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格パラ  作者: 福島崇史
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会合2

一転した空気の中で「勇気ある次の人」となったのは烏合衆代表の朝倉だった。

他の代表達と比べて段違いに若い朝倉。

ダボダボの所謂Hip-Hop系の服装にベースボールキャップを斜めに被っている。

この場では相当に浮いた出で立ちと言えた。


「え~、、、うちには今2人の障害者が居まして、1人は結構重度の下半身麻痺で車イス利用者です。もう1人は視覚障害、全盲では無いですが殆ど見えてないそうです。ですから2人共に立ち技は無理なんで、座った状態からの寝技のみで練習してます」

見た目と違い、ちゃんとした言葉で報告を終えた朝倉。ここで有田道場の有田が口を挟んだ。


「うちも2人居るんですが、視覚障害の双子なんですわ、、、あ、、、朝倉君の所も視覚障害者という事で思わず口を挟んじゃいました、、、すいません、、、」

四角い大きな身体を丸く縮めて恐縮する有田。

またも室内に笑い声が響く。

勿論、朝倉も気分を害したりはしていない。


笑いながら崇が言う

「いやいや、せっかくなんで良ければそのままお話聞かせて貰えますか?」


「あ、、、はい」

赤くなった四角い顔を四角いハンカチで拭う有田。

「うちは柔道なんで勿論打撃はありません。ですから立った状態からほぼ普通の柔道ルールでやってます」


「視覚障害者やのに相手の位置がわかりますのんか?」

渡嘉敷からの質問が飛んだ。

問われた有田が相変わらず汗を拭いながら答える。


「あっ、それはお互いの帯に鈴を着けまして、音の鳴る位置で相手を認識します。それに全盲では無いので、うっすらと影みたいに見えるそうです」

質問した渡嘉敷をはじめ、皆がなるほどと頷いている。

場が合点のいったのを見届けると、崇が今日の本題である「ラグナロク」の事について話し始めた。

まずは先日出来上がったばかりのルール、それを記した紙を配ると皆の意見を求めた。


「一応、今、皆さんから話して頂いた方々、全員が参加出来る形のルールだとは思います。しかしあくまでも暫定的な物ですから、質問や意見は遠慮なく言って貰えると助かります」


暫く全員が配られた紙に目を走らせる。

暫しの沈黙の後、最初にそれを破ったのは朝倉だった。

「うちはグングニルと同じ総合格闘技やし、ルール的にも同じ様な形でやってるんで問題無いっす、、、ただ諸流派の皆さんはどないです?」


格闘家は皆、己の学んだ格闘技に誇りを持っている。

だからそれとは違うルールの元で闘う諸流派への気遣いから出た言葉である。


老眼鏡を外しながら渡嘉敷が言う。

「確かにどの障害にも、どの競技にも対応出来る、、、よう出来たもんやと思いますわ。ただ全員がこのルールで試合せなおえんかね?」

これに柴田も同意らしく久々に口を開いた。


「私もそう思いますね。やはり空手なら空手、柔道なら柔道、それが好きで学んでる者達ですし、、、好きな事で輝く場に立たせたいという想いはあります」

有田も発言こそしなかったが、頷く事で我が意を示している。


「皆さんの仰る通りです。これはあくまで皆さんの生徒さんが総合に挑戦したいと言った時の為の物です。誤解して頂きたく無いのですが、ラグナロクはイベントの名称なだけで趣旨は格闘技のパラリンピックです。

ですから空手や柔道は勿論、出来ればその他の格闘技の試合も行いたいと考えています。

グングニルはリーダーシップを取る訳では無く、同じ考えの皆さんと一緒にその場を作りたい、、、その考えの元で動いてる事を御理解下さい」


崇が言うと3人は顔を見合わせ頷き合うと、皆を代表するかの様に渡嘉敷が口を開いた。

「いや、水を差して申し訳なかった。そういう事なら何も異論は無いけぇ」


「ありがとうございます。あくまで主役は選手達本人です。彼等が選んだルールでの参戦という事で、意思を尊重してあげて欲しいんです。お願いします」

崇と大作が頭を下げる。


「ですねっ!確かに主役は選手達です、、、彼等の為にも実現に向けて動いて行きましょう」

そう言って有田が満面の笑顔を浮かべる。

そしてその笑顔はやはり四角かった。


「それと、、、」

言った崇の顔がにわかに曇る、、、

皆の視線が集まった所で、大作が仕切りを引き継ぎ口を開いた。

「今後、この動きが一般のマスコミにも取り上げられる事が増えると思います。それに伴って賛否両論の(否)の意見も増える。

心無い言葉での批判もあると思います。イラッとするでしょうが、余計なトラブルは避けたいので極力相手にしないで下さい」


「ああいう連中はこっちがムキになる程に喜ぶからな、、、大ちゃんの言う通り相手にせんのが一番やっ!」

朝倉の言葉に他のメンバーも苦い顔で頷いている。


「美談にせず、某チャリティー番組みたいな(感動ポルノ)にならない様に、、、リアルで等身大のまま彼等が輝ける様、純粋に開催に向けて頑張りましょう」

最後は崇が想いを告げて締める。拍手が起こり、皆が互いに握手を交わすと、改めて同じ目標に向かう絆を結んだ。

こうしてネットワーク初の会合は幕を閉じたのだった。



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