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格パラ  作者: 福島崇史
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歪み

崇の恋愛観、、、その大前提は

「惚れた女の幸せが男の本懐」である。

愛した相手が幸せであってこそ自分も幸せ、、、

しかし今の自分では何も与える事が出来ない。

それどころかこの先、更に障害が進行したなら苦労すらかける事になる、、、それは自分では無い相手を選んだなら、せずに済む苦労である。

それならば、別の男性と幸せになってくれる事が崇の望みで幸せ、、、格好をつける訳で無く、本当にそう思っている。

歪んでいると言われ様が、これが今の崇の愛情の形なのだ。

それともう1つ、、、崇は下半身に麻痺がある。

つまりセックスも弱い、、、惚れた女性を母親にしてあげれない、、、

崇にはこの事が何より耐え難かった。


「そういう訳やから恋愛はせえへん。でも恋はするで。その相手が誰かと幸せになるのを見届ける、それが今の俺の幸せって事。資格が無いってのは失言やったな、、、取り消すわ」

独自の歪んだ恋愛観を語った崇はそっとタバコに手を伸ばし、火を点けると苦い想いと共に煙を吐き出した。


話を聞き終え、何やら思案していた大作がこんな質問を投げ掛ける。

「じゃあさ、もしその相手がそれでも福さんがええって言うたら?」


「私もそれ思った」

優子も同調し崇の答えを待っている。


「勿論断ってきたよ。俺はこんな状態やから他の人を探して、、、って。好きやからこそ無理、、、って」

反論されるのは分かっていたが、それでも崇は正直に答えた。


「最悪っ!身勝手!!」

思った通りに優子が噛み付く。


「福さん、、、そりゃアカンで、、、」

大作も流石に呆れ顔だ。

2人がギャーギャー言い出す前に崇が非を認める。

「間違っとるんは理解しとるねんで。世の中には俺なんかより遥かに重い障害でもちゃんと恋愛、結婚してる人もおるからな。松井夫婦もそうやし、それが正しいと思う」

そこ迄言うと、タバコを揉み消しビールに口をつけた。

そして、、、

「すごいなって思うよ。強いなって、、、ただ俺にその強さが無いだけや」

灰皿に視線を残したままでそう呟く。

その灰皿上でタバコは既に我が身を焼くのを止めていた。


崇の考えは変わりそうに無いし、自分は理解出来ない、、、平行線だなと感じた優子は変化球で攻める事にする。

「じゃあ質問変える。どういう相手ならOKなん?」


「ほんまやな、それ聞いてみたい!」

大作が乗っかるこの展開は既に定番である。


崇は想う。

歪んだ者同士なら絡み合い、お互いを支え合い立っていられる、、、と。

その想いから出た答えは、、、

「せやな、、、俺と同じ位のリスクを抱えた女性、、、かな」


「どゆこと?」

大作は理解出来てない様子。

「なるほどね、、」

対して優子は察した様だ。

残っている料理を適当に腹に納めながら、崇が大作に説明を始めた。


「前にテレビでな、全盲同士の夫婦を特集したドキュメンタリーを観たんよ。衝撃受けたわ、、、結局俺は一方的にリスクを負わせるんが怖いんやと思う。だから心にせよ身体にせよ何かを抱えた人になら俺の居場所がある気がするねん、、、まっ!身勝手には変わりないかぁっ!」

最後は明るく締めたつもりの崇。

だが2人にはそれが一層に物哀しく写った。

居心地悪い一瞬の沈黙、、、

するとそれを助ける様にエミが料理を差し出した。


「ほんま待たせてごめんなぁ、、、チキンステーキとアヒージョお待たせっ!!」

優子が空いた皿を片付け、料理を置くスペースを作る。

「何か重い話で空気悪かったし、待たせて逆にタイミング良かったかな?」

料理を置きながら悪戯に笑うエミ。

カウンター席とエミが料理をするスペースは距離が近く、これまでの話は丸聞こえだったらしい。


話に熱が籠り気付かなかったが、既に客は崇達と1組のカップルだけになっていた。

手の空いたエミが、崇を助けるかの様に大作と優子を問いただす。

「アンタ等、人の事えらい責めてたけど、、、こないだの件はどうなったん?」

勿論、先日の大作が勘違いして先走った事を言っているのである。

大作も優子もその事は崇に話していない、、、


「こないだの件って?」

当然崇がエミに問う。

青ざめる2人、、、瞬きもせぬままに俯いている。

どうやら一気に酔いが醒めた様子だ。


「えっ?聞いてないん?あんな、こないだ、、、」

先日の事を事細かに説明するエミ。

「ほほぅ、、、それはインタレスティングな話やなぁ、、、」

話を聞いた崇、エミという心強い援軍を迎え反撃の狼煙を揚げた。


「いや、、、それは追々、、、ちゃんとしようと、、、」

しどろもどろの大作。

しかしである、、、反して優子は逞しい。

これを良い機会と捉えたらしく

「あれから結構経ってるけど何も言ってくれんね、、、どうなっとるん?」

掌を翻す様に大作を責め始めた。


3人の連合軍を相手に孤軍奮闘の大作、、、まさに危機一髪!

素面でなどやってられないとばかり、手元のビールを一気に流し込んで醒めた酔いを必死に取り戻す大作。

グラスを置くと、顔を赤く染めながらも真剣な顔を3人に向ける。

そして決意を固めた様に1度頷くとハッキリ言った。

「大切な事やし、こんな形で、、、勢いで言いたくないねん。ちゃんと約束は守るから、もう少しだけ待っとって優ちゃん」

大作の誠意が伝わる言葉だ。


それを聞いた優子はニッコリ笑うと

「ホッとしたわ。この場で言われたらどうしようかと思った。わかった、ちゃんと待ってるね!」

そう答えた。

崇とエミは顔を見合わせ頷き合っている。

正直、少し拍子抜けした感も拭えないが、崇もエミもこれで良かったのだと思っている。


何はともあれ、こうしてこの夜の酒宴は大団円(?)で幕を閉じた。

2人から幸せな報告を受ける日は近そうだ、、、崇はその日を楽しみに待つ事にして、手元に残ったビールを一気に流し込んだ。



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