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格パラ  作者: 福島崇史
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ねみみにみず。

三ノ宮、、、言わずと知れた神戸一の歓楽街。

賑わう街のその中心部に、およそ似つかわない場所がある。

「生田神社」

今は離婚してしまったが、某女優と某お笑い芸人が挙式を行なった事で、全国的に有名となった神社である。

その直ぐ西側に位置するのが「birthday」パーティー会場であるライブハウス「チキンジョージ」だ。

かつて名だたるミュージシャンがこの場に立ってきた。

関西ミュージックシーンにおける聖地の1つだが、ここ数年ではライブに拘らず各種イベントやアマチュア格闘技の大会、インディーズプロレスの興行等にも利用される様になっている。


5月27日午後7時、、、小雨がぱらつく中でグングニルの初自主興行「birthday」は始まった。

リングサイドのみ座席を設置し立ち見をメインにした為、400人程の観客を動員する事が出来た。


オープニングセレモニーで全選手がリング上に集合する中、大作が挨拶の弁を述べる。


「え~、、、本日はお足下の悪い中、、、グングニル初興行birthdayにお集まり頂きまして、、、」

かしこまった口調で始まったそれは、緊張しているらしく声が上ずり微かに震えている。

ここで観客から声が飛んだ。


「らしくないぞぉ~!」


それに呼応して

「ほんまやっ!」


「せや、せやっ!」


他の観客も声を飛ばしている。

狭い会場だけに、その1つ1つが鮮明に耳に入る。

それらの声に苦笑いを浮かべ頭を掻いた大作だったが、緊張は解けたらしくリラックスした様子で挨拶を続けた。


「みんな、ありがとうな。なら、お言葉に甘えて俺の言葉でやらせてもらうわ」


拍手と歓声が大きくうねり、あちこちで口笛が鳴り響く。


「みんなのお陰で、ついにこの日を迎える事が出来ました、、、ほんまにありがとうっ!

俺がこの団体を立ち上げた目的は2つ。ロストポイント制ルールの復活と、障害を持った方々への門戸開放です。

古巣であるグラップス様をはじめ、協力頂いてる各団体・道場様のお陰で、その2つのグングニル・イズムの第一歩を踏み出す事が出来ました、、、ほんまに感謝してます」


ここで一旦言葉を切り、深々と頭を下げた。

リング上の面々もそれに続いて頭を下げる。

拍手が鳴り止むのを待って大作が更に続けた。


「少し長くなるけど、、、ごめんな。

俺がこの団体を作ったのには、ある一人の障害を持った男との出会いが大きく影響してて、、、

その人はある事情から不本意な形で格闘技界を去り、未練を圧し殺しながら15年もの月日を過ごして来ました。

復帰を頑なに拒むその人を、何んとか口説いて設立したのがグングニル障害の部です。

宣伝になってまうけど、近い将来、、いやっ!年内に障害者による障害者の為の格闘技イベント、言うなら格闘技パラリンピックを開催しますっ!」


会場を大きなどよめきが包む。

各種マスコミにより、格闘技パラリンピックを目指している事は周知の事実となっていたが、年内開催と明言されたのは初めての事である。

これには崇も、、、いやグングニルのメンバー全員が面喰らった。何故ならばこの発言は皆も初耳だったのだ。

話し合い日程を決めたのでは無く、完全に大作の独断による発言だったのである。

豆鉄砲を喰らったハトの群れを余所に、大作は尚も続ける。


「それと、、、1つお願いがあります、、、その格闘技パラリンピックを一緒に目指した仲間が1人、先日病に倒れ天へと旅立ちました、、、黙祷を捧げたいので、申し訳ないけど御起立願えますか?」


この申し出に何も言わずに立ち始めるリングサイドの観客達。


「みんなありがとう。では、、、黙祷っ!」


大作の声を合図に目を閉じる面々。

中には合掌する者や胸に手を置く者も見える。

皆が思い思いに故人を偲ぶ。

澄んだ空気の様な静寂、、、まさに会場そのものが目を閉じ、黙祷を捧げていた。

その中を鎮魂の鐘を模した10カウントのゴングが打ち鳴らされる。


天の室田に届いただろうか、、、

届いたならば、いつもの高笑いを上げてくれただろうか、、、

グングニルの面々は皆そんな事を想っていた。

10度目のゴングが鳴り終わり、その余韻が消えると同時に大作が口を開く。


「ありがとうございました、ご着席下さい。少し湿っぽくなったけど、、、今からは熱い時間やからっ!!グングニル誕生祭birthday、、、始めるでっ!!応援宜しく頼んますっ!!」


頭を下げ最後は「らしく」締めた大作。

先の静寂の反動か、怒濤の歓声が沸き上がった。

小さなライブハウスの内部で興奮、期待、熱気、、、色んな物が爆ぜている。

そんな熱いバースデーソングで迎えられ、パーティーはついに幕を上げた。

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