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格パラ  作者: 福島崇史
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after that ・前編

ラグナロクが終わり2ヶ月が経った3月下旬。

崇の部屋で優子が愚痴った、、、

「まったく、、、突然やねんからっ!!」

怒気を籠めた言葉とは裏腹に、哀しげな表情で段ボールへと荷物を詰めている。

(ゴメンやで、、、)

申し訳なさそうに崇がはにかんだ。


「しかし、、、あの時と違って荷物増えたなぁ、、、」

狭い部屋の隅々まで視線を這わせ、大作が独りごちる。

そしてその視線は押入れの襖で止められた。

グングニルさえ未だ無かったあの時、、、

そしてグングニル旗揚げの切っ掛けとなったあの時、、、

物が少なく、ほとほと生活感の無かったこの部屋。


あったのはテレビに冷蔵庫にPS3、刺青の道具に僅かばかりの服。

そして隠す様にしまいこまれていた、崇の脱け殻、、、くらいの物である。

それが今はどうだ、6畳という狭い部屋には入り切らず、押入れの中にまで物が溢れている。

あの頃の崇は爪に火を灯す暮らしだったが、グングニルに雇われた事で多少なりとも生活が潤った証と言えよう。

(お前のお陰やで、ありがとな、、、)

静かに頭を下げた崇。


未だ感慨深そうに部屋を眺めている大作、そこへ優子の尖った声が飛ぶ。

「ほらっ!手を止めないのっ!終わらへんでっ!!」

「へいへい、、、そない怒鳴らんでも、、、」

下唇を突き出す大作を睨み

「何か言うた?」

と追い討ちをかけた優子。

「、、、いえ、何も、、、」

強張った笑顔を作り、大作も物を詰め出した。

(ハハハッ!相変わらずやなぁ!)

見慣れたやり取りに崇の頬が緩む。


すると思い出したかの様に優子が口を開いた。

「そう言えばさぁ、、、福さん小説書いてるって言うてたけど、結局見せて貰って無いね、、、」

「そうっ!俺もそれ気になっててんっ!」

我が意を得たりと大作の声が大きくなった。

(ゴメンゴメン、、、あと少しって所で完成してないねん、、、これから腐る程に時間あるから、向こうに行ったら書き上げるわ、、、)

そう言って顔の前で掌を立てる。

立てた掌をダラリと下ろすと

(やっぱアカンか、、、)

呟いたその顔には、寂しさという笑顔が張り付いていた。


「ア~~ッ!もうっ!!」

突然優子が、ちゃぶ台を叩きながら叫んだ。

そして直ぐに俯くと、今度は静かに呟く。

「、、、たくない、、、」

みるみる肩が震え出す。

大作は何も言わず、その肩に手を置いた。

顔を上げた優子、、、唇は震え、その瞳には涙が溜まっている。

「こんな事、、、したくない、、、」

震わせながらも、ようやく吐き出した言葉。

それに頷いた大作が言う。

「俺もだよ、、、」


感情が堰を切り溢れ出す。堪え切れず優子が一気にしゃくり上げた。

それを諭す様に大作が言葉を繋ぐ。

その声は天から降って来たかの様に穏やかで優しかった。

「でもな、こうも思うねん、、、やらせて貰える事は幸せやなぁ、、って」

暫く間を置いて優子が頷く。

大作の言葉は理解出来る、、、しかし目の前に(そび)える現実を、未だに受け入れられずにいた。

そんな優子に大作が更に続ける。

「お母さんが俺達に託してくれたんやからさ、、、ちゃんとやり遂げような、、、」


ゴシゴシと目を擦った優子、未だ声は震えているが、何かを決意した様な硬い表情で答える。

「だよね、、、普通なら私達なんかに託さないよね、、、よしっ!頑張ってやり遂げようっ!、、、遺品整理、、、」


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