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格パラ  作者: 福島崇史
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不完全なる者達

ある日、Facebookのメッセンジャー機能を使い、大作が応募者全員にメッセージを送った。

(練習を始める前に1度直接会っておきたいので、オープン3日前にジムに来て欲しい)

そのような内容の物である。


そして当日、都合の合わなかった者6人を除いた17人が集まった。

驚いた事に、障害者部門の5人は全員が来てくれていた。

集まった者は全てが初対面であり、学校の入学式みたいなよそよそしい探り合う様な空気が漂っている。

全員でマットの上に座し、各自順番に自己紹介をする事になった。一般の部の者から順に済ませ、障害者の部の面々の番がやってきた。

まずはトレーナーとして崇が先導をきる。


「えー、、、皆さんのトレーナーを務めさせてもらいます福井崇です。障害部位は脊髄、体幹障害です。身体が不自由な不便さは理解してるつもりです。これから一緒に出来る事から頑張っていきましょう。宜しくお願いしますね」


穏やかな笑顔で頭を下げると、会員達全員が拍手で応えた。

そして今度はその会員達の番である。

最初に口を開いたのは10代後半とおぼしき男性だった。


「はじめまして鳥居靖という者です。年齢は23歳、障害部位は左腕です。1度首のヘルニアを患いまして、、、手術したんですが左腕に麻痺が残りました。どこまで出来るか不安ですが、福井さんの仰るように出来る事を頑張りたいと思いますので、宜しくお願いします」

拍手の中、照れた表情で頭を下げた鳥居。年齢より若く見える童顔も相まって可愛らしい印象である。


次に、鳥居の隣に座っている幼さを残したあどけない少年が自己紹介を始めた。

「あの、、、藤井一彦といいます、、、中学1年です、、、えっと、、、あの、、、」

言葉に詰まっている、、、

どうも人前で話すのが苦手な様だ。

ここで崇が助け船を出した。


「よければ障害の事、教えてくれる?」

それは優しい口調だった。


「あ、はい、、、発達障害と知的障害、、、らしいです、、、すいません、、、」


「謝らんでええよ、こういうの苦手なんやろ?頑張ったな!ありがとうね」

崇が言うと、少しおどおどしながらも

「宜しくお願いします」

と数回頭を下げた。


3人目は一目で障害部位が判った。

その彼には右手首から先が無かったのだ。


「山下清志28歳です。もうおわかりでしょうが、、、」

そう言って右手を軽く挙げると、ヒラヒラと振ってみせた。

「工場で働いてたんですが、裁断機でやっちゃいました」

そう言うと肩を竦めて舌を出して見せる。

まるで転んで擦りむいちゃいました、みたいな軽い口調で言う山下。その仕種からも明るい性格が窺えた。

それに反して周囲の者達は、その時の光景を想像したのだろう、、、

「うわっ、、、」とばかりに顔をしかめている。

そんな周囲とのギャップ等は意に介さず、明るい口調のまま

「やる気だけはあるんで、宜しくお願いします」

と自己紹介をしめた。

恒例の拍手が響く中、どこか大作に似た空気の男だな、、、そんな事を崇は思っていた。


次に口を開いたのは女性だった。

「吉川悠です、、、32歳。所謂、、、心の病を抱えています。格闘技もですが、何より皆さんに迷惑をかけない様に頑張ります、、、」

伏し目がちに無表情で己を語る彼女、、、闇を抱えてそうなのが見てとれる。


「ここに居るのは皆 何かしら抱えてるんやし、そこは理解してくれると思います。だからあまり気にせずに楽しくやりましょう」

崇が言うと、少しだが表情が緩み微かに笑顔を見せてくれた。

愁いを帯びてはいるが、その笑顔は美しい。


皆も笑顔で頷き、拍手する事で彼女への答えとしている様だ。

当の彼女も、周囲に対し小刻みに頭を下げ喜びを示していた。


大トリを務めたのは作務衣を着た細身の男性、、、

老人と言って差し支え無い年齢だろう。

「室田大二郎、68歳!!」

突然響いた気の籠った張りのある声。

周囲は驚いて肩が小さく上がった。


「ハハハッ!驚かせましたかなっ!すいません。えー、、、昔、合気道をやっとりました。障害は、、、癌!胃の3分の2と肺を片方切除しとります。あとは、、、老い、、、ですかなっ!ハハハッ!」


結構重い事をカラッと言い、高笑いしている。

それを見た周囲の者達は呆気にとられ、口をあけたまま室田を見ている。


「この中では唯一の格闘技経験者ですね。こちらも教わる事があると思いますので、ご教授の程宜しくお願いします」

崇が老武道家に敬意を示しそう述べると


「いやいや!そんなんやめて下され。皆さん、老い先短い年寄りなんであまり苛めないで下さいな。どうぞ平に宜しくお願いします」

と言い、細い首の上に載っている頭をちょこんと前に出した。

この時点で、良いキャラクターのこの老人を「長老」と愛称で呼ぶ事を崇は心で決めていた。そしてこの年齢でFacebookをしている事に少し驚いていた。


何はともあれ、こうして役者は出揃った。

大きな格闘技団体が大手芸能プロダクションなら、グングニルは個性派俳優の集まった劇団といったところだろうか。

舞台は完成し演者も決まり、ようやく開演準備は整った。


こけら落としの時は刻一刻と近付いていた。

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