続・独り呑み
回想しながら酒を舐めると、色々な感情が込み上げる。
悔しい、、、勿論悔しい。
だが不思議と楽しくもあった。
落胆と興奮の波に揉まれる様な気分である。
敗れたという悔しい現実の中、鈴本も大作も〝誇り高い敗北者〟になれたとは思っている。
その事は崇にも他のメンバーにとっても誇らしい。
だが結果を残せなかったのは事実である。
折角のチャンスを活かせなかったグングニルにとって、この敗北は振り出しに戻ってしまったに等しい。
複雑に混じり合うそれらの想いを酒と一緒に飲み干し、空の猪口をじっと見つめた。
3本目の徳利が空となり、追加をしようと顔を上げる。
店員が反応し崇の所へ来たが、時間を確認すると21時を過ぎていた。閉店まで30分も無いので、ここで呑むのを諦めた崇。
「いくら?」
追加を注文するはずだった口は、勘定を尋ねる役回りへと変わっていた。
3千円ばかしの金を払い店を出ると、酒と暖房で保たれていた熱が急速に奪われる。年末近くの風は思いの外に厳しく、容赦無く身を切って行く。
「丸萬」から崇の部屋までは5分程度の距離だが、少し呑み足りない崇の足はエミの店「コモ・エスタス?」へと向いていた。
「丸萬」から「コモ・エスタス?」までも5分程で着く。
外の冷気を凌ぐ様に湊川パークタウンのアーケード内を通り、ダイエーを過ぎた所で右に折れるとエミの店が見える。
そっと覗くとそこそこに客が入っており、エミがバタバタと動いているのが見えた。
(今日はやめとくか、、、)
そう思いそのまま素通りすると、背後から声が掛かった。
「ここを通って寄らへんつもり?」
声の主はエミである。ガラス張りのエミの店は当然ながら中から外も丸見えである。
素通りする崇に気付き、わざわざ出て来たらしい。
「いや、忙しそうやったからさ、、、」
バツが悪そうに頭を掻く。
「団体さんが1組おるけど今帰るとこやからさ、よかったらおいでぇな」
片手を腰に当てて、片手で手招きをしている。
「それなら2~3杯だけ呑ませてもらうか、、、」
崇が答えると、エミは満足そうな笑顔で店内へと戻って行った。
崇と入れ替わる様に7~8人の男女のグループが店を出ていく。
結局店内には崇とエミだけになった。
「忙しかったようやね、今日はバイトちゃんは?」
「今日は都合つかんくってさ私1人で頑張ったんよ。いやほんまに頑張ったわ、、、」
テーブルとカウンターに散乱する皿やグラスを片付けながら、わざとらしく疲れた顔を崇に向ける。
「大変やったな、1杯奢るから好きなん呑みぃな!」
手の届く範囲の空き皿を重ねながら崇が言う。
「マジで?ラッキー♪」
急に元気になったエミは2杯のビールを注ぎ、そのうち1杯を崇の前に差し出した。
「いただきますっ♪」
「お疲れ様っ!」
お互い目の高さにグラスを掲げ、それを乾杯の代わりとした。
2人共、一息にグラスを空ける。
「ハァ~、、、美味しかったぁ♪ごちそうさまっ!ところで料理はどうする?」
そう問うエミに対し、崇は申し訳無さそうに答える。
「ごめんなぁ飯は済ませて来たんよ、、、」
「謝らんでええよ、疲れてるし寧ろその方が有り難いわっ♪」
そう言って笑うとエミは、新たなビールを注いで手渡した。
2杯目のビールに口をつけた刹那、崇のスマホがポケットで震えた。
最初はメールかLINEもしくはFacebookの通知だろうと思ったが、まだスマホはポケットの中で自己主張を続けている、、、
(着信、、、誰や?)
急いで取り出し画面を確かめる。するとそこには優子の名が表示されていた。
「もにもに♪」
いつもの調子で電話に出る崇。
暫しの沈黙が流れた、、、
てっきりスベったのだと思い崇が謝ろうとした時、ようやく優子が口を開いた。
「福さん、、、助けてくれん?」
暗く沈んだ優子のその声、、、
それを聴いてしまった崇は、いつもの調子で軽く応答した事を激しく後悔していた。