表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
格パラ  作者: 福島崇史
74/169

格パラ外伝「神室」後編

床に視線を這わせたままで中へと入って来る池上と川田。

怖くて岩本と目を合わせられない様子で、モジモジと落ち着かない。

岩本はそれを睨めつけて居るものの、戸惑いも隠せない複雑な表情を浮かべている。


「どした?えらい戸惑っとるみたいやないか」

楽しそうに室田が言う。


「いや、、、親父の手を煩わせてしもて、えろうすいません、、、こいつら何処に潜っとりました?」

そう問う表情は不自然で、明らかに室田の顔色を窺っている。


「ん?ワシん家♪」

ニコニコと自分を指差して答える室田。


「、、、どういう事です?」

岩本の額にポツポツと脂汗が浮く。


「どういう事か、お前が一番解っとるんちゃうか?

1つ尋ねるが、、、お前、こいつら見つけてどうするつもりやったんや?」


「勿論、見つけ出したら三島さんの所行って、一緒にワビ入れるつもりで探してましたが、、、」

本人は気付いてないようだが、真顔で答えたつもりが胡散臭い顔となっている。


「ほう、、、大した心掛けや、お涙頂戴やのぅ。でもなぁその芝居、大根過ぎて見てられへんわ」


みるみる顔から血の気が引く岩本。

その時、応接室のドアが開き、北谷と三島興業社長の三島 臣人が姿を現した。

2人が共に室田へと頭を下げる。

それに答える様に笑顔で手をグッパーと開閉する室田。


「岩本、茶番は終いじゃ。お前に指示を出したあの日の内に池上から連絡あってのぅ、、、全部話すから保護して欲しい言うもんやから、迎え行って親父の家に匿っとったんや」

北谷が事の成り行きを語った。


「もっぺん訊くど、、、こいつら見つけてどうするつもりやった?」

言葉が出ない岩本に、追い討ちを掛ける様に一喝する。

「ワレッ!口封じるつもりやったんやろがぃオォッ!?ワレが命令して薬捌かせとったんやろがコラッ!!」

その迫力に岩本は肩を竦めたまま動けない。


「ワレが裏で糸引いとったんはわかっとるんじゃ!で、三島さんに連絡入れて御足労願ったんや。三島さんにはワシからワビ入れて手打ちは済んどる。池上と川田は脅されて、しゃあ無しにやっとったっちゅう事でお咎め無し、、、と言いたい所やが、脅された時点で相談しとけばこんな事にはなってへん、、、暫く謹慎や、大人しゅうしとれ」

岩本から2人に視線を移し、そう申し渡した。


「はい、、、すんませんでした、、、」

2人が揃って頭を下げる。

ここで三島が初めて口を開いた。


「岩本はん、、、下っ端の〝おいた〟やったら笑って済ましたかも知れん。せやけどなぁ大幹部のアンタがやったんはシャレにならん。それなりの覚悟しときぃな」

言われた岩本が目を剥き吼える。


「なんやワレッ!!手打ち済みや言うのに、ウチと事構える言うのんかいっオォッ!?ウチの組は一歩も退かんどっ!!そっちこそ覚悟したれやっ!!」


やおら室田が含み笑う。

「とっぽい奴っちゃのぅ、、、ウチウチ言うのやめてくれるか?」

意味が解らず首を傾げる岩本。

「せやかて、組が嘗められましたんやで?親父はそれで宜しいのんかっ!?」

子供みたくムキになっているその様は滑稽ですらある。


「アホやなぁ、、、ウチと事構える訳や無くて、お前個人を的にかける言うてはんのや、三島さんは」

そう言う室田の手には、1枚の紙がひらついている。

それは「絶縁状」であった。

極道社会に於いて最も重い処分、、、破門ならば後々に復縁の可能性はある。

しかし絶縁にはそれが無い。

1度絶縁状が流れた者は、他の組にも拾ってはもらえない事が殆んどである。

元々、社会に適応出来ずに裏社会の住民となった者にとって、これは死刑判決にも等しい。

手にした絶縁状をヒラヒラ振りながら

「関係組織にはFAX済みやから、あしからず♪」


茫然自失で膝をつく岩本。

「う、嘘や、、何かの間違いやっ!ワシはハメられたんやっ!」

膝をついたままで室田の上着を掴み、懇願の目を向けている。


「ワレ、、、その薄汚い手で誰様に触ってくれとんのや」

そう言うや否や

「ヨイショー!」

掛け声一番、岩本の顔面に膝を突き刺した。

踞る岩本、、、鼻と口から溢れ出る血を手で掬っている。

その髪を無造作に掴み上げると、くっつく程に顔を寄せ警告を与えた。


「ええか、、、この先、池上と川田の身に何かあったら全てワレの仕業と判断するどっ、、、それが事故であろうが、病気であろうが、全部ワレの仕業や、、、もう家族や無い以上、手心は加えん。そのつもりでおれ!」

言い終えると、掴んでいた髪を汚い物でも捨てるかの様に投げ捨てた。


「せ、殺生やで親父ぃ、、、」

あの狂気の男が半べそをかいている。


「もう親父やないわボケッ!まぁ尤もお前がこいつらを的にかける前に、お前が三島グループの的になるんやろけどなっ、、、まっせいぜい長生きせえや、、、おぅ北谷、後は委せるど」

そう言った室田は冷やかな笑顔を浮かべると、岩本に背を向けた。北谷が綺麗なお辞儀でそれに応える。

それに続いていた三島が、振り向きざまに言い放つ。


「岩本はん、、、また近々お会いしましょ。んなら、、、」

怖い笑顔を残し、室田と共に事務所を後にした。

そして、、、

岩本の死体がポートアイランドの倉庫から発見されたのは、それから4日後の事だった。

室田があの日話してくれた話。

鳥居がそれを辿り終えると同時にチーズケーキは皿から姿を消した。


この事件で裏社会に嫌気がさし始めていた室田は、平成3年に施行された暴対法を機に組を解散した。

その折、組員全員の次の居場所を探したらしい。

堅気になる者には就職先を、この世界に残る者には受け入れ先の組を見つけたという。

そして長年学び免許皆伝を承けていた、合気道の道場を開く事になる。


短い友人期間であったが、鳥居にとって決して忘れられない人物となった室田。

忘れない、、、それが最高の供養なんだろう、鳥居はそんな事を考えていた。

そしてもう1つ。

彼の言った事は本当だったんだ、、、と切ない気持ちで思い出す言葉。

それは、、、

(自分は試合に向けて意地を張る)と約束した時の

「長老が今、何かを張ってるなら教えて」

という問いに対する答え。


「フム、、、そうじゃなぁ、、、あえて言うなら僅かな余命、、、じゃなハハハ」

改めて思う、、、こっちは笑えない、、、本当に笑えない。

そう言えば、、、と思い出したかの様に鳥居がマスターを見る。

視線に気付いたマスターがやって来た。

やはりマスターには室田の死を伝えておくべきだろう、、、

そう思い鳥居はその事実を口にした。


「そうでしたか、、、愉しい御方だったのに、、、残念です」

静かにそう言うと、再び口を開く。

「報せて頂きありがとうございます」

微かな笑顔へと無理矢理に表情を変えたマスターが、カウンターへと戻って行った。

その後もう1杯コーヒーをおかわりし30分程寛いだ鳥居。

そろそろ帰ろうとレジへ向かった。

するとマスターがあの優しい笑顔で


「お代はもう頂いてますよ」


そう言って天を指差した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