ダウン
鈴本は考えていた。
まだ清水は自分から攻撃を仕掛けて来ていない。
こういう己の身体を信じているタイプに多いのだが、相手の攻めを受け切り、力の差を見せつけた上で潰しにかかる、、、
清水もそのつもりだろうか。
もしそうならば、そこにつけ入る隙がある。
更に先程攻撃を仕掛けた時、僅かばかりの光明が見えた気もしていた。
(攻めて来んならそれでええ。ならば混乱させたる、、、出来るもんなら受け切ってみい!)
鈴本の口角が片側だけ上がる。
鈴本の表情の変化に清水も気づいた。
(なんか企んどるな、、、んなら受けたるっ!)
警戒を強めながらも、未だその顔には余裕の笑みが浮かんでいる。
その直後、試合が動いた。
鈴本が前に出て、又もハイキックと見せてのタックル。
(ケッ!同じ手を喰らう程、、、)
そこ迄思った時、清水の景色が傾き、視界が歪んだ。
鈴本は敢えて先と同じ攻撃を仕掛け、清水がタックルを潰す為に腰を引くのを誘った。
思惑通りに清水が腰を引き頭を下げると、鈴本はタックルには行かずに身体を跳ね上げた、、、アッパーを放ったのだ。
ボクサーの輪島功一氏が得意とした「カエル跳びアッパー」の様な形でその拳は清水の顎を捕らえた。
首を支点に清水の顔が歪に上を向く。
そしてそのまま尻餅を着く様に崩れ落ちた。
「ダウンッ!!」
レフリーが叫んだ。
ニュートラルコーナーに凭れて清水を見つめる鈴本。
カウント3、、、清水がもぞもぞと動いた。
(立つな、、、)
そう願う。
カウント5、、、清水はまだ視点が定まらない。
(頼むから立たんとってくれ、、、)
強く願う。
カウント7、、、視点の定まった清水がブンブンと首を振る。
(!!)
願いは諦めに変わっていく、、、
カウント9、、、清水は何事も無かったかの様に立ち上がる。
(やっぱアカンかぁ、、、よっしゃっ!)
諦めを覚悟に変える。
レフリーが続行の意思を確認すると、構えながら数回頷く清水。
鈴本はハッキリと聞いていた、、、
清水が立ち上がりながら
「もうええ、、、もう飽きたわ、、、」
そう呟いていたのを。
鈴本はその言葉に得も知れぬ不気味さを覚えていた。