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格パラ  作者: 福島崇史
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第一歩

遂に鳥居と山下がリングに立った。

本当の意味で「ラグナロク」への一歩が踏み出されたのだ。


基本ルールはロストポイント制だが、エキジビションのため勝敗は公式戦績には残らない。

それ故に途中で何度ダウンやエスケープをしても、試合時間の10分間は続行される。

つまりロストポイント制を名乗ってはいるが、実質はフリーポイントという事だ。

意味合いとしては試合というよりも、技術を見せ合う「約束組手」に近い。

とは言えギブアップや10カウントでのKOがあった場合、もしくはレフリーが危険と判断した場合等はその時点で試合終了となる。

開始前のリングアナの説明により、今回のルールと2人の障害部位が伝えられ、観客達にも十分理解してもらった上でのスタートとなった。


リング上でコールを待つ2人。

山下は楽しくてしょうがない様子で、その笑顔からもリラックスしているのが見て取れる。

対する鳥居は、、、やはり少し硬い。

傍目にも必死でプレッシャーと闘っているのが分かる。

見かねた崇が声をかけた。


「鳥やん、お前は真面目過ぎるねん。責任感とか使命感とか、、、そんなんどうでもええ。やってきた事、全部出して楽しんで来い!」

すると憑き物が落ちたかの様に雰囲気が変わり

「せやなっ、、、そうするわっ!!」

笑顔でそう答えた。


コールを受け、構えた2人がゴングを待つ。


(早く鳴れっ)

鳥居が思う、、、


(待ちきれへんっ)

山下が笑う、、、

共にやる気が体から立ち昇っていた。


始めて目にする障害者同士の試合に、観客達も息を潜めて開始を待っている、、、ほんの一瞬だが完全なる沈黙が会場を包んだ。


「ファイッ!」

静寂を打ち破るレフリーの声と同時に金属音が響く。

2人はリング中央でハイタッチをすると、改めて構えを取った。


打撃のセンスに光る物がある山下は、アップライトで軽快なステップを踏む。右手首を欠損している彼は必然的に左腕が武器となる。その為に構えはサウスポーだ。

逆に鳥居は左腕が不自由な為、オーソドックスな右利きの構え、、、しかし左腕が動かないという事は、攻防の両面で圧倒的に不利である。

山下は手首を欠損しているとはいえ、腕その物は自由に動く。

だが鳥居は左腕自体が麻痺で動かない。

肩を支点に振るうのがやっとである。

その事からも打撃に付き合うのは分が悪すぎる。


それを理解してか極端な程に首をすくめて、顎を己の左肩にピッタリと付けている。

こうする事で、頭部に打撃を受けた時に顎が打ち抜かれるのを防いでいるのだ。

万一の時のダメージを最小限に抑えようと

考えての構えである。


お互い無理につっかけずに、フットワークを使いながら間合いをはかる。

軽い打撃を交換する程度の静かな展開が暫し続いている。

しかし2分が経過した頃、突然試合が動いた。

山下がコンビネーションを使いながらラッシュを仕掛けたのだ。


右のローキックを起点に、左フックのダブル、、、

そして驚いた事に、障害部位の右手でのボディブローまでをも放った。

勿論、山下の右手にはオープンフィンガーグローブは装着されていない。その為、右手での顔面への打撃は許されていないが、ボディへの攻撃は可である。


左腕の不自由な鳥居は右のボディブローを防ぐ事が出来ず、それをもろに喰らってしまった。

息が詰まり動きの止まる鳥居。


いつの間にか観客達も、通常の試合と同じく熱い声援を送り始めている。

その中で、そこかしこに座しているグングニルの仲間達は、一際大きな声を飛ばしていた。

特に障害の部のメンバーは自分達の代表が闘っているのだ、やはり特別な想いなのであろう。


動きの止まった棒立ちの鳥居、、、

攻め時と見た山下が尚も攻める!

山下が次に繰り出した攻撃、それは意外にもタックルだった。

低い軌道を辿り鳥居の右足を捕らえる。

バランスを崩した鳥居が後ろに倒れた。

場所はリング中央に程近い、、、


(まずいのぅ、、、)

観客席で室田が顔をしかめた。

しかし室田の不安は杞憂に終わる事となる。



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