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格パラ  作者: 福島崇史
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景気付け!?

正直見るのが怖かったが、大作は恐る恐る視線をなぞらせる。

(すげぇ試合見せてもらった!)

(小便垂れてまで、、、その闘争本能に痺れた)

(担架を拒否った鈴本、かっけぇ~!)

(グングニルの外のメンバーの試合も観たい)

(障害者の格闘技、、、どうかと思ったが、アリやな)

等々、そこにはあの日の2人に対する意見が多数記されていた。

当然否定的な意見や心ない言葉もあるが、大多数が賞賛する物だった。


「なっ!?2人の評価もグングニルの評価も下がったりしてへん、むしろ逆やで。だからいらん心配すんなって!!」

新木がゴツい顔を綻ばせ大作の背を叩く。

その衝撃に一瞬呻いた大作だったが、直ぐに安堵の笑顔を浮かべて頷いた。

温かいファンの言葉を噛み締める、、、

大作はもう一度画面を見つめた。

(ありがたい、、、)


ここまで黙って見守っていた崇だったが、ここで初めて口を開く。

「確かに勝つに越した事は無いし、ここにおる全員がそれを望んどったよ。でも今はこう思う、、、よくしたり顔で敗北から得る物は無いなんて言う輩がおるけど、極々希に実りある敗北やとか、誇り高き敗者を生む事はある。今回はまさにそれや、だから胸張っとけっ!、、、はい!今、俺ええ事言うたっ!!」


笑いが起こり場が和む。

そして空気が良い方向に流れ出したタイミングで、崇がとんでも無い事を言い出した。


「ついでやっ!景気付けにお前が試合前にわざわざ俺に言うた事、、、ここで発表せえやっ!」


「!!」


どえらい無茶振りに大作の顔が固まる。

(な、何言い出すねん、、、このオッサン)

言葉にはせずとも表情がそう言っていた。

それを見た崇は悪代官顔負けの笑顔をニヤリと浮かべる。

そして更なる追い込みをかけた。


「その顔よ。俺も試合前にその顔させられたんや!せやから罰や!早よぅ言えっ!言わへんのやったら、俺の口から有ること無い事、尾ひれ付けて話すど」


もはや軽い脅迫である。

大作が救いを求めて優子にチラリと目を配る。

しかし救いの蜘蛛の糸は、あまりにも無慈悲に断ち切られた。

優子は笑顔で頷いているだけ、、、そもそも糸すら垂らしていないといった風情だ。

憐れ地獄へ叩き堕とされた罪人大作。

諦めとも覚悟とも取れる微妙な表情を浮かべると、その情けない顔を皆に向けて一言、、、


「俺、、優ちゃんと付き合って、、ます、、」

力無くゴニョゴニョと打ち明けた。


しかし崇はそれが気に入らない。

「聞こえないんですけど?大きな声でもう1回っ!」


鬼の一声にガクッと項垂れたが、憮然とした顔を気合いで持ち上げると

「俺!優ちゃんと付き合ってますが、何かっ!?」

半ばやけくそでそう叫んだ。


しかしジムのメンバーにとって、2人が好意を寄せ合っているのは暗黙の了解であり皆が気付いてる事だった。

そんな元での大作の発表、、、当然ながら場の反応は薄い。


「あれ??何、、、この空気?」

清水の舞台から飛び降り損した大作が皆を見渡す。

自ら仕掛けた事だが、大作の演じた見事なピエロぶりに笑いが込み上げる崇。


「何か?って訊かれたから、いえ別に何も、、、って事ちゃうかな」

そう言った山下は笑いを堪えて鼻が膨らんでいる。


「いや、もうちょっと何か、、、こう、、、あるやろ?おめでとうとか、エ~ッ!!てリアクションとか」

ピエロがむきになってアピールすると


「おめでとう、、、」

「良かったやん、、、」

「ヒューヒュー」

「お幸せにぃ、、、」

やる気の無い祝福が飛び、それに比例したやる気無い拍手がパラパラと鳴る。


「優ちゃん!これでええのんっ!?何んとか言うたってえなっ!」

懲りもせずに蜘蛛の糸を欲しがる大作。


「ん?皆も薄々気付いてたやろし、、、こんなもんちゃう?」

またも糸を切る優子。彼女の言葉に皆も黙って頷いている。


「俺がバカみたいやんっ!」


「バカじゃん」

糸を切った上に石を投げつける。

言葉を失い口をカクカクさせる大作を他所に、優子は皆に向かって勝手に会見を始めていた。

「そういう訳でして、、、これからは社長夫人です、宜しくね♪本当はもう少し皆のアイドルで居たかったんやけど、、、なんかゴメンね♪」


「社長夫人て、、、更にアイドルて、、、」

呆れ顔で耳をほじくる大作、その頭を優子がグローブを着けたままの手ではたく。


「ちょ、、、俺、怪我人っ!」

大作のその主張は、皆の笑い声と優子の連打にあえなく掻き消されていた。


温かく

嗚呼無情なり

我が仲間、、、

(詠み人 大作)




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