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こじらせホビットの冒険   作者: ずんずん
12/18

予兆

ドンドンドン!っと激しく玄関を叩く音がした。

「あっ!いけね!もうこんな時間だったか!」

 ジンジャーが慌てて玄関の鍵を開けると、泥酔した露出の高い女がぐでんぐでんになって部屋に入ってきた。

「ごめんね、マイコちゃん。一人で帰らせて……」

「ジンちゃんのばかぁ!なんで私のこと迎えにこないの!」

 酔った女はジンジャーの顔を見るなり、彼の頭をひっぱたく。

「ご、ご、ごめん。友達が来ていて……」

 殴られて乱れた髪を直しながら、ジンジャーは慌てて言い訳を言った。

 

 友達?

 

 いつの間に?

 

 ジョンとニクキュウは顔を見合わせる。

 どうやらこの半裸の女は噂のジンジャーの彼女の様であった。

「あー!そうですか!私のこと放っておいて、友達と楽しく飲んでたんだあ!あたしが働いてるのにジンちゃんは飲んでたんだあ!」

「ちょ、ちょ、ちょ。マイコちゃん。もう遅いから大きな声出さないの」

「あたしが悪いの!?大きな声出すあたしが悪いの!?あたし、もうやだああ!あんな仕事やだああ。汚いおじさんにお尻触られるのはいやだああ。ジンちゃんがもっとちゃんと働いてくれたらあたし、こんな仕事しなくてすむのにぃぃぃ」

 マイコはボロボロと泣き出して、その場に座りこむ。

「ちょっとマイコちゃん……。ジョンさん、すいません。マイコちゃん、酔っぱらっちゃってるみたいなんで、介抱してきます。今日はどうぞ泊まっていってください。隣の部屋空いてるんで」

 半笑いを浮かべながら、ジンジャーはマイコを引きずるように寝室に連れて行った。

 リビングに残されたジョンは、あっけにとられながら

「女と住むって大変なんだな……」

 と呟いた。

「ジョン、あのケースは特別だ。ああいう女はメンヘラって言うんだ」

「メンヘラリティ……」

 この日、新しい言葉を覚えたジョンであった。



 ギシギシ アンアン ギシ アンアン

 

 その夜、ジンジャーに部屋を借りたジョンは、隣の部屋の物音に眠ることができなかった。この小説一応、全年齢向けになってるんだけど、そろそろ怒られるんじゃないか?そう思いながらも、ジョンは気合いで眠りについた。


「……」


 眠りについたジョンの頬を2、3回ぷにぷにつつくと、彼が完全に眠ったことを確認して、ニクキュウは鼻の頭できぃっとドアを開けた。リビングへと出ると、そこには上半身裸で水を飲んでいるジンジャーの姿があった。

「よう」

 ニクキュウが声をかけると、ジンジャーは困ったように笑った。

「ニクキュウさん。すいません、お恥ずかしい所を見せて」

「女のお守りは大変だな」

 ニクキュウに言われて、ふっとジンジャーは笑う。月明かりに照らされた彼は美しく、ジンジャーは何をしても絵になる男だった。

「しょうがないですよ。僕が悪いんですから。マイコちゃんの言う通りなんです。僕がもっとしっかりしてれば、彼女もあんな仕事しないで済むんです。僕、借金もありますし」

「仕事を変えたらどうだ?割のいい仕事なんていくらでもあるだろう」

「いや、どうでしょうね。やっぱフード系からはフード系しかいけませんし。それにフード系は給料低いですね。同じ給料ならバイトのほうが楽っていうか」

 くわっと目を見開きながら、ジンジャーは早口でまくしたてる。

「やっぱりお前ねぇ。才能あるよ」

 うんうんとジンジャーはうなずいた。

「知ってるか?人生には予兆ってもんがあるんだ」

「予兆?」

 ジンジャーは首を傾げた。

「古代語で言うならば、サイン、シグナル、オーメン、オラクル、まあ色んな呼び方がある。人は誰でもその予兆を受け取っているんだ。お前は何度その予兆を見逃している?」

「え?」

「何度でもあっただろう。お前が楽士になるチャンスなんて。どうして、それを見逃した?」

「チャンスなんて……」

 ニクキュウの言葉にジンジャーは震えた。

 まるで、学院の鐘が耳の奥で聞こえるようであった。


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