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格パラ  作者: 福島崇史
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飼えない捨て犬

荒田公園、、、そう、大作は崇の所へと向かった。

どうしても今日中に崇と話をしたかったのだ。

良くも悪くも若さ故の行動力と言うべきか、、、


タクシーの中で大作は、色々な会話パターンをシミュレートしてみる。ストレートに話すか変化球で攻めるのか、、、

しかしどのパターンを想像しても良い結果には繋がらなかった。

(やめた、なるようになるわ、、、)

変に策を練らず正面から気持ちをぶつけよう、、、そう決めたのである。それはまるで女性への告白を決心した男の様であった。


荒田公園にはものの5分程で到着した。

色々と想いを廻らせていた分、余計に早く感じていた。

1メーターの料金を払いタクシーを降りた大作は、崇の彫場には向かわずに公園のベンチに腰を下ろした。

おもむろに辺りを見渡してみる。

夜11時過ぎ、、、深夜手前の不思議な時間帯。

所々で犬の散歩やジョギング、体操をしているらしきシルエットが動いている。多くの人が居る訳でも無く、全く人影が無い訳でも無い。人々が1日の生活を締めくくるギリギリの時間帯。

それは1日が動き出す手前の時間帯である、早朝とよく似ていた。

ふと視線を移すと、公園内に無数に植えられた桜が目に入る。

花開くにはまだ少し早いが、それでも確かな春の足音を感じさせてくれる。

(この花が咲く頃には自分は独立してるんやなぁ)

そんな事を考えてる内に大作は不思議とリラックス出来ていた。

「よっしゃ!」

気合いを入れた大作はスマホを取り出すと、電話帳から崇の番号を呼び出した。

しかし、暫くそのまま発信ボタンをタッチ出来ずにいる。

(時間も時間やしなぁ、、、今日はやめとくかなぁ)

