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格パラ  作者: 福島崇史
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3日前のデート

ジムがオープンして半年以上が経つ。

ようやく一般の部も障害者の部も基本が出来てきた。

確かにまだまだではあるが、それなりに形になり「格闘技をやっている」と口にしても良い位にはなっている。


ある程度メンバーも育ち、暫定的ではあるがルールも決まり、ネットワークの構築も問題無さそうである。

ラグナロク開催に向けての下地はほぼ出来たと言える。

そして3日後、大作、鈴本、鳥居、山下がグラップスのリングに立つ。

皆がやるべき事は終えて、オーバーワークにならぬ様クールダウンの時期に入っていた。


あれだけ忙しかった優子の仕事もようやく落ち着き、最近はジムにも顔を出せる様になっていた。

難航していたユニフォームの件だが、Tシャツやジャージでは無く道着に決まった。

今後スポンサーが変わったり増える事もありうる、そうなるとスポンサーの社名やロゴをプリントしたユニフォームの場合、その都度作り直さなくてはならない。

それならばとグングニルのロゴだけを柔術着にプリントし、スポンサーのロゴはワッペンにして縫い付ける方法を選んだ。これならばスポンサーが増えた場合も、変わった場合も対処が容易である。


皆が落ち着き始めたこの日、大作は突然に優子を誘った。

もう長らく2人の時間を過ごしていない。

自分の練習も落ち着き、優子の仕事も落ち着いた。

やっと2人で過ごせるタイミングがやって来たのだ。

だが3日後に試合を控えたこの時期である、、、正直どうかとも思ったが、大作にとって優子との時間は心のリフレッシュである。意義のある時間であり、良い結果しか生まないだろう、、、そう考えての誘いだった。

そして何より、、、随分待たせてしまったあの約束を果たしておきたい。


果たすべき1つ目の約束として、もう1つの始まりの店「沼川」に優子を連れて行った。

いつもの様に沼川を弄りながら食事を楽しむと、店を出て次はどうするかと思案しながら2人で東門街を下る。

12月に入っている街はクリスマスの色に染まり、どこか浮かれた空気に満ちている。

すっかり冷たくなった風に身を切られながら、大作はこの後に控えたメインイベント「あの約束」の事で頭が一杯になっていた。

しかしクリスマスが近いこの時期に、、、そう考えると、わざとらしい様にも思えて少し気が引ける。


結局その後は大作の知人がやっているBarで軽く飲み、カラオケボックスで2時間というありがちなコースを辿った。

試合が近い大作は少し控えめに沼川で1杯、Barで1杯しか飲まず、カラオケボックスでは烏龍茶で過ごした。

例の約束だが、、、周囲に人が居るBarでも、優子が熱唱でストレス発散しているカラオケボックスでも果たすタイミングはやってこなかった。


カラオケボックスを出た時、時計の針は既にてっぺんを越して日付が変わっていた。

「そろそろ帰んなきゃね」

ついに優子の口から怖れていた台詞が出てしまった、、、


「ん、せやなぁ、、、」

大作が力無く答え、タクシーを停める為に手を挙げる。

タクシーは直ぐに捕まった。

2人して乗り込むと

「ハーバーランド、プレスリー像の前までお願いします」

大作が行き先を告げる。


「えっ?」

優子が驚いて大作を見た。確かに優子の部屋はハーバーランドに近い、しかし大作は兵庫駅の近くである。

だから

「ハーバーランド経由で兵庫駅方面」

と言うなら解る。しかもプレスリー像から優子の部屋までは少し距離がある、、、

その意図が読めずキョトンとする優子。


「少し話したいから」

優子の視線を感じた大作が、正面を見たままでそう告げる。

暗い車内で時折街灯に照らし出される表情、、、そこには決意と緊張が色濃く浮いていた。

優子とて子供では無い。その様子を見て全てを察したが

「酔い醒ましに歩くんもええね」

そう答えるに留めておいた。


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