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こじらせホビットの冒険   作者: ずんずん
10/18

ヒモ力

「僕、ジンジャーって呼んでください。本当の名前はトルバドゥールって言うんですけど、みんな名前が覚えられないんで、髪が黄色いんでジンジャーってあだ名なんです」

「ふーん……」

 ジョンは冷めた顔で、もきゅもきゅと出された飯を食べていた。ニクキュウは、足元で出されたおかかごはんをガツガツと下品に食べていた。

「冒険者さん、すごいですねぇ。強いんですね。冒険者とか僕、憧れちゃうな」

 キラキラとした目で、ジンジャーは急須で茶を注ぐ。

「ジョンでいいよ。冒険者とか、ギルドに登録すればだれでもなれるけど」

 ジョンはずずーっと出された茶を飲んだ。

「いやいや僕には無理ですよお。僕、酒場でウエイターやってるんですけど、僕が冒険者になれるとは思えないなー」

「ふーん。そう……」

 そうだよな。線も細いし、剣とか重い物はもてなそう……そう思いながら、ジョンはぐるりとジンジャーが住む部屋を見回した。

 こざっぱりとした広い部屋。調度品もしっかりとしていて、正直なところウエイターで働いて借金がある人間が住んでいける場所とは思えない。2DKでお家賃月々10万ゼニ―(※1ゼニ―=1円)はするんじゃないだろうか。

「君、ジンジャー君だっけ?借金あるわりには結構いいところ住んでると思うんだけど……」

「あっ、僕、彼女と住んでるんですよ」

 ジンジャーは照れたように笑った。

「へ、へー……」

「一人だと生活苦しいんですけど、やっぱ二人だとちょっと楽できますもんね」

 ぴきりとジョンは血管が浮き出るのを感じた。

 落ち着くのだ、ジョン。世の中には持てるものと持てざるものがいて、それは顔面偏差値で決まっているのだ。

 母さん!!なんで俺が産むときもうちょっと頑張んなかったんだよ!

 ちゃぶ台をひっくり返したい衝動を抑えながらジョンはジンジャーから目をそらす。その視線の先にほこりのかぶったハープが置いてあることに気が付いた。きれいな装飾が付いたそのハープは年代物のようで安物には見えなかった。

「なに、あのハープ」

「あ、あれはですね」

 ジンジャーはちょっと困ったように笑った。

「あれは僕のなんです。僕、こう見えて音楽学院に通ってたんですよ」

「音楽学院……」

 宮廷音楽家を育てる王家直営の学院である。卒業生は、貴族や王家に仕え、楽曲を奏で時として詩を作り、めっちゃクリエイティブなライフを送ることができる。ただ、学費はめっちゃ高い。

「音楽学院を出れるなんて、君、実家金持ちなんだね……。顔が良くて実家力じっかりょくも高いとか俺の人生全否定しにかかってるわけ?死ね」

「えぇ?!殺さないでくださいよ!僕の実家、そんなに金持ちなんかじゃありません!」

 ジンジャーはふううっと深いため息をついた

「僕の実家は地方でして、僕は小さい頃から人よりちょっとだけ楽器の演奏が得意でして、それで両親がちょっと無理して学院に入れてくれたんです。でも、卒業はできたんですけど、この不景気の中、どこの貴族も僕みたいな新卒音楽家を雇ってくれなくて……それでしょうがなくてウエイターとかやってるわけです」

「ふーん。それであのハープもう使ってないの?だったら俺にくれない?質に入れて金にしてやるよ」

「今までの僕のちょっと悲しい身の上話聞いてました?」

「いや、ぜんぜん」

 ジョンはハープを手に取った。ちょっと手入れを怠っているようではあるがいい質種になりそうである。しげしげとハープを眺めながらジョンは言った。

「ちょっと俺はよくわからないんだけど……音楽とかで食ってけるの?」

「うわっ!ひどっ!ちょっと、人の物を勝手に触らないでくださいよ!」

 ジンジャーは慌ててハープを奪い返す。

「これは、思い出の品なんですよ。今の彼女も学院で出会ったんですけど、一緒に貴族様のところで歌って稼いで買った初めてのハープなんです」

「ふーん」

 超つまんなそうにジョンは聞いていた。

「それでその彼女はどこにいるの?」

「あっ。彼女は今仕事に出てます」

「えっ。こんな仕事に?」

 もう夜半過ぎである。

「彼女は豪商のお抱え楽士に就職できたんですけど、やっぱまだ見習いでして、それじゃ食ってけないんで夜の仕事もやってるんですよ」

 あっけらかんとジンジャーは言った。

「よ、夜の仕事って?」

 ジョンはその響きにちょっと興奮した。

「踊り子ですね」

「お、踊り子って……その脱いじゃったりするやつ?」

「いやーそこまでじゃないっすけど、酒場でちょっと踊る仕事でして露出は高いですね。彼女、ダンスもうまいんですよ」

 これまたあっけらかんとジンジャーは言った。

「こやつ、出来る」

 足元で聞いていたのニクキュウの目が光った。

「出来るって何がだよ」

 ジョンが怪訝そうに聞いた。

「自分の女を苦界に落としておいて、この罪悪感の無さ。こやつ“悪”のポテンシャルがある」

「えっ。なに?その人事部の目?」

「君さ、ウエイターとか辞めてさ、ちょっと悪魔と契約してみない?君だったらすっごい活躍できると思うんだよね。顔もいいしさ。お給料は今の倍出すから考えてみない?」

「えっ、ほんとですか?」

「よせよせよせよせ!前途ある若者をたぶらかすな!」

 ジョンは慌てて二人を止めた。


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