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格パラ  作者: 福島崇史
166/169

桜嵐(おうらん)

リング中央で再開の声を待つ2人。

ポイントが並び気を良くした崇は、待ちきれないとばかり早々に構えを取っている。

対する大作は俯いたまま、構えすら取らずに立ち尽くしていた。

「オイ、、始めるぞっ!?」

朝倉の声掛けにも黙って頷くのみの大作、、、

首を竦めた朝倉は不審に思いながらも、声高に試合再開を告げた。

「ファイッ!!」


その声と同時に顔を上げた大作。

両腕をダラリと垂らしたポーズから、いきなり野球のピッチングフォームの様な形で、雄叫びと共に己の右拳を崇目掛けて叩きつけた!

「ウォラァッ!!!」

殆どノーモーションで繰り出された、荒々しきその一撃に面喰らう崇。

ポイントが並んだ事の安心感と慢心、それらがコンマ数秒反応を遅らせた。


「ぬおっ!?」

とっさに顔の前で腕をクロスさせる。

クロスガード、、、その強固な防御のお陰で直撃こそ免れた。

だが格闘技のセオリーを無視した、獣の様な重い一撃は崇を後ずさりさせるに十分な物だった。

先とは逆に今回コーナーに詰められたのは崇の方である。


しかし折角並んだポイントを又奪われる訳にはいかない。

がっちりとガードを固め、コーナーから脱出する機会を窺う。

(来るっ、、、)

衝撃に備える崇に大作が襲いかかった!

何かのスイッチが入ったらしい大作は、太陽の異名とは程遠い表情で両の拳を回転させている。

血走った目を剥き、狂気すら感じるその攻撃は、連打というよりも乱打と呼ぶのが相応しかった。


このままではジリ貧である、、、

下手をすればスタンディングダウンを取られかねない。

しかし焦る崇を更に焦らせる事態が待っていた。

いくらガードを固めたからとて、全ての打撃を防げる訳など無い、、、致命打こそ受けていないが、当然何発かは喰らっている。それが傷を拡げたらしく、再び出血が始まった。

流れ出たそれが目に入り、焦燥感を増幅させる。


(ここまで来て、、ここまで来て止めてくれるなよっ!)

スタンディングダウンとレフリーストップ、2つの不安が崇に凭れかかる中、大作の打撃の回転数が落ちてきた。

肩を上下させ、顎があがったその姿からも明らかにスタミナ切れである。


チャンスと見た崇が打撃の合間を潜り、コーナーからの脱出を試みた。

へたる大作の腕を引き、互いの立ち位置を入れ換える。

すると先まで大作の姿で塞がれていた視界が拓けたっ!!

それは脱出が成功した事を意味する。

(間にあった、、、)

安堵に包まれながら、大作を再び封じ込めたコーナーへと向き直る。

(さあっ!反撃開、、し、、、)

そこで崇の思考は途切れた。

目の前に無数の光の粒が舞う。


コーナーから脱け出したと心の弛んだ崇。

その顎を大作のバックブローが打ち抜いたのだ。

崇が天を見上げ、ゆっくりと横たわってゆく、、、

降り注ぐ照明の光、それらが崇の視界の中で舞い踊る。

それはまるで桜吹雪の様で、、、

朦朧とする意識の中、確かに崇は笑っていた。

(嗚呼、、、桜、、、)

そして崇の眼前に一際大きな花弁が迫った。

やがてそれは視界を塞ぎ、崇を完全な闇へと沈めた。


鳴り響くゴングと横たわる崇、、、

コーナーでは泣き顔の新木が何度も何度も呟いている。

「ゴメンやで、、ゴメンやで兄弟、、、」

最後に崇を包んだ大きな花弁、それは新木の投げ入れたタオル、、、

第5ラウンド・2分43秒、、、試合は終わった。

念願の延長ラウンドには進めなかったが、愛する桜に包まれ、共に散った崇は幸せだったのかも知れない。

ゴングと共に慌ただしく動き出した周囲の人達。

そんな中で未だ横たわる崇の姿は、そこだけを切り取ったみたいで、、、まるで時が止まった様な光景であった。


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