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格パラ  作者: 福島崇史
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「えぇ~!?」

翌日、大作は優子に報告の連絡を入れた。

まさか大作があの日の内に崇の所へ行ったとは思って無かった優子。

大作の話を聞きながら、時に怒り、時に呆れながらも迎えた結末に対しては

「良かったねぇ!」

その一言だけを伝えた。

シンプル過ぎるその言葉は慈愛が凝縮された様な、優しい響きを感じさせるものだった。


「いつもいつも、ほんまありがとうな優ちゃん」

礼を述べた大作がまたお茶に誘おうとした時、それより先に優子が口を開いた。

「近々、時間ある?」


先を越された大作は面喰らったが

「俺も今、それ言おうとしててん」

そう言う事で返事に代えた。

前に会った時に、彼女への感情に気付いてしまった大作には、こんな小さな「以心伝心」が嬉しかった。

そして同じく、大作への感情に気付いてしまった優子もこんな小さな「拈華微笑」を喜んでいた。


そんな2人が会ったのは、それから2日後の夜だった。

今度はファミレスでは無く、エミの店「コモ・エスタス?」である。初対面のエミに礼儀正しい挨拶をしている大作。

優子は思っていた、、、

始まったのはこの店じゃないか、、、と。

自分が墨を入れるきっかけを作ってくれた店であり、崇と初めて会った店、、、そしてその最中に大作から崇に連絡が入り、大作も墨を入れた。

崇と優子が通う店であり、3人が繋がった店、、、それなのに大作だけがこの店を知らない。その事がなんとなく嫌で、優子は今夜連れて来たのだ。


これで自分達の物語の主要人物は皆、繋がった、、、そう思うと優子は満足感と共に不思議な高揚感を覚えた。

席について大作にこれ迄の流れ、この店との縁を説明している時もまだ少し声が大きいままだった。


「そうなんやっ!俺が初めて電話で福さんと話した時、2人がおった店かぁ、、、確かに始まりの場所かもなっ!」

そう言うと、思い出したかの様に言葉を繋ぐ大作。

「あ!それならもう1ヶ所あるで、俺に福さんを紹介してくれた人の店、、、小汚なくて狭い店やけど、今度一緒に行こうなぁ!」


「勿論!行こ行こ!」

笑顔で優子が答える。

2人共、次に会う理由が出来た事が内心嬉しかった。その事が傍目にも判る程に滲み出ている。


(ハッハァ~ン)

全てを悟り、微笑ましく眺めているエミ。

その視線に気付き慌てる優子は、まだ飲んでもいないのに真っ赤になっている。


「なっ、何よ!?エミさん、、、」


「な、何よ!?エミさん、、、やないわっ!来て早々に注文もせんと別の店に行く話してっ!」

強い口調だが勿論怒ってる訳ではなく、むしろ優しさが感じられた。


「あ、ほんまやっ!すいません!」

焦って答えたのは大作である。

「優ちゃん何にする?」

あたふたと手元のメニューを優子の方に向ける。

優子はチラとエミを見ると、小さく頭を下げて恥ずかしそうに微笑んだ。

ウインクでそれに応じたエミは

「ここにもメニューあるからねぇ」

と言いながら上を指差している。

その指の延長線上を目で追う大作。そこには黒板があり、おすすめメニューがチョークで書かれていた。


「試合近いからあんまり飲まれへんけど、、、やっぱ最初はビールでっ!」


「私もビール!」


オーダーを伝票に書きながらエミが言う。

「ピクルスと、エビのアヒージョ、、、やろ?」


「さっすがエミさん!わかってらっしゃるぅ!」

立てた人指し指を振りながらはしゃぐ優子に

「来る度に頼まれてたら覚えますともっ!」

と舌を出して悪態をつくエミ。

そして注いだビールとピクルスを差し出すと、てきぱきと料理の準備に移った。


その様を目で追いながら

「かっこええママさんやね、、、」

と小声で大作が呟く。


「せやろ?憧れの女性やねん♪」

優子も小声で答えた。


暫く談笑していると威勢の良いエミの声が響いた

「おまたせっ!!」

エビのアヒージョが差し出される。

いつもより遥かに大きい耐熱皿に2人分らしき量が入っている。


「え?、、多くない?」

不思議そうにエミを見る優子。それに対しエミは

「サービス~♪」とだけ言って微笑んだ。

それは、恋が始まったらしい、、、そう察したエミから優子への小さな祝福だった。


その後も何品かの料理を頼み、パクつきながら会話を楽しむ2人。先日のファミレスで気付いた感情、それが今夜確信に変わっていく。そしてそれは2人同時進行で加速度的に高まって行った。

