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格パラ  作者: 福島崇史
62/169

乱打

リングを蹴り、跳ね上がる2人。

共に同じ技での奇襲を仕掛けたのだ。

そう、、、水戸が秒殺勝利を収めたあの時と同じ、飛び膝蹴りである。

しかしどちらも決まらず、宙でぶつかるとそのままリングへと落ちた。

バランスを崩し、尻餅をつく水戸。

体格で勝る大作は、当たり負けしなかったお陰で綺麗に着地している。


未だ体勢の整わない水戸に、尚も大作が襲いかかる。

押し倒し上のポジションを狙う大作だったが、水戸は突っ込む大作の勢いを利用して、柔道の巴投げの要領で投げながら後転した。

一種のスイープと言える動きで水戸が上のポジションを取る。

しかし、これはロープ際で位置が悪くブレイクとなった。


レフリーに促され、立ち上がる2人。

派手な展開に会場が沸く。

歓声、拍手、足踏み、口笛、思い付く限りの音を発して興奮を伝えている。

試合が再開されると、又もや同時に突っ込む2人。

リング中央で接触するや否や、足を止めての打ち合いを始めた。

構えもガードもくそ食らえ、一見すると素人のケンカの様なその闘い、、、壮絶な乱打戦である。


「アカン、アカン!一旦距離置けっ!」

思わず崇が声を張る。


「やめとけ水戸っ!!」

相手サイドのセコンドも叫んでいる。

しかし2人は止まらなかった。


両者、決定打が無いとは言え、何発もの打撃を喰らっている。

そして喰らった何倍もの打撃を放っている、、、

スタミナ配分等そこには存在していなかった。

崇は苦い顔でその様子を見ながらも、かつて観たある試合を思い出していた。

2002年6月23日、さいたまスーパーアリーナで行われたPRIDE21での高山善廣vsドン・フライの一戦。


ゴングと同時に掴み合い、お互いの頭を抱え込んでノーガードでパンチを打ち合った伝説の一戦である。

両者のパンチ総数、実に184発!

それは格闘技と呼ぶにはあまりにも異質、、、

言うならば「格闘」そのものだった。

それを崇は会場で目撃した。


高度な技術戦だけが人の心を掴むとは限らない、、、

その事をを思い知らされた。

技術的には決して誉められた物では無かった。

酷く単純で、酷く原始的なその闘い、、、

しかし崇は心を奪われた。

ある種のエロスさえ感じていた崇は、あろう事か観戦中に勃起すらしていたのだ。

6分10秒、、、高山がTKOで敗れはしたが、この敗戦で彼は間違い無く男を上げた。


確かにそういった事はありうる、、、

「誇り高き敗者」を生む試合という物が。

しかしそれは極々稀な事である。

崇は勿論、隣の高梨もグングニルのメンバーは誰一人として、そんな事を望んではいない。

いや、、、

普段なら「不様な勝者」よりもそちらを望むかもしれない、、、しかしこれは今後を左右する大事な試合である。

今回だけは不様でも良い、、、どんな形でも勝って欲しい。


そんな想いが通じた訳では無いだろうが、2人が一旦間合いを開けた。

崇がストップウォッチを見ると、乱打開始から2分が経っている。2分間全力で動く、、、

それもただ動いているのでは無い。

ダメージを与え、与えられての事である。

それは想像を絶する程のスタミナ消費であるはず。

案の定リング上の2人は大量の汗で体を濡らし、肩を激しく上下させている。

ラウンド制ならば1分間のインターバルで少しは回復が見込めるが、この試合は30分1本勝負である。

闘いながらの回復を大きくは望めない。


両セコンドが休むように指示を飛ばす。

(言われるまでも無い、、、)

そう言っているかの様に、両者のクリンチする場面が増えている。クリンチする事で休み、少しでも回復する作戦だ。

数発の打撃を応酬しては抱き合う、、、ブレイク

寝技に移行しても直ぐに動きが止まる、、、ブレイク

そんな場面が続くと、そのストレスで会場からブーイングが飛び始めた。

見かねたレフリーが両者にイエローカードを提示する。

消極的と見なした訳である。

イエローカードは2度提示されると、ポイントを1つロストしてしまう。

レフリーのその判断を称える様に歓声が上がり始めた。

中にはレフリーの名をコールしている者まで居る始末だ。


バツが悪そうに頭を掻く大作と、腰に手を当て己の不甲斐なさに首を振る水戸。

しかし数回のクリンチと、今のカード提示による中断のお陰である程度の回復が出来た。

(こっからが勝負や!)

お互いの視線がそう言っている。

相手を睨めつけ不敵な笑みを浮かべると、2人は静かに構え直した。溢れそうになる闘志を、無理矢理抑え込むかの様に。


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