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格パラ  作者: 福島崇史
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それぞれのbirthday

自主興行の準備は着々と進んでいた。

日程は団体設立から約1年となる5月25日。

イベント名はそのまま「birthday」に決まった。


場所は三ノ宮にある老舗ライブハウス「チキンジョージ」を押さえる事が出来た。

オールスタンディングのライブで500人程のキャパなので、リングを設置し客席を置いたなら300人程の客数になるだろうが、まだまだ弱小団体のグングニルである。その船出としては十分だった。


物販品の発注も終え、不安だった選手数も他団体の協力で確保出来た。

出場する面々がようやく練習に集中出来る様になったのは、寒さ厳しい2月の半ばとなってからの事である。

それともう1つ、この間にちょっとした出来事があった。

障害者の部の紅一点、吉川 悠。彼女が正式にグングニルの社員となったのだ。


勿論今まで通りに練習も続けるが、いつも忙しい優子を見かねて「手伝いたい」と大作に直談判した。

これを大作も承諾し、晴れて優子と同じ練習生 兼 広報担当者となったのだ。

自主興行の準備で忙しい中、彼女の働きは非常に大きく皆の助けとなった。


一方で崇は多忙な日々が落ち着くと同時に、新たに見つけた「やりたい事」の下準備を始めていた。

ジムが終わると真っ直ぐ部屋に戻り、ちゃぶ台に広げたノートに何やら書き溜めている。

時に頭を抱え動きが止まり、時に澱む事無くペンを走らせる、、、そんな日々を重ねていた。


環境が変わったのは何も吉川や崇だけでは無い。

右手首を失って以降失業中だった山下は新たな職に就いたし、登校拒否であれほど学校を嫌っていた藤井が、毎日登校する様になった。

「室田ロス」のショックから立ち直った鳥居も、今では無理する事無くリーダー格として皆を束ねているし、松井夫婦は人工受精による「授かり」を検討中らしい、、、


皆が皆、目まぐるしく流れる時の中でただ流されるで無く、置かれた環境や立場に向き合う為に踏ん張っているのだ。

そしてそこにはグングニルでの日々が、少なからず影響しているのは間違い無い。

それはほんの少しの勇気だったり、背中を押すほんの僅かな力なのかも知れないが、、、

そうやって各々が抗い懸命に生きる中、グングニルの誕生祭は刻一刻と近付いていた。


4月に入り、出場する皆の練習にも熱が入っている。

障害者の部のエキシビションには、藤井に白羽の矢が立っていた。

相手はフルコンタクト空手「勇神館」の障害者の部より参戦する山岡 太一。

つまり障害者ネットワークもついに始動する事になる。

その記念すべき第1号となった山岡、年齢は15歳で障害は侏儒症、、、通称〝小人症〟

藤井と年齢も体格も近い為に打診した所

「やってみたい!」

と色好い返事を貰う事が出来た。


当の藤井は代表に決まった当初こそ

「自信、、、無い、、、」

とグズっていたが、皆の応援と説得、、、特に吉川の説得が効を奏し

「僕、、、やってみる、、、」

との結論に達した。


実は藤井には母親が居ない。

詳しい事情は判らないが、顔すら知らないらしい。

それだけに彼にとって吉川は母親代わりでは無く、本当に母親と言える存在となっている様だ。

対する吉川はバツイチで子供も居たが、親権は相手が持っており、吉川の病に偏見を持つ相手の親族の反対により、離婚以降は1度も会わせてもらえていない、、、

そんな2人の間に親子の様な絆が生まれたのは必然と言えた。


「やるっ!」と決めてからの藤井は、本来の真面目な性格も手伝って、内容の濃い練習をこなしている。

そして鈴本と大作の2人。

前回の敗戦の事もあり、周囲が引く程に己を追い込んでいた。

特に大作は前回と同じ相手とのリベンジ戦だけに、他を寄せ付けない熱量である。


鈴本は旧知の仲である高梨との試合だが、やはりプロとして連敗は避けたいのだろう。何より勝ち星を欲する想いが練習量から伺える。


そしてプロデビューとなる高梨だが、、、

相変わらず飄々とマイペースである。

良くも悪くも力みや気負いが無い。

心臓に毛の生えた男の本領発揮と言った所か、、、

その普段と何ら変わらぬ佇まいは、およそデビュー戦を控えた者のそれでは無い。

もしかしたら心臓の毛が増毛されたのかも知れない。


こんな具合に千差万別ではあるが、何はともあれグングニル誕生祭に向けてスパートをかける面々。

自主興行まで1ヶ月と少し、、、パーティーの時は近い。

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