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格パラ  作者: 福島崇史
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余熱

「水戸、、、修、、、」

崇はその名を何度も口の中で転がした。

それほどまでにあの男が脳裏に焼き付いている。

2月だというのに、崇の脇や背中は変な汗で濡れていた。


基本的に格闘技に於いては赤コーナーが格上である。

つまり佐々木選手が格上、、、弱い訳が無い。

そんな相手に思い切った奇襲を仕掛ける、、、

なかなか出来る事では無い。その胆力が窺える。

しかしだ、もし外していたら、、、そう思うとゾッとする。

今回はギャンブルに勝ったが、諸刃の危うさを感じる一戦でもあった。

結果として秒殺とはなったが、時間の短さが実力差に直結する訳では無い。


「は、早かったね、、、私があんな事言うたからかなぁ?」

優子が唖然としている。

だがそれは試合の展開に対してより、自分には言霊があるんではないかといった驚きに見える。


(んな訳あらへんがな、、、)

そんな心の声が表情に表れてしまった崇。


「何よ、その目、、、?」

不服そうに崇を見ている優子。


「、、、いぇ、何でも、、、」

崇は、すうっと視線を外した。

今の優子と目を合わせる位なら、街でヤクザにメンチを切る方がまだ安全そうである。

するとここで助け船が入った。

リングアナがメインイベントの開始を告げたのである。


「ほらっ!始まるでっ!」

(ありがとうリングアナ)


優子は口を尖らせて何やらブツブツ言っていたが、崇に促されると渋々リングに視線を戻した。

光眩しいあの場所では、リングアナがこの特別試合のルールを説明している。


ロスト・ポイント制、、、バーリ・トゥードを見馴れた今のファンには馴染みが薄いルールだろう。

しかし、グレイシー一族がバーリ・トゥードを持ち込む迄は、総合格闘技といえばこのルールが主流だった

(詳細は第8部 施術前を参照)


バーリ・トゥードとの大きな違いは2つある。

ロープエスケープが認められている事と寝技状態での打撃の禁止である。

たかだか2つの違いと思うかも知れないが、これだけでも闘い方は大きく変わる。


ルール上、マウントパンチは認められない。

その事により、ポジショニングを怖れる事なく積極的に関節技を狙う事が出来る。

バーリ・トゥードでは寝技になると膠着状態になる事が多く、技術に疎い者が見ると細かい攻防が解らず退屈に映る場合がままある。

それに対しこのルールでは、寝技でも動きが止まりにくく派手な展開になり易い。その為に比較的誰が見ても楽しめる事が多い。


ロープエスケープにしてもそうである。

関節技が極まる前に逃げ切れるか、、、

そのスリリングな展開が手に汗を握るものとなり、スポーツ・エンターテイメントどちらの側面から見ても面白いゲーム性を生んでいる。


そしてもう1つ、このルールの優れた点がある。

打撃系・組技系、どちらの格闘技の選手であっても、学んだ格闘技の技術や個性を活かす事が出来るのだ。

バーリ・トゥードではロープエスケープが認められない。

それ故、寝技に自信の無い選手は捕まると逃げれない為、それを怖れて打撃を使うのを躊躇う。

だからこそ打撃の選手は寝技の習得に走る。

すると寝技に対応されてしまった組技系の選手達がボコられる展開が増え、今度は組技の選手が打撃の習得に走る。

その結果、キックボクサーもサンビストも、プロレスラーでさえもバーリ・トゥード用の技術を体得し、個性の無い似たような選手が増えてしまった。


しかし、ロストポイント制に於いてはロープエスケープがある為に、打撃系の選手も怖がらずに打撃を使えるわけである。

つまり打撃系なら、いかに持ちポイントを失う前に相手をKOするか、、、

組技系ならいかにいい打撃を喰らう前にガッチリ極めるか、、、

そんな駆け引きが生まれ、昔の「異種格闘技戦」の様なヒリつく緊張感と、ワクワクする期待感が両立したものとなるのだ。


優子がルール説明を熱心に聞いている。

「理解出来そう?」

気になった崇が訊いてみる。


「うん!個人的にはこっちの方が好きかも!」

そう言って微笑む優子。そしてこう続けた。

「バーリ・トゥード程は喧嘩っぽく無いもんね、、、ハラハラせんで済みそう、、、」

それは単純に大作を案じての言葉だろう。

そう言った優子の顔は女性のそれであった。

無言で頷きそれに応える崇。

しかし、、、

体の奥ではまだ先の試合の熱が残っている。

いや、、、会場全体がそうである。

今から大作がこの熱を更に大きくするのだろう。

行き場無く、燻り続ける余熱、、、

そして、ついにその時は来た。


「青コーナーより、福田 大作選手の入場ですっ!」


大歓声が空気を振るわせる。

無数の足踏みが大地を震わせる。

そうする事で観衆は心を奮わせる。


会場を包むエネルギー、それはもう余熱と呼ぶにはあまりにも無理がある、、、

それほど大き過ぎる物に育っていた。



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