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格パラ  作者: 福島崇史
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白い壁

仕切り直し、、、両者が立ち上がり構えを取る。

お互い先と同じ構えだ。

ルークが左のジャブから右のローキックを放つ。

開始時のそれとは違い、本気のローキックである。

しかも人間が一番反応しにくい対角線の攻撃、、、

左の上段から右の下段という基本ながらも嫌らしい攻撃だ。

濡れタオルで何かを叩いた様な音が響く。


ほんの一瞬、コンマ何秒、、、大作の顔が歪んだ。

しかし直ぐに(効いてないぜ)とばかりに笑顔で首を振る。

ある意味、格闘家は役者でもある。

効いていても、それを相手に悟られぬ様に演じなければならない。


不意に大作が両腕を高く上げ、万歳の様なポーズを見せた。

(どういうつもりだ?)

そんな表情で大作を見るルーク。

すると大作が、左手で自らの右脇を2度叩いて見せる。

挑発である。

蹴ってみろと言っている。

俺の関節技が怖くないなら、もう一度ここを蹴ってみろと言っているのだ。

このタイプは挑発したなら乗ってくる、、、そう考えての作戦である。

ルークが呆れた様な笑顔で小さく首を振った、、、

が!その刹那 鬼の形相に変わり、渾身の力で左の蹴りを放つ。


(やっぱ乗ってきた!)

大作がその蹴りを捉えにかかる。

ところがその時、ルークの足が視界から消えた。

ミドルキックと見せて、途中で軌道を変えハイキックを放ったのだ。


「!?」

その瞬間、大作の視界いっぱいに白い壁が現れた。

(あれ?邪魔やなぁ、、この壁、、、)

大作はそれを押してみる、しかし壁はびくともしない。

(アカン、、、動かへん、、、ま、えっかぁ、、、で、俺何してたんやっけ、、、)

まどろむ様な意識の中で考える。

その時、遠くから声が聴こえて来た。


「スリー!」

(?、、、スリー?)


「フォー!」

(、、、?)


「ファーイブ!」

(!!!)

ここで意識が鮮明になった。


(俺、倒れてるやん!)

大作が壁と思い押していた物、、、それはリングの床だったのだ。ようやく自分がダウンした事を理解した大作。


「シックス!」

(ヤバイ、、、ヤバイ!)

カウントアウトまで半分を切った、、、焦燥感に駈られるが身体が言う事を聞いてくれない。


「セブーン!」

(動けって!踏ん張れ!俺の足!)

自らの肉体への応援、そして懇願、、、


「エーイト!」

「$¥+&〜〜!!」

言語では無い物を口から吐き出し大作が立ち上がる。

先程まで全く動かなかったのが嘘の様に、、、

それは恐怖の為せる業だった。

こんな事で楽しい遊びが終わってしまう事への恐怖、、、

ただただシンプルな感情が肉体を動かしたのだ。

慌ててファイティングポーズを取り、続行の意志を示す大作。


レフリーが目を見て、わかりきった下らない事を訊く。

「やれるか?」

(当たり前やっ、、)

口には出さず無言で頷く。

「ファイッ!」

試合再開である。

これで大作も1つポイントをロストした。

お互いの持ちポイントはどちらも4である。


大作がダウンした時には会場そのものが悲鳴を上げたかの様な騒ぎとなったが、立ち上がるのを見届けると今度は安堵と歓喜の叫びを上げている。

しかし、立ち上がったとは言えダメージが消えた訳では無い。

ルークからすれば「攻め時」である。

ジャブ連打で間合いを詰めるルーク。

真っ直ぐ下がってしまった大作がコーナーに追いやられた。


「むぅっ、、、」

思わず腰を浮かせ、崇が声を洩らした。

優子の吐く息は震え、同じく震えるその指は崇の服の袖を強く握っている。

しかし視線をリングから逸らす事は無く、それは大作への信頼を示していた。

コーナーで細かい打撃をいくつも貰う大作。

強打やクリーンヒットは無いが、それでもダメージは蓄積する。


(ハハハ、、、ヤバイねどうも、、、)

大作が隙を見て一気に密着した。

クリンチである。

これで数秒は休める、、、

だがルークも易々と休ませるつもりは無い。両腕で大作の顔を押して引き剥がそうとする。


ルークの首に手をかけて必死に堪えた大作だったが、思わぬ伏兵にしてやられた、、、汗である。

ルークの首が大作の手からスルリと抜けた。

2人の間に空間が生まれる、、、


(あ、マズッ!)

頭部のガードを固める大作。

しかしルークはそれを嘲笑うかの様に、がら空きのボディに膝を突き刺した。


腹部を押さえ、しゃがみ込む大作、、、

2度目のダウンである。

これで大作の持ちポイントは残り3。

今度ばかりは優子も目を逸らしている。

巨大な不安が優子に覆い被さる、、、


「大丈夫や優ちゃん。上手いな大作のヤツ、、、」

そう言った崇は笑っていた。微塵の不安も感じていない笑顔である。それを見た優子は不安が安らぐのを感じたが、言葉の意味が解らずリング上と崇を交互に見ている。


「上手いって、、、どういう事?」

「スリー!」「フォー!」

崇の解説を急かすかの様にリング上ではダウンカウントが進む。


「あのダウン、、わざとやで」

そう言った崇の顔には、まだ先程の笑顔が張り付いていた。



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