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格パラ  作者: 福島崇史
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決着

暴れ牛の如く跳ねる清水。

その背でカウボーイの如く制する鈴本。

しかし突然清水は動きを止めた。

そしてそのまま、何事も無かったかの様な佇まいで普通に立ち上がると、ニュートラルコーナーの方へ背中向けに走り始める。


背負われた状態で、清水とコーナーポストの間に挟まれた鈴本、、、

しかしこの時、衝撃で清水の顎が僅かに上がった。

コーナーポストに叩きつけられながらも、開いた首筋に鈴本が左腕を滑り込ませたっ!

細身の鈴本の腕は、滞りなく清水の首に絡みつく。

裸締めである。


しかしコーナーポストの直ぐ前、、、場所が悪い。

清水がその気になれば、いつでもロープへと逃げる事が出来る。

それでもエスケープポイントを奪えるチャンスなのは間違い無い。

鈴本は歯を噛みながら締め上げている。

しかしである、、、清水も素人ではない。

首をすくめ、己の首とそこに巻き付く腕の間に自らの手を捩じ込み防御している。


(惜しい、、、チョークスリーパーやったら、、、)

崇は思っていた。


裸締め、所謂スリーパーとチョークスリーパーは似ているが、全くと言って良いほど別物である。

スリーパーが巻き付けた前腕と上腕で相手の頸動脈を圧迫し、脳への血流を止める技であるのに対し、チョークスリーパーは喉その物を前面から圧迫し、気管を破壊する技、、、

それ故、チョークスリーパーは極まれば耐える事は出来ない。言うならば即効性の殺し技である。

しかしスリーパーは形に入ってから効果が出る迄に数秒かかる。その間に防御するなり逃げるなりのチャンスがあるのだ。

だからこそ崇は思った

(惜しい、、、)と。


チョークならば、少なくとも直ぐにエスケープは奪えただろう。今は鈴本にとって、自らの方へ試合の流れを持って来るチャンスなのだ。

「絶対に外すなっ!」

崇が叫ぶと、珍しく隣の高梨も大声を張った。

「いける!いけるでっ!!」


会場も沸いていた。

そして殆んどの人間が思っていた。清水がロープに逃げるであろう、、、と。

しかしそうでは無かった。

清水は鈴本を背負ったまま、ジャンプして宙で1回転して見せたのだ。スポーツ格闘技では中々見られない、プロレス的な展開に会場が更に沸いた。


2人が落ちるとリングが大きな音で悲鳴をあげる。

そして驚く程あっけなく鈴本の腕は外れていた。

あれほど迄に執念を込めていた鈴本の腕が、、、

崇は解せなかった。


仰向けの状態から体を半転させると、清水が鈴本の上になった。そのまま自分の首と右腕で、鈴本の右腕と首を挟み込もうとする、、、肩固めを狙った動きである。

しかしこれはポジションが悪く、両者の体がリングからはみ出ていた為にブレイクとなった。


レフリーが両者を分ける。

立ち上がる2人、、、

すると途端に会場がざわつき始めた。

中には女性の悲鳴らしき声も雑ざっている。

「あちゃあ、、、」

高梨が呟いた。

崇は声も出せずに鈴本を見つめている。


立ち上がった鈴本のその姿、、、

左腕が力なく垂れ下がっていた、、、

両肩の高さが違っていた、、、

額には大量の脂汗が浮いていた、、、

先の清水の回転、、、あの時に左肩から落ちたらしく、明らかにそれは外れていた、、、脱臼。


レフリーが即座に試合を止めた。

ゴングがけたたましく鳴り響く。

9分34秒、レフリーストップ、、、

鈴本は敗れた。


勝ち名乗りを終えた清水が、ドクターのチェックを受ける鈴本と握手を交わす。

笑顔で二言三言の会話を終えると、リングを下り小走りに花道を戻って行った。

大歓声と盛大な拍手で勝者を称えた観客達、今はリングに残された敗者を心配気に見つめている。


テーピングで肩を固定した鈴本の所に担架が用意された。

しかし、まるで汚物を見る様な目でそれを一瞥すると

「そんなもんには乗らん、、、自分の足で戻る」

そう言ってリングを下り、自らの足で花道を帰って行く。

その悔しげな背に、惜しみ無い賞賛が送られている。

「最後の意地やろな、、、」

高梨が言う。

それに頷いた崇は痺れていた。

穏やかながらも強き鈴本の言葉。

それは静かに燃える青き炎の様であった。

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