痛そうじゃないか。俺、大体高所恐怖症だし。もうちょっと、ふんわりと多幸感に包まれて、死にたいんだ」

「えぇ~。難しい質問だな。そもそもなんで死にたいんだ?」

 ふうぅぅっとジョンは深いため息をついた。

「息が臭い」

 ポイントレスは顔をしかめた。

「悪かったな!とにかくもうこんな人生はもううんざりなんだ。何をやっても満たされない。太古の遺跡も見たさ。竜も退治した。富もそれなりに得たけど、それほどでもない。一生遊んで暮らしてくには無理な金だろう。だからこれからも俺は冒険者稼業を続けなきゃいけない。もううんざりなんだ」

「冒険者なんて辞めればいいじゃないか」

「俺にはそれぐらいしか取り柄がないし。いまさら、他の職につくなんてできねぇよ」

 ふうぅぅぅっと今度はポイントレスがため息をつく番だった。彼の吐息はジョンと違って爽やかなペパーミントの香りがした。空気を読まずにジョンは続けた。

「最初はただ田舎のホビット庄から出たかっただけなんだ。だからやりたいことなんてないんだ。だけど、俺にはもうわかってる。俺が伝説の勇者になるなんてもう無理なことなんだ。俺は人間より、背が低いし、力もないし、おまけにブサイクだ」

「私は目が見えないが、確かにブサイクそうな顔をしてそうだ」

「今、目が見えないっていたよな!!?予想?!」

「しかし、まてまて」

 とポイントレスがジョンをさえぎった。

「お前が伝説の勇者になれないなんて誰にも分らないだろう。頑張ればなれるかもしれないぞ」

「頑張るって……」

 ジョンはじっと手を見た。見かけによらず固い手の平である。剣を振り、マメができ、マメがつぶれて、それでも剣を振り、そうして作り上げられた固い皮膚である。

「だったらどれだけ努力すればいいんだ?もう無理だ。どんだけ努力しても、たどり着かないんだ。あいつらが持ってるものを俺が努力したって手に入れられない」

 ぐっとジョンは手の平を握りしめ、すがるようにポイントレスを見上げた。

「手に入れられないって思ったら最初から無理だろう。全く、くだらない」

 ポイントレスは首を振って立ち上がる。

「久しぶりにきた客人がこんなにつまらない男だったとは」

 すうっときれいな弧を描いて、ポイントレスが手を挙げると、幕が閉じるようにあたりに暗闇が訪れた。

「!?」

 ジョンはわが目を疑った。焚き木は消え、波の音も消え、砂浜の砂利の感触も消え、完全な闇があたりを包みこむ。ポイントレスの白い笑顔だけが闇に浮かび上がった。

「おい!ちょっと待てよ!俺をどうする気だ!」

「この暗闇で孤独に打ち震えて死ぬがいい」

 ははっと彼は楽しそうに笑った。

「お前!ふざけるなよ!犯罪だぞ!?」

「ここは私有地だからオールオッケー。問題なし。次は巨乳の若いおねーちゃんが来ることを祈ろう」

 悪夢的な微笑とともにポイントレスの姿が消えていく。あたりはしんっと静まり返り、ジョンは身震いをした。


……もしも君が生き残ることができたら、今度はこの島を出て大陸をちょっと西のところに行ったところにいる“努力”の賢者イナフに会いに行け。彼女なら君が求めている答えをくれるかもしれない。


 それを最後にポイントレスの声が聞こえ、そして何も聞こえなくなった。


 そして、そこにあるのは何もない世界だった。



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