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格パラ  作者: 福島崇史
30/169

会見1

全ての試合が終わり、観客達が次々に帰って行く。

皆、口々に試合の感想や見解を述べている。

感動と興奮の余韻を引き摺りながら帰路につく人々。

そんな中で崇と優子は未だ席についたままだ。

会見の準備が整い次第、席へ迎えが来ると聞いていたからだ。

30分も待ったであろうか、、、

観客の姿は殆んど消え、スタッフが会場の片付けを始めた頃、2人のもとに迎えが現れた。


「大変お待たせして申し訳ありません。準備が整いましたのでどうぞこちらへ」

慇懃紳士、、、大作父である。

通されたのは先程と同じ、大作の控え室だった。

テーブル代わりの長机が置かれ、その手前にパイプ椅子が3脚。

その真ん中の椅子には既に大作が陣取っていた。

2人が入室すると

「おぉっ!来た来た!こっちこっち♪」

と自分の両隣の席に着席を促す。


長机を挟んだ向こうにはマスコミ用のパイプ椅子が用意されているが、そこはまだ無人のままである。

既に私服に着替えニコニコしている大作。

しかしその顔は所々が赤く腫れていた。

着席して開口一番


「結構打たれたな、、、」と崇


「ヒヤヒヤさせて、、、もぅっ!!」と優子


「いやいや、まずはおめでとう言うてぇな!」と大作。


そんなやり取りをしているとスタッフが数人入室し

「記者さん入られます」と告げた。

場に慣れぬ崇と優子に緊張が走る。

その声と同時に10人程の記者がぞろぞろと入室し、大作達の前へと着席した。

各々ボイスレコーダーやカメラ、メモ帳を手にしている。


進行役らしきスタッフが会見の開始を告げ、ハンドマイクを大作に手渡した。そもそもマイクを使うような広さでも人数でもない。当然の如く大作は、それを使わずに話し始めた。


「えぇっと、、、今日はお集まり頂き誠にありがとうございます。ご存知の様にこの度グラップスを退団する事になりましたので、ご報告させて頂きます。今後は自分の団体・ジムを持つ事となります、、、」

そこまで一息に言うと、少し困り顔になり頭を掻いた大作。


「えー、、、質疑応答って形でも良いっすか?自分で開いといて何んやけど、こういうの苦手なもんで、、、」

部屋が笑いに包まれる。そのお陰で崇と優子の緊張も幾分か解れた。


一人の記者が手を挙げた。

大作が視線で「どうぞ」と促す。


「そちらのお2人は?、、、」

その記者は、恐らく全ての記者が知りたいであろう事を代弁した。


「あっ!じゃあ俺の口からじゃなく、自己紹介して貰いますわ!!」


「、、、!!」と崇


「、、、!!」と優子


そんな話は聞いていなかった。寝耳に水である。

驚いてお互いの顔を見合わせる2人。

するとその中央でニヤニヤと悪戯な笑顔を浮かべる大作が嫌でも目に入った。

(後でシメる)と崇が誓う。

(後でコロす)と優子が誓う。


先にマイクを渡されたのは優子だった。

(え?私が先?、、、まぁ当たり前か、、、)

優子が覚悟を決めた。


「えー、、松尾優子と申します。この度独立する大、、いぇ福田選手のサポートをさせて頂く事となりました。主に広報などを担当するかと思いますので、皆様とは接点も多いかと、、、どうぞお見知り置きの程、宜しくお願いいたします」


重度の人見知りとは思えない立派な挨拶、、、どうやら仕事絡みだと割り切れる様である。

流石は元OLといった所か。感心している崇にマイクが回って来た。

咳払いを1つ、、、


「えー、只今ご紹介に、、、あっ!!預かってませんでしたね、、、すいません、つい定番の台詞を、、、」

うけ狙いでは無く、素でボケてしまった崇だったがそれが功を奏して予想以上にうけている。

笑い声が落ち着くと、顔を赤く染めた崇が続けた。


「なんか、すいません。では改めて、、、福井崇と申します。この度、福田選手から目指している事があると聞き、その内容に賛同しましたので、手伝わせて頂く運びとなりました。宜しくお願い致します」

無事に(?)自己紹介が終わった所で質問が飛ぶ。


「えー、、、今、目指している事という言葉が出ましたが、それについてお聞かせ願えますか?」


勿論それに答えるのは大作である。

「えっと、まだ細かい事が決まってる訳では無いのですが、、、」

そう前置きして、今後のビジョンを話し始めた。


「まず団体名ですがグングニルになる予定です。そして団体の方向性は2つ、、、1つはロストポイント制ルールの復活。今後はバーリ・トゥードは殆んど行わず、あれをメインに活動して行きます」

記者の間でどよめきが起こる。


「それはまた何故?」


「あのルール、スポーツ格闘技としてこの上なく素晴らしいと思うんです。それにバーリ・トゥードより一般の人が始め易いと思うんですよ。そして何より、、、俺が好きなんですわっ!」

笑いが起き、また場の空気が和んだ。

それを見て満足気に大作が続ける。


「もう1つは、少しデリケートな話になりますが、、、

障害や病を抱えた方々にも格闘技が出来る場を、、、と、そう考えています」

先より更に大きなどよめき。それがおさまるのも待たずに大作が更に続けた。


「こちらの福井崇さん、、、実は脚に障害を持たれてます。

元格闘家ですが、障害によって格闘技を諦めた方です。そんな彼だからこそと思い、障害部門のトレーナーを無理言ってお願いしました」

勿論、崇が格闘技を諦めていた本当の理由には触れなかった。

未だざわめきの続く中、一人の記者から声が飛ぶ。


「えっと、福井さん、、、障害部門の展望について、お考えを聞かせて下さいますか?」


崇は1つ頷くと自らの想いを語り始めた。


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