弱気が頭をもたげそうになったが、その頭をヘッドロックで抑えつけた大作は意を決して発信ボタンにタッチした。

呼び出し音が響く、、、それはやけに大きく感じられた。

5回目のコールが終わる、、、たった5回のコールの間が、先のタクシーに乗っていた時間よりも遥かに長く感じる。

6回、7回、8回目のコールでやっと崇の声が聞こえた。

「もにもに♪」

崇はいつもこう言って電話に出る。

本人は気に入っているようだが、勿論ちっとも面白くは無い。


「あ、福さん?遅くにごめんなぁ、寝とった?」


「いや、まだ起きとるけど、、どないした?」


大作からこの時間に連絡がある事は珍しい。

崇の声には不安と心配の色が浮いていた。

それを打ち消すかの様に努めて明るく答える大作。


「いや、、、今、荒田公園おるからさぁ、少し話せたらなぁ、、、なんて思てさ。ゴミ棄て場近くのベンチおるから出て来れん?」

明るく言ってはみたが、やはり不自然な事は自覚している。


「、、、何んかあったんか?まあええわ、直ぐ行くさかい待っとれな」

それだけ言うと電話は一方的に切れた。

精一杯に明るさを装ったが、崇の不安を消すには至らなかった様である。

大作は1つ溜息をつき空を見上げてみた。

星が多い、、、都会の空だけに取り立てて美しい訳では無いが、それでも沢山の星が浮かぶ空は妙な安心感を与えてくれる。

「明日も晴れそやな、、、」

そう呟いた時、引き摺るような足音が聞こえた。

脚の悪い崇の足音である。振り返ると缶コーヒーを手にした崇が微笑んでいた。

「ウッス!」

崇はそれだけ言うと、缶コーヒーを1本大作に手渡し隣に腰を下ろした。

数秒間の沈黙の後、崇が大作に顔を向ける。

言葉こそ発していないが、その行為そのものが話を促すものだった。

大作も崇の方へと顔を向け、ニカッと笑うと

「コーヒー頂きますっ!」

そう言ってプルタブを開く。

独特の乾いた音が夜の公園に溶けた。

暫しキョトンと大作を見ていた崇だったが

「なんやそれっ!?まぁええわ、俺も飲も!」

先と同じ乾いた音を響かせる。


2人してチビチビとコーヒーを口にする。

微妙な苦味が口に拡がった、、、その苦味を大作はこの後の展開と重ね合わせてしまったが、慌ててそれをかきけした。

「美味いなぁ、、、」

そう言うと大作は、視線を正面に向けて静かに話を切り出した。


「福さんてさぁ、、、肝心な所で心開いてくれんよなぁ、、、」


「、、、」

押し黙って大作を見つめる崇。

大作はその視線から逃げる様に、自分の顔をポリポリと掻いた。

すると崇も正面の虚空に視線を移し答える。


「何が言いたいねん?」


「福さん、、、もっかい訊くで。ほんまに格闘技に未練無いん?」

一瞬動きを止め、大きく息を吐く崇。

視線を落とし地面を睨んでいる。しかしその問いに答えようとはしなかった。


「ごめんな。でもちゃんと答えて欲しいねん、、、頼むわ福さん、、、」

哀し気な目を向ける大作。

崇はそれを見るのが怖かった。

そして地を見つめたまま

「それなら前に言ったやろ?無い!それに未練以前にやる資格もあらへん、そう言ったはずやっ!話は終わりや帰るど、、、」

そう言うと1度も大作を見ないまま立ち上がる。

歩き出す崇の背中に大作は静かに告げた。


「アカンと思ってんけどな!、、、見てもうてん押入れの中」


背中越しに大作を見る崇、その目には明らかな怒気が込もっている。

だが沸き上がる怒りをおさめる様に大きく息を吸い込むと、再び大作の横に腰を下ろす。そして今度は先の息を吐き出しながら

「どういう事や?」と大作に問う。


大作は1度だけ崇をチラと見ると、先日の事をそろそろと話し始める。大作が話し終える迄、崇は1度も口を挟まなかった。


「アレを見た時、俺ほんまに泣きそうなってん」

その言葉の証をたてるかの様に大作の口調は静かだ。


「ほぅか、、、見てもうたもんはしゃあない。今更責めても始まらんしな。で、1つ訊きたいねんけどな、俺に未練があるって言わせたいみたいやけども、もしそうやったとして、俺に何をさせたいん?で、お前は何がしたいん?」

崇も静かに問う、そこにはもう怒気も感じられない。


「さっき優ちゃんにも話してんけど、福さんと知り合う前から思ってた事があってな、、、」

そこ迄言うと大作は残っていたコーヒーに口をつけた。つられて崇も残りのコーヒーを流し込む。

それを見てから大作が続けた。


「格闘技って障害持った人が活躍出来る場所があらへんやん?それ以前に門戸も狭い、、、せやから俺がそういう場所を作ろう思てる。で、いずれ格闘技パラリンピックみたいなのを開きたい、、、いや!開くねん」

真顔でそう語った大作。


一瞬は驚きにフリーズした崇だったが、冷静になると呆れた様に口を開いた。いや、それは呆れを通り越し怒りに近い感情だった。

「お前に何が出来るねん!?明確なビジョンも無しで、一時の同情心や正義感だけで軽々しい事ぬかすなやっ!」

言っている内に自分の内部で、怒りがどんどん膨らんで行く、、、しかし突き抜けるとそれは悲しみへと変わっていった、、

冷静さを取り戻した崇は静かに、そして諭す様に続けた。


「お前が言うとる事は、飼えへん捨て犬にエサをやる様なもんやぞ、、、それは時に残酷やねん、その事を覚えとけ、、、」


崇の様子から、話す順番を間違えた、、そう感じた大作は話してなかったもう1つの事を口にした。

「ビジョンならある!俺な次の試合で退団、独立すんねんっ!だから自分のジムで障害者の部門を作りたいねん!」


「、、、マジか?」

驚きから、やっとこれだけを口にした崇。

1つ頷くと大作は、心から懇願する様な目で崇を見つめ

「手伝って欲しい、、、福さんに手伝って欲しいねん」

絞り出す様にそう呟いた。

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