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黒い球と真実

作者: 毛糸だま

 唐突だけれど、私は人間が嫌いだ。人間の中には当然私も含まれている。

自分の中の血管だとか、内臓だとかそういったものが目に見えないことが私には耐えられないし、周りの人間も同様だ。

目に見える全てのものなんて、全くといっていいほど本当のことを表してはくれない。


 本来、こういった考えは中学生や高校生の青春とともに終わるものだと思う。しかし、私の場合は社会人になった今も引きずっている。

本当はみんなそうなのではないか、と疑っている。自分も他人も何を考えているかわからない。そんな中でお金を稼いで生きていかなければならないのだから。


 人は、結局のところ自分が一番可愛い。助けてほしい時には、距離を取って私を見ている。助けてほしくない時にふらりとやってきて、何かあったらすぐに言ってねと言うのだ。


 部屋で一人になるといつも思う。一人でいるのは嫌だと。そして、私の理解者にそばにいて欲しいと思う。そんな人間現れるわけもないのだけれど。

 

 そうなれば、ぐるぐるぐるぐると酒を飲んでは、思考が回る。


 私が何のために生きているのか、それがわからない。ぐるぐると頭の中で思考が回り、戯れに男にメールを送って遊んだりもした。


 遊びの時の男ほど優しいものはないと思う。目の前には餌がぶら下がっているわけで、それを得るためにはとても私を尊重してくれる。それに、目的がわかっているのも安心した。

終わった後も追い払うわけでもなく、同じベッドで寝ると一日をやり過ごせた。


 そんな毎日を過ごしていた。


 お酒を飲んでぐるぐると頭を回していると、目の前に10㎝ほどの黒い球が現れた。


 その球はなんだかもやもやとしていて、まるで黒い雲のようであった。


 酒で思考停止している頭は、そいつをやけに冷静に受け止めた。指を差し入れると黒いもやに飲まれてなんだかほっとした。

がぶり、と何かに噛みつかれているようだった。心地よい痛みだった。指を一本二本と増やした。

がぶりがぶりと指は噛まれている。そして、指を増やすとその黒い球はだんだんと広がっていった。


 私はついに自分の腕をその球に突っ込んだ。激痛が襲い、目の前が涙で歪んだ。それと同時に非常に気持ちよさを感じていた。

たとえるなら、そう。戯れで遊んだ男に頭を撫でられたときに体に走った快感のような、そんなものだった。


 腕をそっと球から引き抜いた。傷一つ付いていなかった。そのことに途端にがっかりとした。


 自虐癖があるわけではないが、あれほどの痛みを感じたのに何の怪我もないのは、なんだか酷く損をした気分だった。


 黒い球はすっかりと大きくなっており、直径30㎝ほどになっていた。


 この黒いもやから見る世界は、どんなものなんだろう?


 一度疑問に思うともう駄目だった。私はその黒いもやのなかに頭を突っ込んだ。


 ばりばり、と咀嚼音がした。どこからか不思議に思ってはたと気が付いた。頭の中から音がしていた。脳を食べられているのか。

心地よさの中つぶっていた目を開けた。真実が見えた。










 うだるような夏の暑い日。公園のベンチに女性が座っていた。


 夏休みだからだろうか、小学生たちがボールを投げ遊んでいる。きらきらと輝く笑顔は太陽と負けず劣らずの光だ。


 「あ、やべ。すいません!」


 黄色い服を着た活発そうな男の子が、思い切って投げたボールが軌道をそれて転がった。その勢いのまま女性の足にこつん、と当たって止まる。

緑色のメガネを付けた男の子が、申し訳なさそうに女性に向かって走った。


 ふ、と笑って立ち上がった女性の手元、太陽と少年の光に反射して煌めいた

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