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格パラ  作者: 福島崇史
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体力測定

初対面から3日後、5月某日の日曜日。

午前10時、ついにグングニルは始動した。

しかし生憎の雨、、、太陽の様な大作には似合わない船出となった。

まだ5月だというのに、少々蒸し暑さを感じる。


仕事を持った会員も来やすい様にと日曜日のオープンを選んだが、その甲斐あって朝のオープンと同時に殆どの会員が訪れた。

賑わうロッカールームで着替えを済ませ、会員達が続々とジム内に集まって来る。


初日のメニューとして、会員の現状を知る為の体力測定を行う事に決めていた。

そのデータを基にして、今後の練習メニューを考える事になる。

当然、一般の部と障害の部では出来る事は違う。

更に障害の部は障害のある場所によって各々内容を変える必要がある。

初対面からの3日間、崇はそれを考えるのに頭を捻って過ごしてきた。


一般の部ではエアロバイクや腕立て伏せ、腹筋、スクワット、反復横跳びに加え、ベンチプレス、サンドバッグ打ち等が行われている。しかしエアロバイクやベンチプレス等は台数に限りがある為3つのグループに分かれ、グループ毎に別々のメニューをこなしながら行っていた。

勿論3つのグループは、それぞれ大作、鈴本、高梨が担当している。


障害の部では、崇と仕事休みで来てくれた新木が見守る中で始められた。

エアロバイクが空く迄かなりの時間がある事と、新木が初対面である事から先ずは新木が自己紹介をする事になった。


「福井 崇の兄弟分、新木 康夫です。週に1~2回やけど、サポートさせてもらいますんで宜しくお願いします」

ゴツイ身体とゴツイ顔、そして袖口から覗く刺青。

更にはゴツイ顔から発せられた「兄弟分」という堅気ではあまり使わない言葉から、会員達の間に「ヤクザ、、、?」という空気が流れた。

しかし崇が

「こんなナリやけど堅気やから安心してな。見かけによらず優しいから気軽に話せばええよ」

というフォローを入れると、半信半疑ながらも安堵の空気に変わった、、、と思う。


そして会員達も新木に対し簡単な自己紹介を済ませ、いよいよ本題の測定が始まった。

一般の部と違い、こちらは5人という少人数なので全員一斉に始める。

エアロバイクが未だ空かない為、まずはスクワット50回からのスタートとなった。


開始前に崇が言う。

「今日は皆の体力を把握する為の測定やから、意地を出す必要も無理をする必要もありません。今の自分のままでやって、キツくなったら正直に言って下さい」


幸い足に障害を持った会員は居ない為、スクワットは全員参加で行われた。

新木の号令のもと、全員が同じペースで腰を落としては上げる。

順調なペースで進んでいたが、30回を越えた辺りから顔をしかめる者が2人。

「紅一点」吉川と「長老」室田である。

既に2人の下半身は、小鹿の様にガクガクと震えている。

36回、、、先に座り込んだのは室田だった。


「ハハハ!、、、いやぁキツいですな、、、歳には勝てん!!」

息も絶え絶えに汗を拭っているが、その声には相変わらず気が籠っている。


40回、、、頑張ったがついに吉川も落とした腰を上げる事が出来なくなった。


「すいません、、、ギブです、、、」

およよ、、、と泣き崩れる様にマットにしなだれた吉川。しかし驚いた事に、呼吸はそれほど乱れてはいない。


残る3人は50回に到達した。

まだかなり余裕がありそうな感じである。

新木が各自のデータを書き込みながら言う。

「お疲れ様でした。出来なかったからって恥じる事無いですからね。今日がスタートなんで気にしないで下さい。じゃあ少し休んで次のメニューに移ります」


出来た3人は勿論だが、室田と吉川にも(やれるだけやった)という満足感が表情から見て取れた。

暫しの休憩で息も整った5人。次は腕立て伏せと腹筋を各30回ずつである。

しかし、腕に障害を持つ者が2名居る。鳥居と山下だ。

この2人は腕立て伏せは見学し、代わりに腹筋を倍の60回というメニューが与えられた。


まずは腕立て伏せ。これも新木の号令に合わせ、3人が同時に頭を上下させていく。

女性の吉川に男性と同じメニューを与えるのもどうかと迷ったが、本人たっての願いもあり同じ回数をノルマとした。そこは女性ならではの強さかもしれない。


それでもやはりキツいと見え、11回で俯せて動けなくなった。

そのままの体勢で

「すいません、、、いつか出来る様になるんで、、、」

そう悔しそうに呟く吉川。

「うん!その気持ち大事やと思う!」

新木が言うと、僅かに顔を上げて薄い笑顔で頷いた。


室田もどうにか30回をこなし、藤井は全然余裕で最後まで終えた。

続いて腹筋に入る。これは倍の回数をこなした鳥居と山下を含め、全員がノルマをクリアした。

皆それぞれに疲れを示す中、まったく表情の変わらぬ者が1人、、、中学生の藤井である。

流石に若いな、、、と崇は感心していたが、ふと昔の事を思い出した。そういえば、、、

これくらいの運動量は、体育の授業前に行う準備運動と変わらない。その事を思い出すと、成る程当然の結果なのだと思えた。


また少しのインターバルを挟み、次は反復横跳びである。

マットにテープを貼り、1m間隔で3本線を作ってある。1本線を跨ぐ度に1点を加算し、20秒間に何点取れるかで敏捷性を見る。

これも全員が参加。最初に鳥居がスタンバった。

中央線を跨いで立ち、真剣な面持ちでスタートの号令を待つ。


ふいに新木の声が響いた

「はじめっ!」

まずまずのリズムでこなしていく鳥居。

結果53点、、、いわゆる平均値である。


次に藤井がスタート!

51点、、、これも中学生の平均値にほぼ値する。


そして山下。

これが見事なステップでリズミカルに跳ねて行く。そして結果58点という目を見張る点数を叩き出した。見ていた者達からどよめきと拍手が沸いた。

続く吉川も軽快なフットワークで46点という数値をマークする。

30代女性の平均値が42点なので、これもかなり良いスコアである。


(山下君と吉川さん、あのフットワークなら打撃のセンスありそうやな、、、)

この結果から崇はそう考えていた。

そして最後は「長老」室田である。

年齢的な事を考えると当たり前だが、37点という点数で終えた。

全員のスコアを記入した新木と崇がエアロバイクに目を向ける。すると視線に気付いた大作が

「ちょうど今空いたで!!」

と声を掛けてくれた。


小さく手を挙げそれに応える崇。

少しのインターバルをおいて全員エアロバイクに移動する。

全員のペダルの重さを同じに設定し、20分漕いで心拍数や脈拍、そして血圧を測る。

ただ、、、肺を片方摘出している室田には、大事を取って休んでもらった。


「なんや、、、申し訳ないなぁ、、、」

しきりに恐縮する室田。

そんな「長老」に崇は

「俺達のモットーは出来る事を頑張る事です。申し訳なくなんて無いですよ」

と声を掛けた。

他のメンバーも「気になさらず」とばかりに笑顔を向けている。

薄くなった頭を掻きながら

「そうでしたな、かたじけない」

と皆に軽く頭を下げる室田。

その声にはまだ恐縮が色濃く残っており、皆が初めて耳にする長老の小さな声だった。



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