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格パラ  作者: 福島崇史
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ルール決定

暑さも少し和らぎ皆の練習への影響も薄れ始めた頃、グングニルに於ける障害者の部の基本的なルールが決まった。

ベースは一般の部と同じロストポイント制である。

崇を悩ませていた障害部位によるクラス分けだったが、敢えて障害部位に関係無く、立位、膝立、座位と分ける事で思ったよりスムーズに決まり、皆の同意も得る事が出来た。


立位クラス、、、装具や義足無しでも立って動ける者は全員がここに属する。

ルールは完全に一般の部と同じものを採用した。

現時点では松井と崇以外は全員が立位クラス所属という事だ。

松井には酷な様だが、将来メンバーが増える事を想定した上でのクラス分けである。松井も快く了承してくれた。


膝立クラス、、、立って動く事は出来ないが、膝立ちで動ける者はこのクラス。

蹴り技は使えないが、それ以外はロストポイント制ルールと同じ内容で行う。松井と崇はこのクラスに所属する事になる。


座位クラス、、、膝立ちすらも困難な場合は、お互いが背中合わせに座した状態から試合を開始する。

このクラスでは打撃は一切無しで、組み技のみでの試合となる。そして持ちポイントも他のクラスは5ポイントだが、このクラスでは3ポイント、、、つまり3回ロープエスケープすれば負けとなる。

現時点で所属するメンバーは居ないが、他団体とのネットワーク構想が実現した時、このレベルの障害者でも試合を行える様にと作ったクラスである。更には視覚に障害がある場合もこのクラスで闘う事になる。


どんな格闘技を学んでいても、その技術を活かせるのがロストポイント制ルールの良い所である。

ネットワークの中に空手や柔道の道場があったとしても、問題無く参加出来るであろう。

仮に問題があった時には話し合い改善するか、特別ルールを作成して対応する予定である。


それに全員が総合格闘技の試合を行う必要は無い、、、崇はそうも考えていた。

ネットワークに参加する各道場でも障害者用のルールを考えているであろう。ならばラグナロクを開催する際、空手や柔道の試合も行えば良い。

ラグナロクはイベントの名称であって、コンセプトはあくまで格闘技のパラリンピックなのだ。

色々な格闘技の試合を行うべきである。


もう1つ崇を悩ませていた事、それは障害部位への攻撃を規制するかという事だった。

しかしこれは各自のモラルに委ねる事にした。

勿論、あからさまで悪意を感じる程に執拗な場合は反則と見なすが、闘いの流れの中での攻撃は規制の対象とはしない。これも皆が同意してくれた。

因みに義手や義足、装具の類いは危険な為に着用を禁止とした。


そして1つ、、、非常にデリケートな問題として、外見的な障害では無い者の試合の事である。

全メンバー、試合を行う時には障害部位と症状を公表する予定である。

鳥居なら左腕麻痺、山下なら右手首欠損、松井なら下半身麻痺といった具合に発表する事になる。

しかし外見で障害が判らない吉川、藤井、室田、、、その障害の内容を公表して良いものか、、

この発想自体が差別的な気がして崇は嫌であったが、現実として難しい問題である、、、避けては通れない。

いっそ一般の部で試合させてはどうかという声もあったが、同じ目標を持ち、自らの障害を乗り越えようと前を向いている仲間である。崇は心情としてそれは避けたかった。

身体の障害と同じく辛く苦しい事なのに、内面の障害は社会的に偏見もあり理解が浅い向きがある。

その事からも障害の部で試合をさせたかったのだ。

崇は悩んだが、やはり一番重要な本人達の意思を尊重する事にした、、、まぁ当たり前の事ではあるが、崇なりに真剣に考えて出した答えである。


3人を集めて事情を説明する崇。

「そんな訳でな、皆の意見を聞きたいんやけど、、、公表しても良いなら障害の部、嫌なら一般の部で試合って事になる、、、どない?」

気分的には腫れ物に触れる思いだったが、努めて普通に尋ねた。


「ワシは一向に構わんよ、ワシのは公表されて困るもんでも無いでなぁ、、、しかし悲しいかな世間には未だ偏見があるのは確かや、、、お2人はどうなさる?」

室田が吉川と藤井に目を配る。


「私はそういうの全然平気やで。恥じてる訳でも無いし。何より仲間やから同じ舞台に立ちたいやん」

そう吉川が答える。

そして崇、室田、吉川の視線を受けた藤井が俯き加減でボソボソと答え始めた。


「2人が、、、良いなら、、、僕もいいよ、、、」

その答えを聞いて吉川が動く。

腰を屈め目線を藤井に合わせると、真剣な顔で口を開いた。


「私と長老の答えは関係あらへんで!大事な事やから自分の意見を正直に言わなアカン!」

言われた藤井は視線を更に落としモジモジしていたが、顔を上げると強い視線と共に言い放った。


「僕も、、、みんなの仲間やから!」

それを聞いて3人が顔を見合わせ微笑み合う。

再び腰を屈めた吉川、藤井の頭に優しく手を置き無言で笑顔を向けた。

前の一件以来、この2人には親子の様な関係が成り立っている。

それは見ていて微笑ましい。


兎にも角にもこうして皆が同じ舞台に立つ事となった。

今後入って来るであろう同じ境遇の人達も、その都度本人の意思によって決定する事に決まった。

実際に試合が行われるのはまだまだ先の事であるが、これで大まかな準備は整ったと言える。

まずは年末のグラップスにて鳥居と山下が第一歩を踏み出す。


しかし、、、暫くしてその大役を担う片翼、鳥居の異変に気付いたのは長老室田であった。


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