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格パラ  作者: 福島崇史
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対照的な2人

第4試合と第5試合はグングニルの一般会員同士で、とあるテーマを以て行われた。

birthdayはグングニルの自主興行という名目ではあるが、まだまだ選手層の薄いグングニル。

第4試合にしてようやく初めて、純粋なグングニルの選手同士の闘いとなった。


青コーナーはグングニル設立と同時に入門し、キャリアはまだ1年だがセンスの良さでメキメキと上達した大川 卓。

対する赤コーナーはシュートボクシングの経験を持って入門し、正式にでは無いがインストラクターの様に打撃の指導を手伝っていた浪川 武志。


シュートボクシングとはキックボクシングに投げ技と、立ち状態での関節技を認めた格闘技で、浪川は5年のキャリアを持っている。

アマチュアトーナメントへの参加経験もあり、優勝こそ無いものの何度かは上位に入賞している。


キャリアは違えど年齢は共に25歳、、、ライバル心剥き出しでの勝負となったが、いかんせん経験と実力の差はどうにも埋め難く、11分7秒の間に浪川が5度のダウンを奪いTKO勝利を飾った。

確かに一方的な展開ではあったが、倒れても倒れてもその都度立ち上がる大川の姿は、観客の大きな声援と感動を誘った。


そして第5試合、、、青コーナーに立ったのは、大川と同じく未経験から1年の練習で育った園田 俊明。

入門当初はヒョロヒョロでマッチ棒の様であったが、真面目な性格も手伝い真剣に練習に取り組んだ結果、今では見事な痩せマッチョに仕上がっている。

年も18歳と若く、将来が期待出来る。


そんな園田の対戦相手は、高校の3年間レスリング部に所属していた山本 大悟。

県大会でベスト4にも入った事があり、浪川と同じく正式なインストラクターでは無いが、組技の指導を手伝っている。

170㎝・75㎏とガッチリしたガタイで、年齢は21歳である。


この第5試合、予想だにしなかったジャイアントキリングで幕を閉じた。

開始僅か2分34秒で、園田が裸締めによる1本勝ちを収めたのである。

これにはグングニルの面々も驚いた。

園田は確かに真面目だが、実力的に突出して目立った存在では無い。

その彼が実力者である山本を瞬殺したのだ、その驚きの大きさは言うまでも無い。


「経験者」vs「生え抜き」というテーマで行われた第4・第5試合は1勝1敗という結果で終わった。

特に第5試合は園田の下剋上成功によって、会場の熱を再燃させるに十分な内容と結果になり、次のセミファイナル鈴本vs高梨へと良い形で熱気を繋いだ。



その試合を目前に控えた鈴本、ミット目掛けて小気味良い炸裂音を控え室に響かせていた。

レフリーを終え、休む間も無くセコンドにつく新木がウォームアップの相手を務めている。

前回の敗戦によりパワー不足を実感した鈴本は、3㎏の増量をして今回の闘いに挑む。


それでも細身の印象ではあるが、筋肉での3㎏増量である、、、

パワーアップしたその打撃は、90㎏近い新木の持つミットですら大きく震わせていた。

相変わらず蒼い焔を静かに燃やしたかの様な闘志。

それを見届けた新木がミットを外し声を掛けた。


「ええ感じやっ!ほな行こかっ!!」

鈴本は無言で頷き、新木に続いて控室を出て行った。


別の控室では、高梨が崇を相手に動きのチェックをしていた。

ミット打ち等は行わず、崇の出す打撃を捌く動き、もしくは打撃を掻い潜って組みに行く動きを何度か繰り返す。

セコンドを務める崇が


「組技狙いで行くん?」

と尋ねたが、いつもの飄々とした調子で


「ん、わからん。鈴本の出方次第やなハハハッ!」

と笑っている。


闘志の焔どころか、その火種すら見せない様子に

(らしいな、、)

と、半ば諦めにも似た溜め息を吐き出した崇。

ウォームアップを終え、水を一口飲んだ高梨は


「そろそろ行こか」

我が家の玄関から出掛ける様な気負いの無さで控室を出る。崇が慌ててそれを追い掛け出て行った。


昔からよく知る友人同士の2人。

この試合が決まってからは一定の距離を置いていた。

と言っても高梨にそんな気は毛頭無く、鈴本がほぼ一方的に距離を置いていたのだが、、、

ストイックで静かなる闘志を秘めた鈴本。

飄々とどんな状況でも自分を崩さない高梨。

そんな対照的な2人が相まみえるセミファイナル。

2人をよく知るグングニルのメンバーからすれば、この1戦はある意味、他の試合のどれよりも興味深い物だった。


それぞれの想いが交錯する中、ゴングの時は近づいていた。


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