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格パラ  作者: 福島崇史
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回りし者

高梨のB級コスプレにより未だ沸く歓声の中、ふいにコールの声が響いた。

「青コーナー!、、、鈴本ぉ博ぃ~!!」

コールを受けてもコーナーに凭れたままで手すら挙げない鈴本。セコンドの新木と共に高梨を()めつけている。

高梨のパフォーマンスは勿論だが、もう1つそれ以上に気に入らない事がある。


本来ならば先にプロデビューした自分が格上のはず、、、なのに今、自分は挑戦者側の青コーナーに立っている。

苛立ちから心がささくれ立つのが分かった。

大事な試合、平常心が必要なのは理解している。

だが鈴本は思う。

この怒りを良い形で闘志に転化してやる、、、と。

そしていつもマイペースな目の前の男、その顔色を変えてやる、、、と。



「赤コーナー!、、、高梨ぃ哲也ぁ~!!」

コールと共に着ていたレザーベストを脱ぎ捨てる。

眩しいライトの下で、胸に7つのキスマークが晒された。

再び沸き起こる笑いと歓声に拳を突き上げ応えている。

その姿が鈴本の苛立ちを更に増幅させた。

セコンドの崇は鈴本に土下座して詫びたい想いだったが、それをグッと堪えて高梨を送り出す。


「哲っさん、、遊びはここまでやっ!鈴本っちゃんを嘗めてかかったら痛い目見るで、、、」


「委細承知」

高梨は振り返りもせずにそれだけ答えると、マウスピースをくわえリング中央へと歩みを進めた。


リング中央にて対峙する2人。

レフリーの朝倉が両者のボディチェックを済ませ、確認の意味をこめてルールの説明をしている。

しかしそれは2人の耳には入っていない。

刺さりそうな視線を投げる鈴本と、それを平然と受け流す高梨、、、既に闘いは始まっているのだ。



鈍い金属音が試合の開始を告げる。

リング中央でお互いの右拳を合わせて健闘を誓い合うと、一旦距離を置き両者が構えた。

鈴本はいつも通り、得意の打撃を活かせるアップライトの構えから軽快にステップを踏んでいる。

対する高梨の構えは異質な物だった。


ベタ足で重心を落とし、左を前にした半身の構え。

右拳は顎の下に置かれ、左拳は腰の辺りに見える。

一見すると、アウトボクサーが多用するフリッカースタイルに似ているがそうでは無い。

そもそもフリッカースタイルは、リーチが長くジャブを有効的に使える選手の為の物だ。

鈴本が使うならまだしも、高梨が使うには利点が無い。


高梨が取った構え、、、

それは「中段構え」と呼ばれる少林寺拳法の基本的な構えだった。

プロデビューこそ鈴本が先だが、格闘技歴は高梨の方が遥かに長い。

そのキャリアの中でも、最も長く学んだのが少林寺拳法である。

この事が高梨を赤コーナーに立たせた理由であった。


堂に入った構えで跳ねる高梨。

鈴本の様にフットワークで前後左右に動く訳では無く、ただその場でピョンピョンと跳ねている。

これは相手が間合いに入った瞬間、素早く飛び込み初弾を放つ為の動き、、、


(やりにくいな、、、)

鈴本は思っていた。

見慣れぬ構えに、見慣れぬ動き、、、まして相手はあの高梨である。何を仕掛けて来るか判らない。


逆にこちらから仕掛けても、全てを返されそうな気がする。

自分より小さな高梨が大きく見えた。

自分が気で飲まれている事に気付いた鈴本、フットワークを駆使して高梨の周囲を回っている。

「弱い者が強い者の周囲を回る」

そんな格闘技界の定説が頭を過った。


あの時もそうだった、、、敗北を喫した前回の試合だ。

あの時も自分は清水の周囲をハエの様に飛び回り、そして最後は叩き潰されたのだ。

苦い記憶が甦る。

(クッ!、、、)

このままでは同じだ、、、と歯を噛み足を止めた鈴本。

覚悟を決め攻めに出ようとしたその時、高梨の意外な行動に出鼻を挫かれる事となってしまった。

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