表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
格パラ  作者: 福島崇史
168/169

after that ・後編

(、、、、)

2人のやり取りを黙って見つめる崇。

暖かくもあり、申し訳なさそうでもあり、寂しそうでもある。その表情は何と形容すれば良いのか解らない複雑な物だった。


ラグナロクが終わって間がない2月初旬、突然崇を襲ったのは激しい胸の痛みだった。心臓を握られてるような不快感、、、かと言って踞ってしまう程の物では無い。

20分程経った頃、嘘の様に痛みは引き、崇自身もあまり気にせず日常を過ごした。


しかし翌日、それは再びやって来た。

今度は1時間経ってもジリジリと痛みが残っている。

顔は痺れ、肩も痛みで上がらない。

(これは、おかしい、、、)

鏡を見て、己の異様さに戦慄を覚える、、、

顔色は消え、寒さ厳しい中だというのに無数の汗が浮いている。

やむを得ず自ら救急車を呼び、直ぐ様緊急搬送となった。

しかし、、、間に合わなかった。

病院への到着を待たずして、救急車の中で静かに息を引き取った、、、それは眠るようだったと言う。


急性心筋梗塞、、、、急性とはよく言った物で、本当に突然の死であった。それは冗談の様に呆気なく、49日を迎えるというのに、未だ誰一人受け入れる事が出来ずにいる。

当初ラグナロク直後だった事で、大作は自分を責めた。

あの試合の結果が少なからず崇の死に影響したのでは、、、と。

皆の励ましにより、今は自分を取り戻したが、崇の死その物は未だ消化出来ずにいる。


重い沈黙と湿っぽい空気の中、黙々と手だけを動かす2人。

その甲斐あって、ようやく部屋は片付き、これから押入れの整理に移る。

するとあの日、大作が覗き見たあの段ボールが目に飛び込んで来た。

不思議な事にその箱は

「開けてみろよ」

そう自己主張している様に感じられた。

別にこそこそする必要は無いのだが、1度周囲を見渡してからそっと開けてみる。

するとそこには、あの日に無かった物が入っていた。

「優ちゃん、、、これっ!」


(あちゃあ、、、見つかったか、、、)

気恥ずかしそうに頭を掻く崇の姿、それは勿論2人には見えていない。

興奮を隠さず大作が手にしてる物、それは数冊の原稿用紙だった。

片付けそっちのけでページを捲る2人。

そこには3人の出会いが丹念に記されていた。

しかし、この短時間で全てを読める訳も無く、未練を残しながら作業へ戻る事となった。


「フウッ、、、ようやく終わったな、、、」

トントンと肩を叩きながら大作が言う。

「後は明日、、、やね」

首を回しながら答える優子。

明日、箱詰めした荷物を軽トラで、一旦グングニルのジムへ運ぶ手筈となっている。


しかし、先に見つけた原稿用紙、、、

あれだけは持って帰り、2人で読む事にした。

元々、一番最初に読ませてもらう約束だったのだ、崇も怒るまいとの判断である。

「ええよな?福さん、、、」

天を見上げて問う大作だが、当の崇はその直ぐ横で笑いながら頷いていた。


そしてその直後、崇が何かの気配に振り返る。

少し表情を曇らせ、薄い笑顔で呟いた。

(ワリィ、、そろそろ行くわ、、、)

先の気配、、、それは迎え、、、崇の見やったその場所には土田と長老・室田が微笑んでいる。

無言で頷き合った3人が宙に舞いあがった。

後ろ髪を引かれる思いだが、それを絶ち切る為にも崇は2度と大作と優子に視線は向けなかった。

金色に輝きながら天へと昇っていく、、やがて透明になりその姿は見えなくなった。


突然優子がキョロキョロと辺りを見渡した。

「どした?」

大作が問う。

「いや、、、今、福さんが居たような気がしたから、、、」

「オカルトかメルヘンか、、、どっちゃでもええけど、俺もそんな気がしてた。今日1日ずっと、、、」



部屋に戻り、原稿用紙を手に取った2人。

崇の残した小説は思ったよりも長編だった。

その為、2人が読み終えたのは3日後の事である。

そこには3人の出会いから、ラグナロク直前迄の事が、明確という言葉では足りない程、事細かに記されていた。

生前の崇の言葉

「俺達の物語」

その言葉に嘘は無く、まさにその物であった。


「あと少しで書き上げれたんやなぁ、、、」

大作が瞳を伏せる。

「悔しい、、、やろね、、、」

優子が唇を噛む。

「よしっ!決めたっ!!」

突然叫んだ大作に、驚いた優子が顔をしかめた。

「もうっ!ビックリするやんかっ!!、、、まぁ何を決めたかは想像つくけどね、、、」

そう言い終えた優子、大作を見つめるその目はいつもの通り優しかった、、、太陽を仰ぐ向日葵の如く。




・福田大作と松尾優子

この年に結婚し、男児を授かる。

そして「崇」に「史」を足して崇史(たかし)と名付けた。


・鳥居 靖

その後もグングニルに在籍し、長く障害の部のエースとして君臨する。しかし、皆に愛されるイジられキャラは変わらなかった。


・山下 清志

幻肢痛に悩まされながらも、格闘技は続ける。

仕事の都合で岡山へと転勤し、グングニルは去る事となったが、岡山にあるネットワーク加盟の道場に席を置く。


・松井夫婦

人口授精による授かりを目指すも効果が無く、海外での代理出産への依頼なども視野に入れる。

しかし、日本はまだまだクリアすべき問題が多く、飽くまで人口授精での授かりを望んでいる。


・工藤 要

山下が去り、一時期は沈んでいたが、今は鳥居と並ぶリーダーシップを発揮している。

格闘技と並行して色々な障害者スポーツも続けており、そのいずれでも良い成績を残している。


・吉川 悠

崇の死により、再び心を閉ざしたが、藤井の助言により自分を取り戻す。

そして5年後、崇の望んだ通り、藤井と本当の親子になる。


・藤井 一彦

格闘技のみならず、芸術面でも才能を発揮する。

中でも絵画は高く評価され、個展を開くまでとなった。

高校へは進学せず、暖簾分けという形でグングニルから独立。格闘技に限らず、あらゆるスポーツ、あらゆる芸術、あらゆる創作物で障害者が活躍出来る場、集える場として

「ユグドラシル」という団体を立ち上げ、その長となる。


・福井 崇と室田 大二郎

グングニルジムの受付カウンター上に写真が飾られ、そこからと天上から皆を見つめている。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