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格パラ  作者: 福島崇史
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張るべき物

ピザトーストにかぶりつき、伸びたチーズを舌で絡め取ると鳥居は続きを話し始めた。

「えーと、、、どこまで話したっけ?」


「周りにリーダー格にされる、、、ちゅう所やな」

フォークにナポリタンを絡めながら室田が答える。


「あ、そうそう。でも元々そんな器とちゃう訳やん?けどメッキが剥がれるんが怖いから一層無理をする、、、今迄そんな繰り返しでさ、、、」

暫し黙る鳥居。

室田は口を挟まず次の言葉を待っている。


「もうさ、自分を演じて鎧を着るんに疲れたから、今回ジムではナチュラルで居ようと思ってんけど、、、やっぱ見栄張ってもうてさ。実際は山下みたいな奴がほんまのリーダータイプやと思うねん。ムードメーカーで、皆を引っ張れる力を持ってる、、、そんな奴と肩を並べて皆の代表で試合するんがプレッシャーでな、、、」

そう言って視線と肩を落とすと、再び力無くピザトーストをかじる。冷め始めたチーズが伸びる事は無く、あっさりプツリと噛み切られた。


フムッと息を吐くと初めて室田が意見を口にする。

「不便よなぁ、、、」


「不便?不憫じゃなくて?」

意外な単語に思わず訊き返す鳥居。


「男っちゅうのは不便な生き物やっちゅう事よ」

それでも意味を飲み込めない鳥居、室田を見つめたままで固まっている。


「我がの意思に関わらず意地やら見栄やら、、、時には命すら張らなアカン時もある、、、せやから生きにくぅて不便やなぁって事や」

なるほど、、、と鳥居が納得した様に小さく頷いている。

その様を見てコーヒーを一口飲むと、室田が更に続けた。


「ただワシが思うに、選択が大事じゃなぁと、、、意地を張るべき時に見栄を張っちゃあならんし、逆も又しかりや。どの場面で何を張るべきか、、、今のお前さんは何を張るべきかね?」


鳥居には衝撃的な言葉だった。

今まで見栄しか張って来なかった鳥居にはその発想自体が無かったのだ。

手にしたグラスをテーブルに置く鳥居。

小さくなった氷がカランと1つ鳴る、それが合図かの様にゆっくり言葉を選びながら口を開いた。


「俺、今まで自分を大きく見せる為の見栄しか張ってへんかった、、、でも、、、今は等身大の自分で意地を張る時なんやと思う!」


「ええ答えや、それが正解やと思う。賞品代わりに食後のデザートを頼んで構わんよ」

そう言ってナポリタンを口に運ぶと、室田は更にこう付け足した

「まぁワシが食べたいっちゅうのもあるんやが」

思わず吹き出す鳥居。

隣のテーブル席では、息を潜めた優子も吹き出しそうになっていたが、なんとか必死で堪えていた。

暫くジムに顔を出せないでいる優子には、皆の近況や心情は全く分からない。

(皆、色々と抱えてるんやなぁ、、、)

そう思うと、早く仕事を落ち着かせてジムに行きたい、、、

そんな想いにかられた。


その後も食事をしながら暫し雑談をしていた2人。

ふいに鳥居が言う、、、

「今度は長老の事聞かせてぇな」

言ってからストローに口をつける。


「ワシの事?ワシの何をじゃね?」

言ってから直接グラスに口をつける。

2人のグラスの中は氷が溶けて、すっかり薄くなっていた。


「昔の事とかさ」

言い終えた鳥居はピザトーストの最後の一口を放り込むと、残りのコーヒーと一緒に流し込んだ。

言われた室田は一瞬困った様に顔をしかめたが、中央に集められた顔のパーツを解放すると、意を決して鳥居を見る。


「そうじゃな、、、突然にも関わらずヌシはちゃんと打ち明けてくれた。ワシもそれに応えるのが礼儀じゃろうて」

そこ迄言い、残りのナポリタンを平らげた。

一息つくと再び鳥居に目を向ける室田。

鳥居は思わず姿勢を正した。


「話す前に2つ程お願いしておく、、、」

珍しく静かな口調だ。鳥居は尚更に身構える。


「1つ目は他言無用、、、ヌシとワシだけの秘密にする事。約束してもらいたい」


「わかった約束する」


満足気に微笑んだ室田が続ける。

「2つ目は、、、デザート選んどくれ」

メニューを鳥居に差し出す室田。


昭和のコントの様な展開に、これまた昭和のリアクションでガクッと肩を落とす鳥居、、、若いのにリアクションが古い。

「なんじゃそれ!めっちゃ身構えたがなっ!!」

半笑いのままで室田に突っ込む。


「ハハハッ!デザート付き合う約束じゃろ?長い話になるやも知れんで、先に注文しときたくてのぅ」


「まったく、、、」

呆れ顔でそう言いながらもメニューに視線を走らせる鳥居。


それを見て、因みに、、、と室田が口を挟んだ。

「ここのチーズケーキは絶品ぞな」

ウインクしながら親指を立てている。70歳近いとは思えない仕草だ、こんなところからも気の若さが窺える。


「そうなんっ!?じゃあそれ乗っかるわっ!!」

鳥居も応えて右手の親指を立てる。


室田がマスターを呼びチーズケーキのセットを2つ注文する。

今度は2人共ホットコーヒーを選んだ。

マスターが戻って行くのを見届けると

「はて、何から話すかのぅ、、、」

と思案すると、1つ咳払いをしてからゆっくり語り始めた。


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