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格パラ  作者: 福島崇史
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質問とウンチクと第一試合

第一試合のアマチュア戦が始まった。

順に名をコールされる選手。自らが選んだ入場曲でテンションを高めながらリングを目指す。

先のセレモニーでは、全選手トレーニングウェアを着用していたが、リングに上がった2人の若武者は見事に仕上げた肉体を衆目の下に晒していた。

身に着けているのはショートタイツとオープンフィンガーグローブのみである。


それを見て優子が意外そうに口を開いた。

「思った程ムキムキと違うんやね」

漫画や映画の影響だろうか、一般的に格闘家=マッチョのイメージが強い。

しかし実際には大きくなり過ぎた筋肉は、格闘技では邪魔になる。

確かに無差別級で闘う以上は、体重がある方が有利ではある。

しかしスピードが落ちる、可動域が狭まる等の弊害も生んでしまう。

当然、体質上の問題等もあり難しいのだが、バランス良い肉体を作るのも選手の大事な仕事である。


「、、、そんな訳やから、ムキムキの選手は少ないで」

崇がざっくりと説明すると

「福さんや大作君は?プロレスラーだってムキムキが多いやんっ?」

と腑に落ちない様子の優子。


「大作のは多分体質やろな。赤筋より白筋が多いんやと思う。だから太い筋肉がつきやすい」


「赤やら白やらワインみたいやけど、、、何それ?わからへん!」

崇は親切心で解説したつもりだったが、どうやら余計に悩ます結果になった様である。


「簡単に言うなら赤筋は持久力、白筋は瞬発力に影響するねん。で、一般的に赤筋は細くて、白筋は太い。」

そこまで話すと一瞬視線を投げ、様子を窺ってみる。


「フムフム」

どうやらここまでは理解しているらしい。

それを確認すると崇はウンチクを続けた。


「マラソンランナーやボクサーみたいに持久力が必要な人は、赤筋が発達しとるから細めの筋肉やろ?逆にプロレスラーや重量挙げの選手は、瞬発力のある白筋やから太いって訳」


「ふ~ん、、、えっと白が、、、どっちやっけ?」


「魚で考えたら覚え易いで。回遊魚のマグロは持久力が要るから赤身、、、ってね。あ、正確には赤は遅筋、白は速筋って言うねんけどな」


「おぉっ!なるほど、マグロさんのお陰で覚えた♪」

なんとか覚えたらしい優子、崇には彼女の頭上にピコッと光る電球が見えた気がした。


「で、さっきの続きやけど、福さんやプロレスラーは何でマッチョなん?」

質問攻めである。崇はそれらに答えながらも、目はサングラス越しにしっかりとリング上を追っていた。


「俺は脚が悪いやろ?だからその分を上半身でフォローしようと鍛えた結果や。プロレスラーは格闘家の中でも特殊でな、、、まず魅せる事と相手の技を受ける事が大前提にある。だからマッチョが多いねん」


「なるほどねぇ、、、ありがと、試合中やのに質問ばっかりゴメンね!」

大して悪いとは思ってない口ぶりで軽く謝る優子。

そのままリングに視線を戻した彼女だったが、今度は試合内容についての質問が始まった。


バーリ・トゥードを初めて見た優子には刺激的過ぎたらしく、マウントパンチや踏み付けを見る度に

「え、、、あれ、ええのん?」

とか

「あれは反則やんね?」

等と訊いて来る。

「何でも有り」というルールに免疫が無い優子、、、

その表情は少々引いている様にも見えた。


第一試合は両者の力と意地が拮抗し長引いたが、16分24秒青コーナーの選手が腕ひしぎ十字固めを極め勝負が着いた。

アマチュアとはいえ、お互いの存在全てをぶつけ合う様な好勝負であった。

グラップスの試合は基本的に30分1本勝負であり、ラウンド制は殆んど行われない。

その為、インターバル無しで長時間戦った選手達は疲労困憊である。

この両選手も暫し大の字になって動けずに呼吸を整えていたが、レフリーに促されると何とか立ち上がった。


ライトの照らすその場所で勝者は手を挙げられ、敗者は歯を噛んでいる。勝敗の現実を突き付ける残酷な時間である。

(悔しかろう、、、)

崇は思う。

1度や2度の敗戦など少しも恥じる必要は無い。

敗けたまま立ち上がらない、、、それこそが恥なのだ。

(這い上がれ、、、)

崇は思う。

別に贔屓するつもりは無いが、立ち上がるのに15年かかった自分と敗者をどうしても重ねて見てしまう。


リング上で健闘を称え合う両者。

笑顔で握手を交わし、笑顔で抱擁している。

だが、2人の笑顔の裏にあるのは別々の感情である。

崇にはそれが痛い程にありありと見て取れた。


「凄いね、、、最初は怖かったけど、途中からは理屈抜きに両方を応援してたよ。細かい技術とかは解らんけど、なんか感動した、、、」

静かに感想を述べた優子。


「そこがスポーツ格闘技の良い所や、怖いで終わらんで良かったわ。理解してくれてありがとう、、、まぁ俺が言う事ちゃうけどな」

昔、格闘技をスポーツとして捉えてなかった崇。

自分で言いながら(どの口が言うとんねん)と思ったが、苦笑いで濁しておいた。


歓声が鳴り止まない。

その事からも今の試合に対する観客の満足度が窺える。

勝者にも敗者にも、平等に惜しみ無い拍手が浴びせられた。

良い第一試合で幕を開けた興行は、その後も良い展開が続く事が多い。

いやがおうにも期待感は高まり、会場が熱を帯びる。

そしてその熱は伝染し、隅々まで広まって行く様だった。


祭りはまだ始まったばかりである。



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