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格パラ  作者: 福島崇史
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格パラ外伝「神室」中編

岩本からの連絡で事務所へと戻った若頭の北谷孝一。

元々は室田と五分の兄弟分であるが、組織の体裁として親分と五分という訳にはいかない。

そんな理由から「右腕」として仕える事を自ら選び、若頭の座に就く事を決めた。

一見すると堅気の様な雰囲気で、普段の物腰も柔らかい。

その上面倒見も良い為に下の者からの人望も厚く、人の上に立つべくして立っている人物である。


年齢は室田と同じで四十を越して間が無いが、ピンと伸びた背筋で歩くその姿はモデルの様で美しさすら感じる。事実顔も男前であり、その人格も手伝って女性にも非常にもてた。


「今戻った。詳しく聴こか、、、」

若い衆が頭を下げ出迎える中、岩本に声を掛ける。


「あ、、、頭、お疲れ様です」

皆が頭を下げてるというのに、ソファにふんぞり反った不遜な態度で出迎える岩本。

しかし北谷は咎めるでも無く、顎で応接室を指し示した。


応接室で向き合う対照的な2人。

「と、まぁそういう事らしいですわ」

山崎からの電話の内容を伝えると、不快に口角を上げる岩本。


「なんやワレ、楽しそうやの、、、まぁええ、事情は解った。

親父には俺から報告しとく。やらかしたんが誰か判ったら、勝手に先走らんと俺に報せろ、、、ええな?」


かつて下っ端がへまをやらかした時、先走った岩本がリンチを行った事があった。幸い死にはしなかったが、もうこの世界では生きられない身体となってしまった。

その為、岩本の残忍性を危惧した北谷は、釘を刺す意味で指示を出したのだ。

目線を外さぬままタバコに火を点け様子を伺う。


岩本は言い難そうに頭を掻くと、上目使いに口を開いた。

「その事なんやけど、、、こんなこまぁい事わざわざ親父に言わんでも宜しいんちゃいますかね。きっちりケリをつけてからの事後報告にしよか思ってますねんけど、、、あ、もちろん頭には逐一報告させて貰いますさかい」

言い終えた岩本は真顔で北谷を見つめている。

北谷からすれば、その顔が逆に嘘臭く見える。


(コイツ、何か企んどるな)

そう感じたが、それはおくびにも出さない。

「わかった、、、信じてええねんな?」


「勿論です。分は弁えてますがな」


「ほうか、、、よっしゃ右京と左京の2人を貸すから早速動け。で何か判ったら直ぐに連絡入れろ」


「わかりました、この件きっちり預からせて貰います」

満足気な笑顔を浮かべ頭を下げる。

しかし北谷は知っていた。岩本が下げた頭の裏で舌を出す人間である事を。


「なら失礼します」

部屋を出るその背を目で追いながら1つ溜め息を洩らす。

不安と不信がざわついている、、、

しかし岩本に預けた2人、左京 司と右京 忍は北谷直属の言わば「懐刀」である。

信用出来る彼等がお目付け役を務める限り、大きな面倒事は起こらないだろう。その事で不安は和らいだが、岩本への不信が消える事は無い。

喉に小骨が引っかかった様な不快感が残っていた。


岩本があれこれ手を回す迄も無く、疑わしき者は直ぐに浮上した。

この4日間、連絡がつかない者がいる。

池上 光二と川田 恵介、、、構成員になったばかりの若い2人である。

岩本は周囲が引く程の執念で2人の行方を探していた。

そこには組の為というより、何か別の意図が見え隠れする。

しかしその執念は空回り、時間だけが過ぎて行った。

苛立ちを隠す事も無く、若い者にあたり散らす岩本。


「アイツ等どこに潜っとるんじゃ!?誰も知らんのかいっオォッ!?」

猛獣の様に最初に目が合った者をぶん殴る。

(あぁ、今日の犠牲者はアイツか、、、可哀想に、、、)

ここ数日、毎日続けられるこの光景。

周囲は止める事も出来ずに、ただ俯いて治まるのを待っている。

ついに見かねた右京が止めに入った。

暴れる岩本を背後から抱え込む。


「兄やん、その辺で、、、」

出来るだけ刺激せぬ様、耳元に小声で囁いた。

それを振りほどき、狂気に満ちた目を剥く岩本。


「なんやぁワレ、、、頭のお気に入りやいうて調子こいとったら、ついでにいてまうどコラァ!!」

今にも飛び掛からん空気がその身を包んでいる。

周囲の者達は新たな犠牲者の登場に肝を冷したが、そうはならずに済んだ。


「えらい荒れとるのぅ、、、えぇ?岩本よ」

救いの声が響く。事務所入口に立つ男、、、

神室會組長、室田大二郎その人であった。

皆が慌てて頭を下げ、口々に挨拶の言葉を述べる。

「くるしゅうない、そのままそのまま」とばかりに両手を広げながらも、真っ直ぐに岩本を睨み、射抜いたその視線を外さない。

それを受けた岩本は、信じられない物を見たかの様に茫然と立ち尽くしている。

室田が事務所に顔を出す事は希な事であり、それだけに驚きを隠せないでいた。


「お、、親父、、、なんで、、、?」


「ん?ここはワシの組や、来たから言うて別段不思議とちゃうやろ?それとも何か、、、来られたらまずい事でもあるのんか?」

怖い笑顔で尋ねる。


「い、いや、そんな、、、」

先までの威勢は嘘の様に鳴りを潜め、完全に萎縮してしまっている。その額には極度の緊張から大量の汗が浮いていた。


「で、この騒ぎはなんじゃい、んん?」

ゆっくりゆっくり岩本へと歩みを進める。


「いや、大した事とちゃいます、、、お見苦しい所を、、、ほんますんません、、、」

室田の迫力に気圧されてじりじりと後退る。


「ほうか、、、ならワシの勘違いかぁ、、、」

そう言うと顎を掻きながら宙に視線を游がせる。


「え?、、、と、言いますと?」

話が見えず、怪訝な表情で室田を窺う。


「いやな、お前が荒れとるんはこれが理由か思ってなぁ」

そう言うと入口に向き直り大声で叫んだ。

「おいっ入れっ!!」

それを合図におずおずと姿を見せたのは、岩本があれ程探しても行方の判らなかった、池上と川口の2人であった。

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