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格パラ  作者: 福島崇史
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珍しい組合せ

エキシビションの出場が決まって以降、山下は普段にも増して明るかった。

練習量も増えてやる気が見て取れる。


「鳥やん!俺達、皆の代表やもんなっ!大事な舞台頑張ろなっ!」

共に出場する鳥居に声を掛ける。


「ん、、、あぁ、せやな、、、」

堅い表情で空返事を返す鳥居。

しかし張り切り舞い上がっている山下は、特に気にもせず満足気な笑顔を返すと、自らの練習に戻って行った。

元々仲が良く、練習でもパートナーを組む事が多い2人だが、エキシビションとは言え試合を行う者同士である。その為に今は別々のメニューをこなしている。


張り切る山下に反し、鳥居はしばしば溜め息をつき、身体の動きを止める事も多くなっている。

座り込み物思いに更けている事もあれば、何やらブツブツと呟いている時もある。

皆は(疲れが溜まってるのだろう)と特に気にはしなかったが、室田だけはそんな鳥居に違和感を覚え気掛かりだった。


それから数日後、ついに室田が声を掛けた。

「鳥やん、練習終わったら少しワシに付き合ってくれんかね?」


予想外の事に驚きを顕にする鳥居。

「えっ!?俺?なんでまた、、、どないしたん?」

勿論、普段の練習で絡む事はあるが、一緒に出掛けるという関係では無い。当然の戸惑いと言える。


「ええから、ええから。ほな後での」

それだけ言うと室田は軽く手を挙げ背中を向けた。


この日、室田と鳥居は午前中から練習に来ていた為、午後の1時過ぎには練習を終えた。

「お先です!!」

気の籠った大きな声で皆に声を掛ける室田。

その後ろで鳥居も小さく会釈すると、2人揃ってジムを後にする。


「珍しい組み合わせやな、、、」

崇は思ったが、さして気にせずに2人を見送った。



ルールもほぼ決まり、グラップスへの参戦も決まった今、またも優子は忙しかった。

マスコミへの対応やスポンサーとの打合せ、、、外回りする事が多く、ジムに顔を出せない日々が続いている。

その為、吉川の組み技の練習相手は、一般の部の女性会員が務めていた。

その優子の多忙ぶりを心配した吉川が、逆に優子を手伝おうかと申し出た事があったが

「ありがとね、でも私はこれでお給料もろてるから」

そう言って断った。しかし今はほんの少し後悔している。


昼を少し過ぎた頃、夕方まで時間が出来た為、1度ジムに戻ろうとしていた優子だったが、昼食がてらジム近くの喫茶店に立ち寄った。

近くには有名チェーンのお洒落なカフェもあるのだが、優子は昔ながらの純喫茶が好きだった。


「喫茶ヘブン」

入って左側はカウンターとなっているが、カウンター席は無くレジがあるのみ、右側にテーブル席が4つあるだけの小さな店だ。

1番奥のテーブルのみ2人席で、残りは4人席。

各テーブルの間には仕切り板があり、隣の席は見えなくなっている。

その為1番奥の壁側に座れば、会計の客とマスター以外とは顔を合わせる事は無い。

優子が入店すると、1番奥の2人席とその隣の4人席が空いていた。


「ラッキー♪」

優子は一目散に2人席を目指す。

席に着くと、ダンディーを絵に描いた様なマスターが注文を取りに来てくれた。

アイスコーヒーとミックスサンドのセットを注文すると、次の打ち合わせの書類に目を走らせた。

団体のユニフォームを作る事となり、スポンサーである天馬工業の社名とロゴ、そしてグングニルのロゴを入れる事は決まっていたのだが、具体的なデザインは勿論、Tシャツにするかジャージにするか、、、それすらも未だ決まっておらず、夕方からデザイナーと会う事になっている。


暫くすると注文したセットが届いた為、汚さない様に書類を鞄にしまい込む。代わりにスマホを取り出すと弄りながら食事を始める優子。

珍しく時間にゆとりがある為、ゆっくり食事を楽しみながら休憩を取ろうと決めた。

ミックスサンドを半分程平らげた頃、入口でベルの音が響いた。隣のテーブル席に人が着席した気配がする。

マスターが注文を取りにカウンターを出て行った。


「無理に付き合わせたし、ワシが出すさかい好きなもん頼みぃや」

聞き覚えのある声に優子の動きが止まる。


「マジで?ええのん?なら甘えてゴチになるわ!えーと、、、じゃあアイスコーヒーとピザトースト!」

こちらも聞き覚えがある声、、、


「ワシはアイスコーヒーとナポリタンを」


(間違い無い、長老と鳥やん!)

確信した優子は息を潜めた。別にさぼってるでも無し疚しい事は無いのだが、何故かバツが悪い気がしたのだ。

それに何より珍しい組み合わせの2人組、その会話に興味が湧いた。大作と同じ悪い癖、好奇心が走り出したのである。


「で、俺を誘うなんて珍しいやん、、、急にどないしたん?」

素直な疑問をぶつけながら、お手拭きで汗を拭う鳥居。


「ん、、、いやな、最近何やら思い詰めとる様に見えたでな、、、ジジイ相手で申し訳無いが話してみんかて?」

一瞬の沈黙が流れる。板1枚隔てた優子にもそれと分かる重い沈黙。


「、、、なんでそない思ったん?」


逆に質問で返す鳥居を室田が笑い飛ばした。

「ハハハッ!!年寄りを舐めなさんな!まぁあれだけ分かりやすく元気が無けりゃワシでなくても気になるて」


敵わないなとばかりに軽く笑う鳥居。諦めた様に1つ溜め息をつくと今の心情を話し始めた。

「俺な、昔から自分に自信が無くてな、、、そんな自分が嫌で無理して見栄張って、、、で、何でも率先する自分を演じとる内に周りは俺をそういうキャラと思い込んで、、、リーダーに押し上げる様になってさ、、、」

そこまで話した時に注文した品が届いた為、鳥居は一旦口を閉じた。

マスターに目線だけで礼を述べた室田は

「なら頂こうか、食いながら話せばええ」

そう言ってブラックのまま、ストローは使わずグラスに直接口をつけた。


1つ頷き室田に目を向けた鳥居は

「頂きます」

と手を合わせるとコーヒーにシロップとミルクを流し入れる。

ストローで混ぜられたグラスの中は、涼しい音色を奏でながらみるみるその色を変えて行った、、、鳥居自らの心の様に。

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