しかし2人ともその気持ちを持て余し、どう扱えば良いか戸惑っている、そんな感じである。

2人ともこれまでそれなりに恋は重ねて来た。そのはずなのに今回は、、、

あれだけ行動力に富み、直ぐに動くはずの大作だがこの想いに対しては動けない。それは慎重を通り越して臆病にすら思える。


対する優子、、、

大作はこれ迄に出会った事の無いタイプの男性である。

明るさ、暖かさ、優しさ、、、全てが突き抜けている。

勿論、この感情が恋なのは自覚しているのだが、それ以上に彼の側で力になりたいという想いが強い。

もし恋人になれなくとも、力になって彼を見ていたい、、、

無償とも言える感情に自分でも驚いている。

そして優子は、先日ある決意を固めていた。


(独立した大作を自分も手伝う)

そう決めたのである。そして今日はその事を伝える為に大作を誘ったのだ。


会話の途切れた一瞬の間、それを優子が狙い打つ

「あのさ、、、聞いて欲しい大事な話があるんやけど、、、」

もじもじしながら切り出した優子。

これを見て完全に勘違いしたのが大作である。


(き、来たっ、、、!)

テンパりながら両手を前に出すと

「いや!ちょっ、待って優ちゃん!!やっぱ、そういう話は男の俺から言うべきやと思うねんっ!!ただ、もう少し、もう少しだけ時間ちょうだい!ちゃんと俺から話すからっ!!」

やっとの思いで一息にそう伝えた。

が、、、本人は気付いているのだろうか?実質上、告白を済ませてしまったというその事に。

勿論、優子の決心の事など知らないエミ、固唾を呑んで事の成り行きを見守っている。


最初、大作が何を言ってるのかが解らず、ただキョトンとしていた優子だったが、大作が先走ったという事情を飲み込むといつもの様にケタケタと笑い出した。

今度は大作とエミがキョトンとする番である。

気が済むまで笑った優子はビールで喉を潤すと、1つ意地悪を思いつきそれを実行に移す。

意図的に真顔を作り

「ほんまに?ほんまに近々、、、大作君から言ってくれるん?」

そう訊いてみた。

本物の真顔で頷く大作。本気度を伝える為か、その顔は真剣2割増(当社比率)である。


「マジでっ!?楽しみにしとこっ♪、、、で、とりあえずそれは置いといて、さっきも言ったように話あるねんけど、話して良い?」

そうサラリと言った優子がニカッと笑う。


「、、、え?、、、えぇ~!?」

グラスが割れるんじゃないかと思う程の大声。

軽く仰け反りながら見開かれたその目に映る優子の笑顔、、、

大作に今日のそれは悪魔の笑顔に見えた。


額に手を当て、首を軽く振るエミ、、、その顔には苦笑が浮かんでいる。

自らが犯したミスの衝撃に未だ固まったままの大作、、、そこへ間髪入れずに優子の攻撃が続いた。


「私、手伝うから」


「え、、、?」

言うならばノーガードのテンプルに、フックの連打を喰らった様な感じか、、、大作は言葉を出せずに口をパクパクさせている。しかし優子のターンはまだ続いた。しかも特大のクリティカルヒット、、、

「今日、辞表を出したから」


「、、、えぇ~!?」


エミは知っていた、、、

決意を固めた時の優子の頑固さを。

エミは知っていた、、、

決意を固めた時の優子の行動力を。

「優ちゃん、、、決めたら曲げへんから」

大作の耳元でボソボソとエミが言う。

エミの言葉を聞いた大作は、あまりの衝撃に断末魔にも似た叫びを上げていた。

「、、、えぇェェェェ~~!?」

、、、、K・O、、、、



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