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格パラ  作者: 福島崇史
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新木の閃き

鈴本の出鼻を挫いた高梨の動き、、、

それは高梨が突然構えを解いたのだ。

気を外された鈴本、その顔には困惑が色濃い。

そんな鈴本の背に新木の檄が飛んだ。


「相手はノーガードやっ!行かんでどうするねんっ!!」


その声を合図にしたかの様に動いたのは、鈴本では無く高梨の方だった。

ノーガードのままうっすらと笑みすら浮かべ、ゆっくりゆっくり鈴本の方へと歩みを進める。

まるで散歩でも楽しむかの様なその姿に、鈴本の本能が危険を告げた。


全身の産毛が逆立つ感覚、、、

(このままやと、、、)

身体が恐怖に囚われてしまう前にと、己の身体に命令を下す。

(動けっ!!)

心の声を聞き入れた肉体は、打撃を放つ事で応えてくれた。

左ジャブから右ローキック、ベーシックなコンビネーションを出しながら間合いを計る。


しかし高梨は一歩下がっただけでそれをいなすと、打撃を空振りし未だ体勢の整わない鈴本目掛けて、グンッと一気に間合いを詰めた。

反射的にガードを上げた鈴本の左手首を掴み、スッと背後に回り込むと瞬きする程の間に立ち状態での関節技を極めた。


背中側に折り畳まれ手羽先の様になった鈴本の左腕はみるみる白くなり、その肩口はミチミチと小さく悲鳴をあげている。

まして鈴本の左肩は前の試合で脱臼を経験している。

1度外れた肩は「癖」がつき、脱臼しやすくなる。

早く逃れなければ、また外れかねない。

しかし幸いにも場所はコーナー付近の為ロープは近い。

セコンドの新木が声をあげた。


「足伸ばせっ!ロープ届くからっ!!」


その指示通りに鈴本が左足をロープにかけようと伸ばすが、それは虚しく空を蹴る事となった。

高梨が立ち関節を極めたまま、リング中央方向へと歩き出したのだ。

高梨の使った技術は逮捕術にも採用されており、刑事が犯人を連行する際にも用いられる。

その為、関節を極めたままの移動は容易な事だった。

じわりじわりと近付くリング中央部、、、


(あそこまで行ってもたら終わりや、、、)

鈴本は絞首台の階段を昇っている気分を味わっていた。

あらん限りに新木が叫ぶ


「外せっ!何とか逃げろっ!!」

叫びながらも新木は自分を責めている。

逃げろなど誰にでも言える、、、

具体的なアドバイスを送れない己が情けなかった。

長く格闘技を見て来たし、それなりに知識も自信はあった。

しかし実際の試合に出た事が無い為、経験の引き出しが無い。

ありきたりの言葉しか送れない自分がもどかしかった。

(考えろ、、、考えろ俺っ!)

あと数歩でリング中央へと着いてしまう緊迫の中、必死に策を探る新木。

「!!」

突然ある策が浮かんだ。

一か八かの妙案だが、長々と説明する時間は無い、、、

短い単語に凝縮して鈴本に伝える。


「前転っ!膝っ!!」


苦痛に顔を歪めながらも、その声に反応した鈴本は直ぐに意味を理解しその指示を実行した。

一旦のけ反る様にして勢いをつけると、腕を固められたままで前転をした鈴本。

左の肩と肘に電流が走ったが、その勢いにより技からは逃れる事が出来た。

しかしここで鈴本は止まらない。

前転しながら両手で高梨の左足首を掴み、自分の右足を高梨の股へと潜り込ませる。

「回転膝十字固め」

鈴本の一連の動きが終わった時には、立場が逆転していた。


リング中央にて膝十字固めを極めた鈴本だが、まだ極めが甘いらしく高梨がズルズルとロープ目掛けて這って行く。

その表情に先までの余裕は無く、脂汗を浮かべ削れそうな程に歯を喰い縛っている。


(高梨の顔色を変えてやる)

試合前に立てたその誓いは、早々に果たされる形となった。

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